花のある遠景 (東アフリカにて)

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  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791765768

作品紹介・あらすじ

東アフリカの裏町での日常を生きる人びとを優しく見つめる眼差し。輝きを失わない孤高の文化人類学者、西江雅之の原点がよみがえる美しいエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 言語学者の著者が1971年にケニアに滞在したころの紀行エッセイだ。
    その体験に圧倒された。
    スワヒリ語どころか、一部族の言葉であるキクユ語も話せる著者は、貧民の多い集合住宅に下宿したり、近くに住まう売春婦たちと友人になったり(騒ぎを起こした女を刑務所まで迎えに行ったり!)、マサイ族の老人を車に乗せたり、と、当時そんなことをした日本人がいたのかと驚くほど現地に深く関わる。
    しかしどこか一歩引いた目線でその土地や人々を見つめ、親しくはしても完全になれ合いはしない、独特の距離感を保っていて、それがまた素晴らしい。
    言葉は叙情的でありながら現実味があって、彼らの貧しい家の片隅にある暗闇が目に浮かぶような気持ちになる。

    それにしてもケニアの人々の独特の感性には驚き呆れ笑ってしまう。
    深い悪意はなく盗み、なんとなく金をせびり、自分の都合を押し付けて、あっけらかんとしている。そのメンタリティは日本の価値観では測れない。
    文化が違う、生活が違う、ということがまざまざと伝わってくる。

    アブドゥッラという気のいいドライバーとサファリを旅する章が特に好きだ。
    婚約者のいる街に久しぶりに帰ってきたのにたまたま出会った女の子と一晩過ごすことにしてしまうアブドゥッラ。
    教育を受けられず安定した職に就けない、そのことに悩んでいる厳しい面もありながら陽気で憎めない彼とのやりとりに、異国を感じる。

    なんという得難い体験、得難い物語だろう。
    今、東アフリカに行っても同じものはみられないし、同じことは感じられない。

    著者がこんな風に描き遺してくれたことに感謝したい。

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著者プロフィール

1937年東京生まれ。言語学・文化人類学専攻。現在、早稲田大学文学部教授。卓抜した語学の才能に恵まれ、言語調査のフィールドは世界各地に及んでいる。フィールドでは、たんに調査するのではなく、人びとの暮らしぶりに等身大のまなざしで接する経験は多くの優れたエッセイに結実している。『花のある遠景』や『異郷の景色』『東京のラクダ』などはその代表作であり、ほかに『人かサルかと問われても』という半生記がある。

「1999年 『風に運ばれた道』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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