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本 ・本 (700ページ) / ISBN・EAN: 9784791768479
感想・レビュー・書評
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下巻まで読み進めると、「暴力」が人類に内蔵された本能である事を認めざるを得なくなる。聖書には頻繁に暴力が登場し、それを裏付ける。そして明らかに性差があり、男性の性的リビドーや食料を獲得する本能と不可分である事が率直に告げられる。例外はあるが、暴力的なのは男性陣だ。
ほぼすべての哺乳類において、オスという性別は強引な態度をとるようにできていて、通常、オスの性衝動と攻撃性はいっしょに働くのだという。この二つの傾向は中枢神経軸のすべてで絡みあっており、この種の攻撃性の回路は怒り回路や探索回路のすぐそばにあって、強く相互作用している。この探索回路の働きによってオスは別のオスへの攻撃的な挑戦をしていく。
また、男性人口におけるサイコパスの割合は、約3パーセン程度。暴力犯罪者では20パーセントから30パーセントを占める。この症状は部分的には遺伝性である。精神病質は、信じやすい協力的な多数派を搾取するという少数派の戦略として進化してきたのかもしれない。
戦略というのが、本書で何度も語られる「略奪やレイプ」だ。これが暴力の根源的動機としてあり、現代社会では、いずれも「交渉や交換を前提に意思確認の手続き」を踏む抑制が利くように変化してきた。原始的な一方的搾取の形が、相互承認に変化した結果、治安が保たれはじめる。
それこそが「平和」という事だが、しかし、「暴力への郷愁」はこの社会にエンタメとして組み込まれ、そこかしこで擬似体験により、スッキリと自己的に満たせる工夫がされている。
殺人や殺人目撃の代理経験から、強烈な快感を得る。さまざまなジャンルの血みどろの仮想現実。
聖書の物語、ホメロスの叙事詩、殉教者列伝、英雄神話、ギルガメシュ叙事詩、ギリシャ悲劇、ベーオウルフ、シェイクスピア、グリム童話、オペラ、殺人ミステリー、西部劇、ホラー漫画、スーパーヒーロー漫画、各種の映画。スマホゲーム。ゾンビだから良いという詭弁を用いて、欲望を満たしていく。スポーツや狩り、釣りもそうだろう。
搾取のもう片方も、インスタントな恋愛やポルノ、漫画やアニメなどそこかしこの性的消費に組み込まれ、金銭関係の合意による「リアルな交換」まである。至近の覚醒剤を用いたニュースは衝撃的だったが、ああいうリアルがある。
こうした存在は人間の、いや恐らくは大多数は男性の動物的欲望を鎮静化させるためのコンテンツとして必要悪として機能し、その工夫により暴力を押さえ込んできた側面もあるのだろう。知能程度によっては逆に助長する危険もあり、そのため年齢制限をしている。
だが、暴力は完全にはなくならない。それが絶滅を防ぐための装置である以上、通常は抑え込んで生きる人間が大多数だが、制御できない個体の存在や暴走する環境が発生する可能性は皆無ではない。理性的に、戦略的手段として用いる場合すらあるのだ。本書では、こうした暴力の実績、実態、人類の根本を眺め考えさせる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
僕が人生でいつかは読まなければならない大作の一つとして考えていた本書、スティーブン・ピンカー氏の大作『暴力の人類史』を読破した。
本書で論じられる人間の暴力についての数々の考察。
本当に興味深いものばかりだった。
これを読むと、人類は意識や知能の面でも過去の人類よりも進化している(反暴力という面において)と言えるだろう。
本書を読む前にリチャード・ランガム氏の『善と悪とのパラドクス』を読んだが、その中で大きなテーマであった
人類の自己家畜化
という面も暴力の減少には間違いなく寄与しているということも論じられていた。
一つの本を読み、さらに他の本を読み、それらがこのように組み合わさっていくことによって、僕の頭の中でいろいろと化学変化が実現していくこと経験するのは非常に心地よい。
これが本当に『勉強する』ということなのだろう。
やはり、読書は素晴らしいものである。 -
この本は、読書家でも知られらる、ビルゲイツが大絶賛した本です。
著書の深い考察と論理的思考により「暴力は確実に減っている❕」という事実を証明してくれています。
「私達はかつてないほど平和な時代をいきている!」というのは、よく考えるとめちゃくちゃ幸せなことだと思いました。
めちゃくちゃいい本です。
ぜひぜひ読んでみてください -
やっと読み終わった…
著者は自分の考えを詰め込んだなぁってのが読了後の感想かな。
データセットを一通りしがんで自分の仮定の元にまたデータを収集し考察する。
下巻の後半はほぼほぼ自分のフィールドで得意に語るんだけど、心理学教わる定番ではあるのだが、実は再現性もエビデンスもぐっちゃぐちゃなものを専門家として間違ってる事を正しいとして堂々と説明してる。
結局そのデータセット達が虚空になるなら「それはあなたの意見ですよね」になりかねないと読みながら思ってるもんだから、合わせて1200ページの分量よりも128倍読んだような疲労感だった。
まあでも、出した例やデータ郡の中で著者も怪しいと知ってるものについては言及してはいるし、私が本当とされる事例が実は嘘でしたとネタバレしてる知識がそもそも嘘でしたって事もありえるので、私にとって読みにくかっただけです。
ただ、上巻の序盤は凄く面白かった。
著者の言いたいのは「平和化」つまり記述はしてないが「人間の弱体化」みたいな事を言いたいんだろうけど、こっちはタイトル通りの「暴力の人類史」の暴力について知りたい脳で読んでるのでその乖離でも読みにくかったのかな。
短くても良いから導入から面白いと思ってたまま読み終わりたかった-
manndananaさん
こんばんは!
32倍でも、64倍でも無いんですね!
おつかれさまです(^^)manndananaさん
こんばんは!
32倍でも、64倍でも無いんですね!
おつかれさまです(^^)2024/09/23 -
manndananaさん
こんばんは!
32倍でも、64倍でも無いんですね!
おつかれさまです(^^)manndananaさん
こんばんは!
32倍でも、64倍でも無いんですね!
おつかれさまです(^^)2024/09/23 -
もう…ほんと…揮発性メモリだからスタックの上にプッシュで覚えた記憶がすぐにポップしてどんどん記憶から抜けていくから128倍苦労したんですよ!もう…ほんと…揮発性メモリだからスタックの上にプッシュで覚えた記憶がすぐにポップしてどんどん記憶から抜けていくから128倍苦労したんですよ!2024/09/24
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たいていのピンカー作品同様に、一息に読めてしまう秀作。
にしても、邦題タイトルがひどすぎる。
「何を読んでいるの?」と聞かれた際、人に見せると100%誤解を受けた。「残虐そうだね」と。
ビートルズがやってくるヤァヤァヤァみたいな、わけのわからない邦題だ。人間の残虐性みたいなのに訴えかけて、パッと見の興味は惹くのだろうけど・・・・。
The Better Angels of Our Nature: Why Violence Has Declined
本性にあるより良い天使たち:なぜ暴力は減少したのか
みたいな素直な邦題でいいじゃん。。。 -
“暴力は時代と共に減っている”の下巻。600ページを超える上巻同様、下巻も600ページの大作。下巻では暴力を増やすネガティブなレバーと、減らすポジティブなレバーについて語られます。
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下巻はいかに平和な時代になったかというその背景を分析したもの。
心理学の話が多いが、ゲーム理論的に効用の高い平和・平和の戦略よりも暴力が支配戦略だったのが、歴史的な知識の積み上がりやコミュニケーション技術の発達で繰り返しゲームになってきた。とはいえ第一次第二次世界大戦はベキジョウ的な戦争被害の曲線の橋にいるものとして突発的に存在しており、このような事象がなくなることを絶対視もできない。 -
上巻は史実と統計で暴力の減少傾向を詳らかにしたが、下巻は人間の内省に焦点を当てて、理性と本能の変遷を分析している。例えば権利革命での女性含む権利的マイノリティの沽券獲得は興味深くあるものの、上巻の大胆な視点や論法のダイナミズム、優れた発見に比べると見劣り感は否めない。内容も冗長的で600ページも必要だったのかな?と思ってしまった。「内なる悪魔」「善なる天使」も人間の本質を捉えようとし優れた考察ではあるが、あまりに多面的な論点と数多の実証実験を論拠とした展開は「もう分かったから」と食傷気味になってしまう。
章ごとの質の粒度にバラツキはあるものの「暴力の人類史」全体では非常に面白い書籍ではあった。 -
配置場所:1F電動書架A
請求記号:209||P 66||2
資料ID:W0180714 -
下巻の方は、人類がこのように時代を経るに従って暴力を遠ざけ平和になって来たかというメカニズムについて考察している。
しかし長かった! -
下巻では、暴力の誘発要因となる五つの動機(内なる悪魔)と、暴力の抑制要因となる四つの機能(善なる天使)などが著されている。読み応えたっぷりの論考だ。
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世界中で色んな人に読んで貰いたいと思う内容だけに、もう少し無駄部分を省いて、繰り返しを無くして、うまくまとめた内容にしてほしかった・・ 4章から7章はとくにそう思う
現代を生きる人が生物学的に進化してるのかという考察は非常に興味深くて面白い。本書では否定されているが、今後もこのテーマを扱った研究に触れたいと思った
世代ごとの知能指数変化をサンプリングした結果のフリン効果については不知の内容で勉強になった
上下巻合わせてページが膨大なだけに、多数の文献・論文から引用があり、読んだことがある著作などが出てくると嬉しかったりする -
歴史
社会 -
暴力を引き起こす原動力となる5つの要因「プレデーション(捕食)」「ドミナンス(支配・優位性確保)」「リベンジ(復讐)」「サディズム」「イデオロギー(宗教含む)」が、平和をもたらす4つの要因「共感」「セルフコントロール(自己制御)」「道徳」「理性」によって抑制され、世界はかつてない平和な時代だという。この法則が正しいのなら、5つの暴力要因の強烈さと、4つの平和要因がなんとも脆弱で、薄氷を踏むような状況であることに不安を感じる。
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下巻もボリューム満点で読み応えあり。一気に読んでしまうのは勿体無く、それぞれの項目について、じっくり考えながら読まざるを得ない、実に示唆の跳んだ、中身の濃密な著作です。「暴力」をテーマに人間の本性に基づく分析を下巻で徹底的に突き詰めながら、上巻における、その本性が展開してきた歴史を俯瞰し、そして人間が求める「幸福」に一歩ずつ進んでいることを丁寧に証明してでいきます。現代の古典と呼ぶにふさわしい名著だと思います。
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上巻で人類の殺人・暴力が一環して減少していることをデータで示し、下巻では人間の内的要因を進化心理学者として説明している。脳の機能、心理という観点からの説明なので、厳密な因果関係の説明は困難であり、著者の希望的観測もあるが、膨大な文献、資料を結び付けた説明は説得力があったし、知的刺激を大いに受けた。
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現在までに、多くの種類の暴力が減ってきた。なぜそれが実現したか。下巻は心理学・認知科学的な考察。
我々は人類史上最も幸せな時代を生きている。心構えとしても大事だし、実際に統計でそれを示すというのは実に野心的だがデータに説得力がある。 -
面白かった。人類の歴史を通じて、暴力が減少しているというのは非常に興味深い指摘である。ただやっぱり統計の妥当性は本当なの?という点が気になってしまう。全然レベルの違うものを同じ土俵に載せている気がしてならない、というか…。
心理学の知見を歴史学に持ち込めるか、という点も議論があって面白い。日本の歴史学ではほとんどそういう傾向はないけれど…近いものとして、認知考古学があるけれど…。以前神経経済学の本を読んでこれはすごいことだ、と思ったが、歴史にもそういう流れが今後入ってくるかもしれない。そうなったときに、既存の手法をもっている歴史学者は徐々に駆逐されていく…のかもしれない。 -
上下合わせて1300ページを超える並外れたボリュームの本書。これだけの紙数を割いて、今日、我々が暮らす時代は、人類が地上に出現して以来、最も平和な時代であることを主張する。
テロ、紛争、無差別殺人といった悲劇的なニュースで毎日が溢れている現代であるが、それでも我々は最も平和な時代に生きていることを示すため、膨大な量の統計データとともに人類の歴史を振り返る。
暴力性の後退が6つの大きなトレンドに分類して考察されている。
1.狩猟採集から統治機構を持つ農耕社会への移行に伴う「平和化のプロセス」
2.中世後半からみられた中央集権的統治と商業基盤の確立による「文明化のプロセス」
3.ヨーロッパ啓蒙主義によって奴隷制や拷問・迷信などを克服した「人道主義革命」
4.第二次第戦後に超大国・先進国同士が戦争しなくなった「長い平和」
5.冷戦終結後に紛争・内戦・独裁政権による弾圧が低下した「新しい平和」
6.1948年世界人権宣言以降に少数民族や女性に対する暴力が嫌悪されるようになった「権利革命」
著者は特に3つめの「人道主義革命」に注目する。この時代に暴力を見る目を大きく変わったのだ。残虐行為を「あって当然」から「ありえない」へと変容させた人道主義革命。それを駆動した要因が書籍。グーテンベルクによる活版印刷の発明を経て、17~18世紀に出版物は爆発的に増加し、それに伴い識字率も飛躍的に向上。読書により、さまざまな人や場所、多様な文化やアイデアに触れ、人びとの感情や信念に人道主義的要素を吹き込むことにつながっていくのだ。
暴力が減少していく一方で、人間の理性の力と抽象的推論能力は向上していく。2つの力の組み合わせによって、私たちは自己の経験に囚われることなく、広い視野を持ち、暴力回避という選択肢を選ぶことができるようになっているのだ。自身の経験にのみ基づくことが他者との摩擦を増大させ、その後の暴力の呼び水となることは想像に難くない。
今後も平和が続くと予測するものではないが、そうなるのだろうと期待を抱かせる大著であった。
著者プロフィール
スティーブン・ピンカーの作品





