臨床のフリコラージュ: 心の支援の現在地

  • 青土社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791776016

作品紹介・あらすじ

振り子のように揺れつづける心の学問。原理主義なきブリコラージュの思想が臨床の可能性をひらく!社会の風を受けて、心をめぐる理論も極と極のあいだを揺れ動く。そのどちらにも振り切れることなく、一人ひとりの心をそれぞれの仕方でケアするために——。互いに最良の理解者を得た二人の臨床家が、縦横無尽に語り尽くす。

感想・レビュー・書評

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  • 東畑開人(@kaitotowhata) • Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/kaitotowhata?igshid=YmMyMTA2M2Y%3D

    斎藤環(精神科医)|note
    https://note.com/tamakisaito

    青土社 ||心理/脳科学:臨床のフリコラージュ
    http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3867
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ain さんの本棚から

  • 面白かった。
    臨床心理士の東畑さんと精神科医の斎藤さんが
    「心の臨床とはなんだろうね」をいろいろ話し合う本。

    第三章 臨床と物語では「黄色い家」について取り上げて話し合っていたりする。読みながら今まで考えていたもやもやが少しずつ晴れるような気がした。

    心は形がないし、それぞれ悩んでいる人が求めているものも違う。ただ話を聞いてほしい人、ワーク的なものを求めたい人、深くは掘らないけど現実適応できるように対話してほしい人(POSTの本)、こうなったら深く掘ってみたいなどなど。

    心は目に見えないし、求める価値も違う。そして時代のトレンドもあるから、それだけに振り幅が生まれてくるのだと。

    認知行動療法と精神分析の振り子かもしれないし、物語とエビデンスの振り子かもしれない。振り子を揺らす社会からの風もある。

    それらをいろいろ、いろんな学派の心理療法をブリコラージュして、この人にはこういうアプローチが合うかなとか、考える。ブリコラージュと振り子とを合わせてフリコラージュというわけだ。このイメージはもやもやを俯瞰するのに役立った。

    「傷ついた治療者」と「巻き込まれ」についての話も良かった。傷ついた経験が無いのは逆に信じられないと。

    以下引用
    東畑さん
    「巻き込まれるのもそれほど悪いことだとは思っていない。やはりそうならないと心は交わらない。そのうえで、巻き込まれて壊れたり、壊したりするのではなく、巻き込まれていること自体について考えられるようなり、回復していくことこそが治療的。そして、そのために、専門知(例えばフロイトの転移概念)というのは存在していると思う。ですからもちろん巻き込まれたら回復する必要があるのは事実なのですが、まったく巻き込まれないのもどうかと。」


    斎藤さん
    「もちろん巻き込まれて傷つくべき。巻き込まれ、振り回され、罵られて苦労した経験のない治療者は信用できない。そこから自分なりの防衛方法を学んでいくことで1人前になると私は今でも思っている。」

    この考え方にうんうんと思う私は、そこに価値を置いているからなんだろう。
    人によって感想もまたいろいろと思う。もう一回じっくり読んだらまた、違う発見がありそうだ。表紙の絵のどこを見ちゃうかみたいに。

  • 臨床心理と精神医療がそんなに違うものと思っていなかったので、まずその段階から意外に思った。
    同じ心の医者でも、多数の理論があり、時代とともに中心となる治療法も移り変わってきていることを知った。

    この対談の良いところは、お二人がこのジャンルの渦中の医者でありながら、心を取り巻く治療について、その構造を捉えようとしている点だと思う。
    研究者はどうしても自身の取り組む学問について、中を深く掘り下げていってしまって、外観を眺めることが難しくなるような気がするが、自分の師事した理論に拘らず、雑多に知識を集めて、まさにブリコラージュしながら臨機応変に対応していこうという新たな治療の姿勢は本当にすごいと思う。

    心について、今まで本で読んできて、確かに実感できる部分もあったが、心があまりにも日々変わる周囲の状況や、積み重なっていく日常の重みによって目まぐるしく変わるため、そこに対応する難しさを感じてきた。
    しかし、この本を読んで、やはり、その時々の相手をみながら、対応をその場で作り上げることが、必要なんだと理解した。
    ついつい楽をするために、誰かや、自分を公式に当てはめるように、対応の答えを出しがちだが、それは本当には、自分や相手のことを考えられてはいないんだ、と痛感した。
    自分は、すぐ、人の話の先を読んだり、相手を類型化して判断したがる臆病なところがあるので、常に目の前の人と真剣勝負をするようにとはいかないまでも、先入観や偏見で相手をジャッジしないで、話を聞けるようになりたい。

  • 最近の面接では虐待や発達障害など「心を可能にする仕事」が増えて、「心を自由にする仕事」のセラピーは減ってきていて、どちらが高尚だという訳ではなく、それぞれが適した対象を見極めて、必要な仕事をしていくのが大切、という指摘は深く納得でした。

    俯瞰で臨床心理学を見ること、社会の中でカウンセリングをどう位置づけてゆくかが書かれていて、いろいろ考えさせられました。

  • 精神科医と臨床心理士による「心の臨床」
    心の問題に違うアプローチをしている2人の対談なので、読んでる方としては系統立てて捉えることができた

    振り子のように治療の考え方が揺れ、しかし螺旋のように上がっていくという表現に頷きながら読んだ

  • 第一章 臨床と学問——現在地を俯瞰する
    Zoomカウンセリングの現場から コロナ時代の共同性/親密性 「浅層心理学」から捉える 治療文化とエビデンス 精神医学史と心理学史 予防とセルフマネジメント 主体と責任 セルフケアと新たなるケアの対象

    第二章 文化と臨床——箴言とエッセイに宿る知
    統合失調症の時代と「寛解過程論」エッセイというスタイル―臨床の知としての 文化への信頼、歓待の精神 ケアの思想・周縁への関心・バランス感覚

    第三章 臨床と物語——聞くこと、読むこと、書くこと
    物語ることの揺らぎと脱臼 『黄色い家』と時制の問題 心を可能にする仕事/心を自由にする仕事 物語万能主義への疑問 物語・プロセス・構造 〝医学的健康〞の先にある物語 臨床家が物語を語らない/語れない時代 HIJK…「A」! 本当の物語は面接室の外で流れている これからの物語論に向けて

    第四章 社会と臨床——専門性と素人性の振り子
    「ふつうの相談」化する社会 心理学と文化の関係史 発達障害・依存症・ひきこもり 発達障害ブームの「正」の遺産 心の学問のフロンティアを探して 「ただの素人」と「素人性」のあいだ 原理主義との戦い 素人性と専門性の振り子 振り子はこれからも揺れ続ける

  • 一読、面白く一気読み。振子とブリコーラージュをかけた題名。「こころを可能にする仕事」(生存)と「こころを自由にする仕事」(実存)、メタな視点と個人的な視点。いわゆるココロオタクの二人の自由な対談、実に楽しそうな雰囲気が行間よりにじみ出て、読んでるこちらの心も踊る。随所に出てくる参考文献(図書)も役立つ。こころと医療人類学に興味がある人は面白く読めるだろう。

  • 対談で、話題がどんどん発展していくので、まとめるのは難しいけれども、まえがきとあとがきに両氏が記しているように、お互いウマが合って(と簡単にまとめてはいけないが)打てば響くように対話が広がっていくので、内容がわかるわからないにかかわらず、気持ちよくてどんどん読んでしまった。
    いわばオープンダイアローグをながめているような。としたらこれはわたしのリフレクティングなのか。(ふたりの対話であってポリフォニーじゃないからODとは違うとおこられそうだけど)

    ちょうど東畑氏の『ふつうの相談』の元となるエッセイが書かれて、それが論文として発展し、1冊の本になる時期と平行して何度か行われた対談をまとめたものなので、そちらを先に読んでいると納得感が強いかも。斎藤環さんの「オープンダイアローグ」も「ふつうの相談」と同様、必ずしも深層心理まで降りていって深堀りするのではなく、またエビデンスに基づいた原因ー結果ががっちり固められているわけでもなく、けれども実践するとたしかに治っていく人たちがいるという手法。おふたりは臨床心理と精神科というふうに分野は異なるけれども、それぞれの分野の思想や実践の歴史を踏まえたうえで、今、とても近しいところに立っているからこそ共鳴する部分が大きいのだろうと感じた。

    それにしても、精神医学史、臨床心理史からはじまり、文学や映画、アニメと幅広く話題が広がって、互いに投げられたボールを一度たりとも落とすことなくぽんぽんと弾む会話って、はたで読ませてもらうだけでも気持ちがいいものなんだなああ。

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著者プロフィール

斎藤環(さいとう・たまき) 精神科医。筑波大学医学医療系社会精神保健学・教授。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)共同代表。著書に『社会的ひきこもり』『生き延びるためのラカン』『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』『コロナ・アンビバレンスの憂鬱』ほか多数。

「2023年 『みんなの宗教2世問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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