- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794207463
作品紹介・あらすじ
本書は、数奇な運命に翻弄されながら、決してそれに屈することのなかった一人の女性の、波瀾に満ちた半生の記録である。インドの極貧の村に低カーストとして生まれ、わずか十一歳で三十過ぎのやもめと結婚させられた少女プーラン。虐待の末に婚家を追い出された彼女を待ち受けていたのは、村八分、白昼のレイプ、盗みの濡れ衣、取り調べと称する暴行など、いわれのない虐待の限りだった。そんなある日、盗賊団に誘拐され、彼女の運命は大きく変わろうとしていた-。
感想・レビュー・書評
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上下巻通してのレビュー。
ここ最近でも、インドにおいてまだ幼い少女が複数人の男性にレイプされたうえで殺害されるといった、目を覆いたくなるような惨たらしい事件が度々報じられる。そのような事実がなければ本書が伝えるプーラン・デヴィの人生が事実であったとは、にわかには信じがたかっただろう。
下層カーストのマッラとしてインド北部の貧しい家に生まれたプーランからの聞き取りによって伝えられる半生記。わずか十一歳で嫁入りした直後に夫から受けた虐待に始まり、ことあるごとに男たちからレイプや暴力を受け、母譲りのプーランの強気な性格も災いして、逃げ戻った実家の村の有力者からは警察ぐるみで執拗で残酷な嫌がらせや脅しを受け、果てはいわれなき罪で投獄までされ、彼らの差し金によって盗賊に誘拐されるに至る。しかし皮肉にも、家族以外で彼女をはじめて人間として扱い、愛してくれたのはヴィクラムという若く聡明な盗賊のリーダーだった。しかし、盗賊のメンバーとして平和に過ごす日々もつかの間、ヴィクラム一味に新たに加わった男が盗賊団とプーランを不幸に陥れる。
本書で語られるのは紆余曲折を経たのちに投降したプーランが出所するまでである。その後は、国会議員に当選して政界に進出するも、五年後に自宅前で暗殺されることで、その生涯を終えている。まさに波乱万丈といった物語のような人生だが、カースト制度の隷属民として貧しく生まれたために、夫、有力者、警察、対立する盗賊団のメンバーといった男たちに何度となく人間としての尊厳をはげしく毀損され、「いっそのこと、動物に生まれればよかったのに」とも考えた彼女の人生を追体験したい人は、おそらく存在しないだろう。
本書の描いた出来事はわずか40年ほど前に過ぎないが、プーランの過ごした伝統的なインド社会と私の生きる世界との違いに驚かされた。インド憲法のうえでも禁止されているはずの身分差別は隷属民とされる人々の生に大きな影を落としている。富める人は貧しい人々を徹底していじめ抜き、立場の弱い女性へのレイプは日常的で、警察も有力者や権力者階級によって恣意的に運用されることが多く、刑務所内ですらも腐敗し、虐げられた人々は基本的にひたすら耐え忍ぶだけである。
このような状況を見るにつけて連想したのは現実世界ではなく、映画『マッドマックス』や、漫画『北斗の拳』に表されるような世界観だった。本書のヴィクラムやプーランは盗賊だが、富める者から盗み、貧しい者に分け与える「義賊」として描かれている。本書を読むまでは現実に義賊などといった存在が本当にありえるのだろうかと疑わしい気持ちもあったのだが、警察や司法に頼ることのできない世界であれば、法によって救われない人々が、反社会的な勢力として立ちあがり、存在しうると考え直した。伝統的社会の底知れぬ暗い一面を覗きみた思いがする。
「虐げられた貧しい人々と、社会的な弱者である女性の権利の向上を目指す」
訳者あとがきで示される、国会議員になったプーランが掲げた言葉が、為政者としてはありふれたフレーズであるにも関わらず、彼女によって発せられたことで非常な重みをもって迫る。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
インドでの下層カーストがどのような目にあっていたのかについてで、それから盗賊にさらわれるまでの話である。警官も私兵のようなもので、金でどうにでもなることが描かれている。最初から盗賊の話であるかと思っていたらそうではなかった。インドの闇は深い。
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読もうと思って30年近く。偶々除籍本として出会う
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£3 単行本
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1
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上巻。これがたった4、50年ほど前の現実だったなんて残酷すぎる。
感想は下巻に。 -
幼いころから貧困に喘ぎ、公然と繰り返される収奪と差別、警察ぐるみのレイプに虐げられた少女の人生が、盗賊に誘拐されたことから一転。少女は盗賊のリーダーと恋に落ち、義賊となって男達に復讐を果たそうとする…。これがフィクションであったならば、諸手を上げて喝采する大活劇だ。しかし、これは小説ではなく、ごく最近(少なくとも僕は生まれていた時代)に実際に起きた事件の数々だというのだから、手放しでは楽しめない。カースト制に基づく差別と、女性蔑視に起因するレイプの多発は 2015年の現在もインドが抱える問題の一つで、このプーラン・デーヴィーの半生記の悲惨さと壮絶さには、ただただ押し潰されるほかはない。
邦訳の出版は 1997年で、当時のベストセラー。いつか読みたいと思いつつ、早や 20年近く経ってしまったわけだが(プーラン自身は 2001年に暗殺されている)、米原万里の絶賛書評をきっかけに手をつけた。案の定、道を歩く間も読み止められないほどの勢いで一気読み。読み終わって冷静さを取り戻してみると、そもそもが本人の一方的な口述筆記を別の作家が書き起こしたものなので、(ベヘマイー虐殺への不関与など)記述の信憑性は疑わしいし、フランス語の原作を英語から重訳(しかも抄訳)しているので、願わくば全訳を読みたいところなのだが、そもそもこの本に書かれている全てのことが僕の想像を遥かに凌駕しているため、読んでいる最中はまったく気にならずにのめり込んだ。 -
上巻ではプーランが盗賊に拉致されて行動を共にするまでが描かれている。村の差別というのはどこの国にもあるのかもしれない、しかし、近代社会に置いてこれほど酷いものはない。自伝的な告発本である。下巻ではインドのカースト制度という大きな壁が立ちはだかる中、プーランは社会に反旗をひるがえす。ここにひとりの少女の戦いがはじまる。
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実は頂き本。貰ってよかった。
低カーストに生まれるだけで虐待の理由になる。低カーストに生まれるということは、前世で罪を犯しているからだという。
そして、慣習がまたとても厳しい。女性に。詳しい訳ではないけれどこれを読んでいるかぎり、そうみえる。
こういった問題は一朝一夕では解決することはできないけれど、未だ改善されていないのは悲しい。
あまりに衝撃的な内容と酷い虐待と暴力で読むのが辛くなる本。
しかし、どんな環境であろうと慣習があろうとそれにあらがう事の出来る人が生まれて来るというのは、人間の奇跡を感じる。