からくり民主主義

著者 :
  • 草思社
3.53
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794211361

感想・レビュー・書評

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  • うつくしい理想の下で活動が行われていたり、対立や論争が起きている(起きていた)現場に高橋氏が出かけていったルポ集。
    といっても、問題の本質や真相に迫るといった一直線的なルポとはかなり様子が異なり、問題の構図からはみだしたり、タテマエにおさまらない部分にばかり注目してしまうのが、いかにもこの人らしい。少し間違えばかなり嫌味になりそうなところを、ユーモアある語り口でくすりと笑わせながら読ませる。
    そうした持ち味がよく発揮されるのは、「小さな親切運動」や世界遺産になった白川郷、統一教会、上九一色村、自殺名所の青木が原などを扱った章。全体に漂うなんともトホホな感じと、意外に鋭い指摘とのバランスがよく生きている。文献調査もよくされていて、小さな親切運動の主唱者が教育勅語を賛美していたり、熱心なクエーカー教徒だった新渡戸稲造が「武士道」とともに「郷土」をプロモーションしていたという話など、とても興味深った。
    一方、諫早湾干拓問題や沖縄の米軍基地、若狭湾の原発など、激しい対立が起きているテーマでは、いずれも、報道番組のように白黒はっきりつけられない、地域の中の複雑怪奇な関係が浮き彫りにされる。反対派がいてくれるからこそ利権が得られると推進派の人が堂々と言う、なんとも奇妙なもたれあい。だがこうした状況は、地域に対立を押し付けている巨大な国家権力があるからこそ起きていることだ。その点に注意して読まれなければ、「けっきょく、民主主義だとか人権なんてきれいごとを言っても、しょせん利権だろ」という、当該者ではないものたちの無責任さを上書きすることになってしまいかねないのではないか。その点にいささか危惧をおぼえなくもなく、さまざまなテーマを「からくり民主主義」とまとめてしまうことには、なんとなくすっきりしない感じも残る。

  • 語り口が好き。面白い。ついつい声だして笑ってしまう。

  • うーん、これはまったく困った本だ。村上春樹さんの解説のタイトルも「僕らが生きている困った世界」となっている。(解説が村上さんというのも驚きだが)

    高橋さんは例によって、とにかく「現場」へ行って長期間とことん取材する。すると、新聞報道などでわかっていたつもりになっていたことがどんどん曖昧になり、混沌としてくる。

    最初のほうの「小さな親切運動」とか「統一教会」あたりはまだ良かった。「へぇ~」なんておもしろがってた。「諫早湾干拓問題」でその利害の絡まり方があまりに複雑であることに唸り、「沖縄米軍基地」では、自分の単純な思い込みが打ち砕かれ、「若狭湾原発銀座」に至っては、もう何が何だか「これはいったい何なんだ!」と叫びたくなった。

    まったく困る。これじゃあ何が正しいのか、何をよりどころにしたらいいのか、なにもわからなくなってしまうじゃないか。まあ、現実というのはそういうものなのだろうが、それにしても、である。むう、と落ち着かない気持ちを村上さんの解説がずいぶんなだめてくれた。
    「どこかから借り物の結論みたいなものを持ってきて、大言壮語しないこと。そういうのは僕らの生活にとって、すごく大事なことなのではないだろうか?」

  • 掲載誌もテーマも異なる短編(ノンフィクション)を、10作品詰め合わせたもの。
    それぞれの記事の背景にあるものは、複雑にこじれてしまい、もうにっちもさっちもいかなくなってしまった社会問題の現状か。
    いずれも、結論は記されていない。両論併記を配慮した結果というより、現状をありのままに記述したら、そうなってしまったという感じ。読み手が確実にジレンマに陥るであろう、もやもやと霧がかったようなルポルタージュの数々は、まるでテレビの深夜ドキュメンタリー番組を観ているかのよう。
    それでも、本書はおもしろい。論のキレ味の悪さを、着眼点のユニークさでカバーしているからだ。
    なかでも、小さな親切運動、世界遺産の白川郷、若狭湾の原発銀座のエピソードは目からウロコが落ちた。

  • 正しい解決策とか、はっきりとした原因とか、明確な対立とか、そんなものはないのです、ちゃんと調べたら。ありすぎる矛盾や皮肉をうまいひとがまとめると笑いになる。そういう本。

  • 「みんなが主役で、みんなが平等」という民主主義のフィクション性を、丁寧なフィールドワークを重ねて、ゆるいタッチで描いていきます。
    僕が知るなかでもっとも読みやすく、かつ本質をついた民主主義に関する本です。意外や意外、この本の解説はあの村上春樹。素晴らしい解説です。解説から読み始めると、著者との距離がぐっと近づくはず。

    湘南OPAC : http://sopac.lib.bunkyo.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1357377

  •  世の中の複雑さにため息が出る、そんなルポルタージュ集です。

     沖縄米軍基地や福井の「原発銀座」、そして統一教会に上九一色村など、話題の土地に実際に行ってみた著者。勿論著者も、取材前は我々とほぼ同じく、メディアで報道されるような"対立軸"を頭に入っているわけで、その先入観を前提に取材を始めるわけです。
     が、取材を進めるうちに、そこで意外な実情を知ります。

     当事者は、賛成派も反対派も、外から(特にメディアを通して)見るよりずっと冷静で"普通"なのに気づきます。テレビで見るような激しい怒りも、イッちゃった感もなく、肩すかしを食らったような気分にさえなります。
     逆に、メディアを通して「可哀想な被害者だ」と思っていた人の言い分が支離滅裂で訳がわからない、というのもあります。が、ともかく、丹念に当事者の話を聞けば聞くほど、思い描いていたイメージと当事者の像にズレが生じてくるのです。
     そして、話を聞いているうちに、それぞれに言い分があり、それはどれもそれなりに正しく、それなりに変なところもあります。そういう「不完全な正しさ」と、様々な人々の利害得失により、紆余曲折を経た事実経緯。それらの絶妙に危ういバランスの上に組み上がった現状は、さながら崩壊寸前のジェンガのよう。下手に触ると崩れそうで、もう誰も手が付けられなくなっています。

     そんな実情を目の当たりにした著者は、ただただそこで「困り果てる」…そんなルポルタージュです。
     著者の、時にシニカルとさえ思える透徹した視点から描き出される事実の全体像は、確かに「こりゃどうしようもねぇなぁ…」と思わされる複雑さです(わかりやすい対立があって、白黒ハッキリ分かれるようならば、そもそも事態はそんなにこじれないわけですから)。

     ものすごい抽象的な感想になっちゃいましたが、本書のルポは、どうしようもなく複雑な事情を、ある種の「トホホ感」をもって読んでもらいたい、そういう作品だと思います。

     再稼働を巡って対立の激しい原発の問題についても、結論を出す前に是非一度本書の第7章をお読み頂きたいところです。


     議論・討論という奴でとにかく白黒をはっきりつける態度に何かモヤモヤするモノを感じる、という方。本書を読んで一緒にモヤモヤしましょう(笑)。
     でも、白黒キッパリつけるにせよつけないにせよ、心の何処かでモヤモヤを抱き続けるというのは大事なことだと思います。やっぱり、世の中はそんなに単純なのじゃないですから。

  • 2012.3.4読了。

    この世に結論はない。社会に答えはない。白黒はっきりさせずに、グレーの中を漂うのが大人なのかもしれん。

  • メディアには現れない、生身の人間のゴワゴワ、ザラザラした手触りの暮らしと、人間の集合体としての「世間」や「みんな」が帯びてくる「体質」の不可思議さに切り込む。そのニュートラルな分析眼と伝える筆の力たるや、希有な才能をお持ちだ。そして、批判的になるとき一段上の位置に上がったりしないのだ。きっと優しい人なのだろう。文章も難しく堅苦しいところがなく理解しやすい。真剣な話題だと思って肩に力が入って読んでいると、なんか脱力しちゃうことが多い。

    「おすもうさん」を読んで、炸裂する高橋秀実節の魅力に惚れた。次に「痩せれば美人」を読んで膝を打ちまくった。今回のこれが3冊目で、ここに「私はファンです」宣言したい。
    http://big-river.cocolog-nifty.com/blog/2011/11/post-f6c7.html

  • ななめ読み.情けないことに,私はここに取り上げられているほとんどの話題に興味がない(わかない)のだった.読む本を間違えた.

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著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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