ダマして生きのびる 虫の擬態

著者 :
  • 草思社
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本棚登録 : 52
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794225801

作品紹介・あらすじ

著者は2021年の夏に兵庫県の伊丹市昆虫館で
オンラインにより「昆虫の擬態」についての講演を行った。
本書は好評だったこの講演をもとにまとめられたものである。

著者は昆虫写真家として50年ぐらいのキャリアがあるが、
そのテーマの一つが世界のいろいろな擬態昆虫の写真撮影である。
その成果は『昆虫の擬態』(平凡社、自然写真協会賞)ほかの写真集にまとめられている。
本書はそれらの中から選りすぐりのカットを採用して長年の活動の成果を見せてくれる本だ。
またQRコードをところどころに付してあり、著者の作った昆虫の精細動画を見ることもできる。
昆虫の「擬態」という不思議な生態に触れるのに、本書ほどの格好な入門書はないだろう。

擬態は英国の博物学者でダーウィンなどと同時代のベイツなどにより発見された現象である。
植物の葉(コノハムシ)、枝や木の皮(カレエダカマキリやナナフシ)、
花弁(ハナカマキリ)などに擬態(そっくり真似る)することから始まり、
強い虫(アリやハチや毒虫)のカタチや模様を真似するもの、ヤママユ蛾などのような
ビックリするような色彩やメダマ模様を隠していて触れると
突然それを見せて威嚇するものなど、何種類かのパターンがある。
現象としては明らかだが、それがどのように進化の過程でその昆虫に備わったかのかは、
実は今日まで完全に解明されたわけではない。
本書の25ページにあるムラサキシャチホコの枯葉が丸まったような形態など、
だまし絵の画家が描いたような見事さであるが、ではなぜ人間の目に
そのように見えるのかは(見える必要があるのか)はよくわかっていない。
本書のまえがきで著者は「鳥の目、虫の目、ダマす虫」という一文でこう書いている。

「昆虫たちはどのようにして、擬態を進化させてきたのだろうか。
――昆虫が身を守りたいのは捕食者からである。
――そのなかで優れた視覚を持ち擬態の効果があるのは鳥類である。
つまり昆虫の擬態や威嚇は鳥に向けて開発されたものなのだ。
それでは鳥には昆虫はどのように見えているのだろうか。
――ともかくも擬態を考える上で、人、鳥、虫の3者の関係を考えることはとても重要なことだ。」
「――なんだか不思議な姿をした昆虫がいるなと思ったら擬態を疑い、
それが何の真似をして、どんな得があるのか。また誰がだまされているのかを考えてみるのは面白い。
この3者の関係に気づけることが、生物進化が起こした『自然のだましあい』という面白さを体験する醍醐味だ。」

自然を考えるためのヒントとしてこの「擬態」現象に着目してみる、その入門書として作られている一冊だ。

感想・レビュー・書評

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  • 擬態する虫たちの美しい写真に解説を添えた本。何故ここまで複雑かつ精巧な模様を獲得出来たのか、正に自然の神秘といえます。ムラサキシャチホコの羽は丸まったようにしか見えません…これほど美しいトリックアートは他に無いでしょう。

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1408906

  • なかなか面白かった。

    人によっては、気持ち悪いと思うかもしれない。

    ジンメンカメムシは、伊丹の昆虫館でも見たことがある。

  •  ただ「感動」の一言です。正直、人間よりはるかにすごいと思いました。海野和男「ダマして生きのびる虫の擬態」、2022.6発行。虫に喰われた葉っぱの姿、コスタリカのツユムシの仲間、ビックリ仰天しました! 

  • いつもの事ながら虫の擬態には驚くばかりですが、それにも増してこの擬態の虫を探して写真に撮るのはどれだけ忍耐力がいる事だろう。どの様に探し出すのかにも興味があります。子どもたちに一度は手にとってこの不思議を見てもらったらきっと海野さんの後に続く子が出てくると思います。

  • ダマして生きのびる 虫の擬態

    著者:海野和男
    発行:2022年6月6日
    草思社

    昆虫写真家による昆虫の写真と文。紹介している昆虫は、生きのびるために擬態をするものたちばかり。日本やアジアなど、世界で本人が撮影してきた写真。この人はいろいろな昆虫を自身のサイトで公開しているが、同時に動画もYouTubeで公開しており、本にはスチル写真で紹介した昆虫の動画もQRコードで案内しているので、とても興味深い。

    擬態というと、姿形を周囲に似せて隠れるパターンを思い浮かべがちだが、それだけではなく、突然変化して相手を脅す(翅を拡げるとでかい目ん玉が出てくるようなガ)、毒のある昆虫のふりをする、ベビに化ける、匂いを似せる、死んだふりをする、硬くて食べられない虫に見せかける、などいろいろなパターンがあるようだ。

    一方、擬態の目的は、鳥などの天敵から身を守ることと、待ちかまえて捕食することと、主に二つ。

    最もお馴染みなのが、葉っぱに紛れる擬態。この本でも、木の葉そっくりのコノハムシやコノハチョウの写真が一番多い。どの写真も見事。単純に葉っぱの形や色をしているだけではなく、部分的に茶色く枯れたり、虫が食ったような穴や欠けがあったり。そんな擬態しているコノハバッタが、葉っぱを食べている写真もある。葉っぱが葉っぱを食っているように見える。

    コノハチョウは、翅を閉じている時には葉っぱに似ているが、開いている時は鮮やかな色彩や柄を誇っていたりする。時に隠れ(潜み)、時に引きつけようという作戦か。

    コノハムシに関して、葉への擬態をするのはメスだけとのこと。オスは腹部も細く普通の細い虫。メスは擬態で飛べないので、オスが飛んでいって交尾をする必要があるからのようだ。

    著者が日本一の擬態の巧者だとするのは、ムラサキシャチホコ。普通の葉っぱの上に、茶色く枯れて丸まった葉っぱが乗っていることがあるが、あれが実は擬態だということも。動画がアップされている。
    https://youtu.be/QF-V23HnPLI

    木の幹にとまり、同化しているかのようなムシの擬態も見事。木の表面のでこぼこはもちろん、表面に生えている緑色のコケまでムシの翅にあって、完全に一体化している。中には巣をつくらず、そんな状態で2年ぐらい捕食して生きるムシもいるとのこと。バラの茎にとまって擬態するキエダシャク(ガ)の幼虫は、自身の体にもバラのとげのようなものがあり、まるでバラの茎。

    写真撮影はさぞ大変だったと思われる。まずは見つけるのが大変。見つけても、撮影がこれまた大変だろう。本にして見せるからには、よく見ればムシがどこにいるか分かるように撮らないといけない。さすがは昆虫写真のプロという作品が多い。

    地面や砂に溶け込む擬態、鳥の糞そっくりに擬態して身を守るムシ、強い昆虫の真似をする擬態(刺さないハナアブがハチのように見せるのが一例)、毒のあるホタルを真似る擬態、お互い真似合って集団で身を守る擬態、アリに化けるカマキリ(アリの方が毒を持っている)。中には、ヘビに化けるツマベニチョウの幼虫もいる。天敵である鳥の天敵に化けて身を守るという。

    死んだふりをする擬態は、芝居というより筋肉が硬直して動けなくなるのが原因らしい。何時間も動かないムシもいるとか。また、木の枯れ枝に似せるナナフシでは、触ると落ちて体が硬くなり、本物の枯れ枝みたいになる一方、ちぎれた足はヒクヒク動くという。天敵の気がそちらにいくように仕向けているというのが著者の分析だ。

    ハナカマキリは、花に化けてチョウやハチなどをおびき寄せ、捕まえて食べてしまう。なかなかすごい動画がアップされている。
    ハチを捕まえるハナカマキリの動画
    https://youtu.be/_h2oEubPOcE
    https://youtu.be/H_2VbXOzCF4

    色々あってあきないが、個人的にはジンメンカメムシというのが気に入った。時代劇か相撲取りのようなカメムシ。スチル写真が下記にアップされている
    https://www.goo.ne.jp/green/life/unno/diary/200606/1484878126.html

    *その他、動画

    ムラサキコノハチョウの羽化
    https://youtu.be/A0sp9rwrhq0

    ムラサキコノハチョウの飛翔
    https://youtu.be/dE7qx3xerys

    ムラサキシャチホコの動画
    https://youtu.be/QF-V23HnPLI

    ヒシムネカレハカマキリの動画
    https://youtu.be/JLhPm7DGmJo

    ハチを捕まえるハナカマキリの動画
    https://youtu.be/H_2VbXOzCF4

    チョウを捕まえるハナカマキリの動画
    https://youtu.be/_h2oEubPOcE

    コケヒラタツユムシの動画
    https://youtu.be/_NUTaM8qCns

    コマダラウスバカゲロウの動画
    https://youtu.be/-Zam7-Nl_Lc

    ニセハネナガヒシバッタの動画(砂に溶け込む)
    https://youtu.be/hMq85zUT_mE

    トラフヤママユの威嚇
    https://youtu.be/UAgLWM2u7HE

    メダマヤママユ
    https://youtu.be/lBs2_ICWsd4

    ユカタンビワハゴロモ
    https://youtu.be/IzD78EnpHzs

    偽の顔 ウシロムキアルキ
    https://youtu.be/zA1UH61X_18

  • 請求記号 486.1/U 76

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著者プロフィール

海野 和男(うんの・かずお)
一九四七年東京生まれ。東京農工大学卒。昆虫写真家。『昆虫の擬態』(平凡社)で日本写真家協会年度賞。『世界のカマキリ観察図鑑』『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』『蝶が来る庭』『ダマして生きのびる虫の擬態』(いずれも草思社)ほか多数。公式ウェブサイト「小諸日記」を運営。

「2023年 『ファーブル昆虫記 誰も知らなかった楽しみ方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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