われらはみな、アイヒマンの息子

  • 晶文社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (180ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794967077

作品紹介・あらすじ

ナチスドイツのユダヤ人大虐殺の責任者と目されたアドルフ・アイヒマン。本書は、その息子クラウスにあてた哲学者の公開書簡である。今日、世界中が最大の成果と効率をめざし、人々は経済活動に駆り立てられている。世界がひとつの「機械」になるとき、人間は機械の「部品」となり、良心の欠如は宿命だろう。かつてアイヒマンは、「自分は職務を忠実に果たしただけだ」と言った。はたしてわれわれにアイヒマン的世界から脱け出すチャンスはあるのだろうか?だれもが「アイヒマン」になりうる不透明な時代に輝きを放つ、生涯をかけた思索。

感想・レビュー・書評

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  • ユダヤ人大量虐殺の責任者とされたアイヒマンの息子にあてた哲学者の公開書簡。

    結論から言えば、良心のかけらもなく(と思われている)粛々と大虐殺のGOサインを出し続けたアイヒマンに、現代の私たちは誰でもなりうるということです。


    裁判で絞首刑となったアイヒマンは極悪人でありその冷酷無比さゆえに大虐殺が行われた、という歴史がつくられたことに対して、本書では、そうではなくナチスドイツの単なる歯車だった、極悪人でもなんでもなく凡庸な人間だった、といっています。

    歯車であるということ。それは最終的にどのような結果が生まれるのかについて想像しない、つまり結果に対して「無関心」。
    「無関心は為政者への静かなる賛同である」というレーニンの言葉がありますが、私は想像することを放棄した人の罪ほど重いものはないように思います。

    無関心でもその結果には責任が発生するはずですが、自分の目の前にある「やるべき事」とされていることだけをやればいいと思っていると、この責任の意識を持つことが出来ません。ゆえにアイヒマンも「命令に従っただけ」と責任を認めることはありませんでした。
    それどころかアイヒマンは「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」とおよそ感情を備えた人とは思えない主張をしていました。

    感情をもたず、やるべきことをやるだけではもはや機械となんら変わらない。機械の歯車としてのみその存在意義があるという状況は「高度に組織化された現代社会において組織の中の歯車として働かなければならない現代人は、潜在的にみなアイヒマンになりうる」という本書の主張につながります。


    「過去に現実に起こったことは、それが起こったさまざまな前提条件が根底から変えられない限り、今日でもなお、あるいはふたたび起こりうる」

    過去から目を背けたり、覆い隠してしまうのではなく、正面から向き合う勇気。そして「考える」という行動を決して放棄しないこと。

    これらなくして、世界がどんどん一つにつながっていっている現代においてよりよい未来を作ること(そのために行動すること)はできないと思います。

  • 人間型の人間について想像することの大事さを改めて感じる。
    人は、そして社会は、過去の自分たちの過ちについて、昨日より今日、多くを忘れる。
    人間性の脆さを心にとめて、想像することを止めないで、そして自分たちの社会がたどってきた道のりについてもっと学ぼうと思った。

  • アーレントの夫のG・アンダースがアイヒマンの息子に宛てた公開書簡。全体主義、世界の機械化、想像力の限界、等々。

  • 責任について考える。責任=応答可能性の連鎖のなかで、無-責任など、果たしてありえるのだろうか。アレントを引き受け、その矛先はわれわれに向けられる。
    ボランティアK

  • 私は悪人たちと戦っている。だから私は悪人たちを憎む。だから悪人たちは存在するのだ。私はあるものと戦っている。だからそれは存在するのだ。
    未来に対する不安、そもそも歴史は止まらないで進んでいくものだということに対する不安に駆りたてられるならば、ヒトラーやアイヒマンの恐怖政治体制が崩壊しても死に絶えなかった根を掘り起こさなければなりません。その根は、あらゆる特殊な歴史の根よりもはるかに深く達しているので、恐怖政治体制が崩壊しても死滅しなかったのかもしれません。

  • 大人のための、この夏読みたい1冊に推薦します。ホロコーストは決して現代の私たちには無関係の昔話ではありません。

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