ドレの神曲

  • 宝島社
4.22
  • (33)
  • (30)
  • (12)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 376
感想 : 35
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784796675499

作品紹介・あらすじ

14世紀、ルネサンスを喚起したダンテの『神曲』は19世紀、ドレが挿画本にすることで視覚芸術に革命を起こした。スーパースターの共演が、現代のルネサンスマン・谷口江里也の言葉を得て21世紀のいま、時空を超えて蘇る。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 古典を読むにはこのくらいのライトさが有難いです。かなり意訳された本文もさることながら、ドレの素晴らしい版画の数々が視覚的に理解を助けてくれます。
    本作は700年ちかく前にダンテによって書かれたものですが、それ以前は地獄や天国という概念のみが存在するだけで、ダンテが本作で表現したような具体的なイメージは存在しなかったのだとか。その解釈の余地の広大さが近代以前の人々を魅了した宗教たる所以であるのかなぁとぼんやり思いました。そしてそれから500年後、ドレがダンテの作品を版画によって視覚化するのです。

    漫画「鬼灯の冷徹」は私のとても好きな作品ですが、そちらに描かれている日本の地獄とダンテの描いたキリスト教の地獄はかなり趣が違うようです。煉獄はおそらく日本にはないし、キリスト教の地獄はかなり大雑把にまとめられているような気がします(笑) 日本の地獄は272もあり、罪の種類もかなり細かくカテゴライズされていて、もはや今はそんな罪ないんじゃ、、、みたいな現代に対応しきれないような地獄もあります。かなりシステマチック。
    キリスト教の地獄は、(本書は意訳版なので省略されているのかもしれませんが)罪の分類が少なく、責め苦も日本の地獄に比べたらちょろそう、、(笑) ただこれもダンテが初めて具象化したってことなら納得です。

    私が本作で一番好きだったのは、この部分。
    「蜂はどんなに遠くへ行き、花の中にもぐりこみ向きを違えて出てきても、誰にも教えられることなく、おそらく考えることすらせずに、一直線に巣へと向かう。渡り鳥が故郷を目指す、流れを超えて川を上る魚は決して誤ることがない。おそらく人間にとって愛とは、そうした初原の力なのだ。」
    そうであれば、良いなぁ。

  • 恥ずかしながら、学生時代に2回も挫折したダンテ(1265年~1321年)の「神曲」。その後、いつも読もう読もうと思いつつ、深いトラウマに落ち込んだまま時が過ぎていきました。
    何とか愉しく読める方法はないものか? と思いながら、ある日、図書館の書架をふらふら眺めていると、ふっと目に飛び込んできのが、この「ドレの神曲」でした。

    ご存じの方も多いと思いますが、ダンテの「神曲」は、作中主人公のダンテが、1300年の春、深い森の中に迷って獣に追われているところを、偉大な古代ローマ詩人ウエルギリウス(亡者)によって救われ、その後、彼に導かれながら、生き身のままで、地獄、煉獄(れんごく)そして天国を旅していくという壮大な物語です。

    主人公ダンテが遍歴していく中で、ドレがインスパイアされたであろう情景を視覚的に表現した繊細で見事な挿絵がふんだんに紹介されています。豪華な大人の絵本。
    また、肝心の訳は、平明でわかりやすく、注釈も適度なものですので、決してうんざりすることもありません。全体をコンパクトにまとめていて、旨みを逃さず細部を端折り、よくぞここまで抄訳できたものと感動しました。

    芸術家ドレ(1832年~1883年)は、若いころからフランスで活躍し、ユゴーやジョルジュサンド、ボードレールなどと集っていたようです。当時、大流行したドレの挿絵は、「旧約聖書」、「新約聖書」などでも多く描かれていて、このシリーズで出ていますので、ドレの絵に興味がある方は、ぜひのぞいてみてください。イエスがカッコいい男に描かれていますよ。
    ということで、ダンテの「神曲」には興味があるけど、かなり気が重い、あるいは敷居が高いな~と思われている方にお薦めします。

  • 『チェーザレ』シリーズ、2巻・7巻で、「『神曲』、おもしろそう」と思い、完訳版を1冊購入したものの、いきなり取りかかるのはちょっとハードルが高いか、と、ギュスターヴ・ドレの絵を中心に、抄訳がついたこちらをまず読んでみた。
    以前読んだ『いま読む ペロー「昔話」』の挿絵にドレの絵も何点か収録されており、もう少し見てみたいと思っていたので、その意味でもちょうどよかった。

    『神曲』は古典中の古典である。ルネッサンスの導火線となった作品ともいえる。
    深い森の中を迷い歩くダンテが、天界にいるかつての恋人ベアトリーチェの計らいにより、詩聖ヴェルギリウスを導き手として、地獄・煉獄・天国を巡り、その様を語る形式である。
    構築される世界は、キリスト教をベースに、ギリシャ神話も取り込み、そしてまた、当時のイタリアの人々の耳目を騒がせた事件を盛り込む、ダイナミックなめくるめく舞台である。歴史上の人物に加え、ダンテの友人、政敵も登場し、思わぬ罰を受けたり、ダンテに胸の内を明かしたりする。神聖でありつつも三面記事的な匂いも漂う。
    冥界のあれこれに目を奪われ、戸惑うダンテを、ヴェルギリウスは時に優しく、時に厳しく導く。
    その縦横無尽な筆には息をのむ。
    地獄は下へ下へと続く。罪の軽いものから罪の重いものへ。降りれば降りるほど罰は過酷になっていく。
    地獄と煉獄の間では重力が反転する。ダンテとヴェルギリウスは驚くべき方策でこの境界を越える。煉獄にいる人々は地獄の人々ほど罪深くはないが、悪しき性情や習慣といった浄めねばならぬ罪がある。これを償うには長い長い時間、試練に耐え、煉獄の山を登らなければならない。
    その先にあるのが天国だ。もちろん、煉獄からもすべての人がたどり着けるわけではない、至高の場所である。

    ドレはダンテから500年ほど後、アルザスに生を受ける。ミケランジェロの再来とも言われた卓抜した才能の持ち主である。
    本書に収録されたドレの描く絵は、端正で細密である。木口木版と呼ばれる、木質の硬い木の木口を版面に用いた版画である。1861年に発表された「ドレの神曲・地獄篇」は、破格の大きさや価格の高さから、版元が見つからず自費出版を余儀なくされたという。だがこれが大きな評判を呼び、ドレはこの後、古典シリーズをどんどん発表していく。
    いずれもすばらしい絵だが、東洋人である自分は、死者たちの隆々たる肉体に幾分の違和感を覚える。ルネッサンス的ともいえる重量感あふれる均整のとれた体は、目に圧倒的だが、地獄の死者の惨めさをやや削いでいるようにも見える。このあたり、肉体が朽ちることに対しての感覚がそもそも違うのかもしれないとも思う。
    一方で、悪魔の造形や天界の輝かしさは、想像の世界を描き尽くすようで、絵を見る喜びを感じさせる。

    概要ではあるが、ストーリーを追っていくと、ダンテこそがこの物語を一番楽しんだ読み手であっただろうと思えてくる。
    自ら、政敵に陥れられ、深い森の中に迷うような境遇にありつつ、生身は現世にある一方で、心は陰惨な地獄をつぶさに眺め、幾たびの苦難の果てに、輝く天界へと向かう。その先には、永遠の恋人が待っているという確信とともに。

    これはある意味、「行きて還りし物語」のはずである。生者が行くはずのない冥界の有様を現世に戻ってきたはずのダンテが語っているのだから。
    冒頭部は、さまようダンテの前に、あこがれの詩聖が現れるシーンで始まる。しかし、フィナーレは天界の至福のうちに終わる。ダンテがいかにして戻ったか、そしていかにしてこの物語を綴ったか、それは本題ではないことなのだ。
    苦労の果てに天界にたどり着いたダンテの見る光の、なんと輝かしく、なんとまばゆいことか。

    ダンテが『神曲』を書き終えたのは晩年だという。
    彼の魂は、真にベアトリーチェの元に迎え入れられただろうか。
    彼は幸福のうちに息を引き取っただろうか。
    彼が真に天に召されたとき、まばゆい光は脳裏に満ちただろうか。


    *ドレが描く圧倒的な数の(無限を思わせる)亡者や天使の集団は、『芸術の蒐集』を思い出させます。

    *ドレは古典を自らのイラストで飾るという強い意欲があり、他にも「聖書」「失楽園」「ドン・キホーテ」「ラ・フォンテーヌ童話」などの絵を描いています。

    *西洋でも東洋でも、地獄とは下へ下へ潜っていくものなのですねぇ。(cf:『地獄絵を旅する: 残酷・餓鬼・病・死体』)。地獄の描写など、『往生要集』などと読み比べたりしてもおもしろいのかな・・・? ちょっとおいそれと読めるかわかりませんが。

    *いずれにしても、本書は本書で解説も含め勉強になったのですが、そのうち完訳版に挑戦したいと思いますf(^^;)。さて、無事に旅を終えられるか、もしも終えた暁には、またレビューを書きたいと思います。

    • yuu1960さん
      http://booklog.jp/item/1/4041576261
      阿刀田さんによるとダンテはベアトリーチェに2回会っただけ。口をきい...
      http://booklog.jp/item/1/4041576261
      阿刀田さんによるとダンテはベアトリーチェに2回会っただけ。口をきいたことはない。政敵を地獄で苦しむことにしたりと、変な人だったようです。
      でもいつか、神曲に挑戦したいものです。
      2014/12/02
    • ぽんきちさん
      yuu1960さん
      コメントありがとうございます。

      >2回
      あはは。でも何か、わかるような気もします。そうであってこそ、清らかな完...
      yuu1960さん
      コメントありがとうございます。

      >2回
      あはは。でも何か、わかるような気もします。そうであってこそ、清らかな完全な乙女の像が作れたのかも。
      政敵を地獄に堕としたというのも人間くさいというか、ダンテの歯ぎしりが聞こえそうです(^^;A)。
      なんというか、エネルギーのある人だったんじゃないかなぁと思います。
      私も完訳版、いつか読んでみようと思います~。
      2014/12/02
  •  政争に敗れ、国を追われた男がいた。足の行く先、そして心の行く先も判然とせず、迷える彼の前に姿を現したのは、とうに亡くなったはずの偉大なる詩人であった。詩人に導かれ、男は地獄の底へと下り、そして煉獄を通り、天国を目指していく――。

     古典文学の傑作の一つであるダンテの『神曲』と、それを効果的に図像化したドレの画を用いた大人向けの絵本。ダン・ブラウンの『インフェルノ』から『神曲』に興味を持ち、原作より読みやすいと思われるこちらを読んでみた。
     ただの地獄極楽見物記かと思いきや、自らの苦い過去を地獄を通して振り返り、煉獄を通ることで7つの罪を清め、身も心も軽くして天国へと向かう。その過程は正しく「魂の彷徨」で、基督教色は強いがそれ一色ではないので日本人でも受け入れやすく、重厚で、文学である。
     地獄も天国も己の内に有り。卑小でも存在する自身の信念を見失った時、読み返したくなる書籍の一冊。

  • かつて金箔付の大判で出版されていた豪華本の「普及版」。
    イラストは小さめではあるのだが、ドレの挿絵でどんなものがあるのか、カタログ代わりになる。
    谷口氏の翻訳はさらりと読みやすく、山川丙三郎氏の翻訳で理解できなかった部分を補完する事も出来た…
    注釈も、大体そのページ内付いているので、解りやすいと思う。
    これはやはり良い本だと思う。

  • 有名だが、ページ数が多くて中々読む気が起きないあの神曲の挿絵入りのダイジェスト版である。
    ドレの目を奪われるような刺画が添えられていることもあり、神曲の概要がスムーズに理解できた。
    本家の神曲に挑戦してみようと思わせてくれる隠れた名著である。


  • 挿絵と本文のどっちがメインかわからなくて、正直言ってしまうと読みづらい本だったけれど、ダンテの神曲もドレの作品も素晴らしい。

    久しぶりにダンテの神曲を読み返そうと思い手に取った本だったけれど、読み返すのはまた別の本にするわ。

  • ・気がつけば人生は半ば
     見わたせば暗き森深く
     道らしき道のひとつすら無く

    ・何が大事かを 知る ことだ。理屈を超えて 見る ことだ。何故と思う事は良いが、その時下手に理屈を探さぬことだ。人が理詰めで行ける道には限りがある。全てをあるがままに、景色のように見るがいい。全ては不思議、全ては自然。映る心を知ることだ。

    ・光は力
     智は光

  • 要約されたものをさらに10分で速読した訳だが・・・
    ジコモの元はジャーコモなんだな。煉獄はさほど煉獄って感じはしなくて、やはり冒頭の地獄編がいちばんしんどい。確かこの文献を元にして、実際の地獄やその建物?のサイズを再現しようとしている人たちがいるというニュースを見た気がする。ビバイタリア

  • 古本珈琲日曜日

全35件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1265年、フィレンツェ生まれ。西洋文学最大の詩人。政治活動に深くかかわり、1302年、政変に巻き込まれ祖国より永久追放され、以後、放浪の生活を送る。その間に、不滅の大古典『神曲』を完成。1321年没。著書に、『新生』『俗語論』『饗宴』 『帝政論』他。

「2018年 『神曲 地獄篇 第1歌~第17歌』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ダンテの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×