ウクライナ戦争と向き合う ― プーチンという「悪夢」の実相と教訓 (法と哲学新書)

著者 :
  • 信山社出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797281606

作品紹介・あらすじ

◆プーチンという「悪夢」の実相と教訓。ぜ戦争に? その終わりは? ―いま試される「法」「政治」そして「思想」◆
世界と日本が直面する問題の核心に法哲学者、井上達夫が真正面から迫る。プーチンという「悪夢」の実相と教訓。ロシアのウクライナ侵略。なぜ戦争に? その終わりは? 我々は何をすべきなのか、何を学ぶべきなのか。いま試される「法」「政治」そして「思想」。「知の糧」への企て(法と哲学新書)第3弾。

感想・レビュー・書評

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  • ロシア国民がこの戦争を止められる能力を持つことを期待せずにはいられないです。パンデミック、地球温暖化は人為的要因も大きいうえに、戦争もまた独裁者による人災とあれば、エピローグにあるこの世界の壊れやすさに不安を覚えます。日本が学ぶべきこととして憲法9条と自衛戦力の確立の矛盾が指摘され、具体的な例を目の前に考えよと課題を突きつけられた感があります。

  • ウクライナ戦争勃発後半年ほどの時点で出た本だが、この戦争を構造をとても明確に分析していると思う。

    とくにロシアのウクライナ侵攻は国際法的にも倫理的にも許されないとしつつも、それの誘因としてNATOの拡大などによるロシアの安全保障を脅かしたNATOとくにアメリカの問題を指摘する論者の議論のおかしさを論理的かつ事実ベースで論破しており、この部分は説得力があった。わたしも概ね同じように感じていたところだが、それがしっかりとまとめられていて、スッキリ感があった。

    あと、左翼系の知識人が、アメリカもたとえばイラク戦争などなどで国際法上問題の戦争をおこなっており、ロシアがやっていることは、それと同じであることを指摘することが多いのだが、それに対して、この議論は、アメリカも悪いことがロシアの悪さを免責することになるとして、否定し、アメリカも、ロシアも悪いということは、たんに悪いことは悪いというだけで、ロシアの侵攻の罪が小さくなったり、ロシアを批判できないということを意味しないという議論も当たり前なのが、わたしたちがつい陥りがちな議論だと思った。

    さて、著者は、今回の戦争は、プーチンの個人的な保身のためであるとしたうえで(ここまで言い切っていいかはわからないが、一定の説得力あり)、今後の見通し、日本へのインプリケーションに進むわけだが、今後ということになると、新しい方向があるわけではない現実を確認する感じになって、やはりそうだろうな〜とため息。

    そして、日本の危機意識のなさ、リスクマネジメント能力の低さ、憲法問題、自衛隊問題などなど、問題の構造は、ほんとそうだと思った。ただ、それが本当に正しい方向なのか、そして仮にそれが正しいとしても政治的にそれが実現しうるかと考えると暗澹たる気持ちになった。

    著者は、今回の戦争で明らかになったのは、国際社会は、自らを守るために戦うものを助ける、その助け方も武器の供与や経済的な制裁くらいまでで、直接、軍事的に戦争を戦うわけではないということだと言う。

    もちろん、ウクライナの場合は、安全保障の同盟に入ってなかったから、こういうことになったわけだが、安全保障同盟に入っていても、自ら戦わない国を他の国が代わりに戦うことはないであろう。

    さて、日本はどうするのだろうか?

  • ロシアによるウクライナ戦争の理由について、①ウクライナ「脱ナチ化」であるとするピー賃の言説を否定し、②西側知識人がしばしば説く「NATO東進帰責論」も否定した上で、③プーチンが自らの権力基盤を維持するためであるという持論を展開している。さらに3つの独裁的な軍事強国が日本海を隔てて対峙しているわが国では、9条を改正して、自衛隊が現実にわが国を防衛するための法制度を整えるべきであるとしている。

  • 悪を非難する側にもまた悪があるからと言って、非難される側の悪が帳消しになるわけではないという、考えてみれば当たり前のことだが、論理のすり替えでロシアを擁護してしまうことへの警鐘など、なるほどと思うところもあれば、自衛隊法の理解と、それに基づく憲法的統制の及ばない自衛隊危険論など、疑問符がつくようなところもあり。
    郭舜先生の法学教室の記事も併せての感想だが、やはり、日米同盟の文脈で、まず自衛隊が戦わなければ米国も戦ってはくれないと言われるように、国民も、軍事的に戦うとは言わないまでも、踏みとどまって自らの生活や社会を守る覚悟を見せなければ、ただ逃げたり降参したりするだけでは、他国の支援など望めないのだろうなぁ。

  • ウクライナ戦争についていくつかの本を読んでみたけど、現時点ではこれが決定版だと思う。
    未だにロシアに肩入れしている政治家や言論人はこの本を読んで自らの見識の低さを恥じるべきだし、どこか他人事な政治家やマスコミ関係者も、やっぱりこの本を読んで当事者意識の無さを反省すべきである。

    井上氏と意見が異なる点を先に述べておこう。
    まず第二章の中国に関する記述で、ドンバス地域をロシアが国家承認したことを中国が是認すると、もし台湾を欧米諸国が国家承認した際にそれが無効であると反論できないと書いてある。
    昨年ポンペオ前米国務長官が台湾を訪問した際の発言を念頭に置いているのだろうが、ポンペオ発言はリップサービスの域を出ないだろう。
    いま台湾を国家承認している国は十数か国しかなく、中国との関係を鑑みると欧米の主要国家が台湾を国家承認する可能性はほぼ無い(台湾有事の際の制裁として後付け的に国家承認するとも思えない)だろうから、この見立てはあまり意味をなさないのではないか。
    またロシアが戦術核兵器を使う可能性について、プーチンの取り巻きが全て狂わない限りゼロに限りなく近いと書いていあるが、そもそも戦争を起こすことこと自体が合理的に考えると分の悪い選択なのだから、我々の考える理性・合理性をロシアの指導者層が持っているかどうかはすこぶる怪しい。
    もしロシアから見た戦況が現状より悪化した場合、例えばウクライナ東部で小型の戦術核を使うぐらいのことはやってもおかしくないように思える。

    しかしそれ以外の井上氏の主張に関してはほぼ全面的に合意できる。
    ウクライナ戦争の遠因はNATOの拡大だなどとぬかす言説を完璧に論破している部分は読んでいて痛快だし、この戦争の終わらせ方についても、確かにこの形しかないよなと思った。
    現在の日本の置かれている立場、そして立憲主義の観点からみた自衛隊の法体系上の問題点に関する部分も読んでいて非常に勉強になる。
    井上氏は自らの主張の根拠をみっちりしっかり書いてくれているので、非常に説得力のある一冊になっているように感じた。

    残念なのは版元がメジャーどころではないせいか、書店のウクライナ戦争コーナーでも本書をほとんど見かけない点。非常にもったいないなあと思う。

  • 中国がロシアの戦争続行能力を支えるためにロシアに重要な経済的、軍事的支援を行い、その結果、欧米の経済制裁が中国に対しても拡大されるようになった場合には、中国経済が被る打撃はさらに大きくなる。中国政府はこのことを自覚しているからこそ、ロシア支持は外交的言質にとどめ、ロシアに対しる積極的な敬愛的軍事的支援は自制している。

  • 【書誌情報】
    『ウクライナ戦争と向き合う――プーチンという「悪夢」の実相と教訓』
    著者 井上達夫
    出版社:信山社
    ジャンル:法哲学、哲学/思想
    シリーズ:信山社新書
    出版年月日:2022/09/29
    ISBN:9784797281606
    判型:新書
    ページ数:280
    定価:本体1,200円+税

    ◆プーチンという「悪夢」の実相と教訓。なぜ戦争に? その終わりは? ―いま試される「法」「政治」そして「思想」◆
     世界と日本が直面する問題の核心に法哲学者、井上達夫が真正面から迫る。プーチンという「悪夢」の実相と教訓。ロシアのウクライナ侵略。なぜ戦争に? その終わりは? 我々は何をすべきなのか、何を学ぶべきなのか。いま試される「法」「政治」そして「思想」。「知の糧」への企て(法と哲学新書)第3弾。
    [https://www.shinzansha.co.jp/book/b10023271.html]

    【めも】
    ・井上達夫と倉持麟太郎(弁護士)が対談していると信山社で紹介している。
     ただし、対談相手の倉持麟太郎さんは「反ワクチン」ではないものの、いわゆる「反コロナ」勢から好意的に参照される人(なんなら本人が小林よしのりの漫画に解説を寄稿したと平気で言っている[https://twitter.com/kurarin0116/status/1588408051157336065])。参加者がマスクしてない集会にも参加してる[https://twitter.com/techurand/status/1347758599129296901]。
     なので、井上ファンとしてはちょっともにょる。

     8bitNews 『ウクライナ戦争と正義』倉持麟太郎「このクソ素晴らしき世界」#68 [https://www.youtube.com/watch?v=fi4dDhKYwL0]


    【目次】
    プロローグ――我々は何処へ行くのか
    ◇一 増幅する悪夢的現実
      (1) 疫学的危機と政治的危機の拡大再生産 
      (2) 戦争長期化の懸念と世界の行く末への不安 
    ◇二 本書が向き合う問題
      (1) ウクライナ戦争の性質と原因 
      (2) 戦争終結への道筋 
      (3) ウクライナ戦争が日本に突き付ける課題 
        当事者意識の希薄性 
        九条問題の正面解決――立憲主義的安全保障体制の確立 

    第一章 いかなる戦争が戦われているのか
    ◇一 「ロシアは侵略していない」という不思議な「論理」
      (1) 「ネオナチ的支配からのウクライナ解放」という言説の呪力 
      (2) 「集団的自衛権行使」論の虚妄性 
    ◇二 「NATOの東方拡大がプーチンを追い詰めた」のか?
      (1) 国際政治におけるリアリズム派の「NATO東進帰責論」 
      (2) NATOの変容――集団的自衛権体制から地域的集団安全保障体制へ 
        冷戦期対立構図の崩壊によるNATOの機能転換 
        NATO東進帰責論の米国陰謀説的偏見 
        NATO・ロシア関係の変遷 
      (3) コソボ紛争とNATO・ロシア関係 
        NATOのコソボ紛争軍事介入とエリツィンの核恫喝発言 
        プーチンの親米的・親NATO的対応 
      (4) ロシアの軍事的攻勢とNATOのロシアに対する軍事的非関与主義 
        攻めるプーチン、自制するNATO 
        民主化の波へのプーチンの軍事的応答 
      (5) 「リアリスト的プーチン像」の破綻 
    ◇三 「西側」の責任はどこにあるのか――責任の問い方に潜む罠
      (1) 米国とNATOの真の罪責 
        「西側」の欺瞞に対するプーチンの応酬 
        バイデン陰謀説の欠陥 
        「バイデンのそそのかし」より巨大な米国の罪責 
      (2) 自己批判の陥穽――「二悪二正論」を越えて 
        戦争責任問題における「二悪二正論」の呪縛 
        「二悪二正論」の自壊性と執拗性 
      (3) 「チョムスキーよ、お前もか」 
        対露宥和主義へのチョムスキーの傾斜 
        ウクライナ知識人たちの公開書簡 
        チョムスキーの意図の好意的解釈――ウクライナへの愛? 
        「自己批判の陥穽」へのチョムスキーの転落 
    ◇四 プーチンがウクライナを侵略した真の狙いは何か
      (1) 「ユーラシアニズム」というアイデンティティ政治への転向? 
        ロシアにおけるユーラシアニズムの復活とプーチン 
        ミンスク合意の虚妄性 
        ウクライナ征服のイデオロギー的道具 
      (2) 「対外硬、内に憂あり」――プーチンの自己保身戦争 
        挑発されざる戦争に為政者が走る一般的理由 
        民主化の波に対するプーチンの自己保身 
        自己保身主因論に対する批判への応答――陰りゆくプーチンの威光 
        軍人イヴァショフによるプーチン批判 
        アイデンティティ起業家的プーチン像と自己保身主因論の整合性 

    第二章 戦争はいかにして終わり得るのか
    ◇一 ウクライナ戦争の実相認識と国際社会の対応
    ◇二 第三国の仲介調停による紛争解決の可能性――中国の利害と期待可能な役割
      (1) 戦況の膠着と停戦交渉の頓挫――調停役はいないのか 
        ロシアとウクライナの亀裂拡大と第三者的調停役の不在 
        調停者としての中国の可能性 
      (2) 中国の政治的・経済的利害状況 
        中国経済の沈下要因としてのロシア 
        中国の国際政治原則・世界戦略を掘り崩すロシア 
        中国の戦略的利害が見えていない習近平 
    ◇三 戦争泥沼化の行く末――破滅は止められるか
      (1) 戦術核兵器使用から第三次世界大戦へ?
        「戦術核兵器限定使用」の非現実性 
        「核のブラフ」への屈従の自壊性 
      (2) ロシアが勝てない戦争をプーチンが止めない理由 
        米国とソ連の失敗から学習できないプーチン 
        なぜロシアはウクライナ戦争に勝てないのか 
        プーチンの戦況認識が歪められている可能性 
        戦況が不利でもプーチンが戦争を止められない理由 
      (3) 「テレビと冷蔵庫の戦い」――ロシア国民は覚醒できるか 
        ロシア国民しかプーチンを止められない 
        アレクイシエービッチの「知恵の言葉」――ロシア国民の変容可能性 
        「プーチンが排除されても明るい展望は開かれない」のか? 
        「冷蔵庫をテレビに勝たせる」ための対露経済制裁の意義と効果 
        対露経済制裁強化はロシア国民に対して苛酷か? 
        ロシアの民に捧ぐ、ディランとともに―― To Russians, with Dylan 

    第三章 この戦争から日本は何を学ぶべきか
    ◇一 ウクライナ戦争の「当事者意識なき当事者」日本
      (1) 「反ロシア共同戦線」への日本の参加 
        「火事場」に立ち入った日本 
        ミロノフの恫喝の意味 
      (2) サハリン・プロジェクト撤退問題――危機管理意識なき日本 
        問題認識の倒錯――敵に回したロシアに依存し続けたい日本 
        エネルギー政策の抜本的転換ができない日本
    ◇二 立憲主義的統制に服する自衛戦力の確立
      (1) 「危なすぎて使えない軍隊」としての自衛隊 
        「仁義なき戦争」が跋扈する国際社会 
        日本の安全保障体制の根本的欠陥――憲法九条と自衛隊の矛盾の放置 
        自民党「改憲四項目案」の愚 
        なぜ自衛隊は「使えない軍隊」なのか 
        最低限の憲法九条改正構想 
      (2) 国際社会は「自らを助くる者のみを助く」 
        「戦うウクライナ」が変えた欧米の支援姿勢 
        「平和を愛する諸国民の公正と信義」の実相 
      (3) 「日米安保信仰」を超えて 
        護符としての日米安保――「いざとなったら米軍が護ってくれるから大丈夫」 
        護符の効験の実相 
        自主防衛能力確立と日米安保体制対等化の不可分性 

    エピローグ――壊れやすきもの、汝の名は世界 

  • 東2法経図・6F開架:319.3A/I57u//K

  • https://www.shinzansha.co.jp/book/b10023271.html

    安全保障、国民が立たなければ ―国際社会は「自らを助くる者のみを助く」―
    (毎日新聞 2022.4.8 夕)
    https://www.shinzansha.co.jp/book/b497743.html

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2023年 『法と哲学 第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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