嘘と孤独とテクノロジー 知の巨人に聞く (インターナショナル新書)
- 集英社インターナショナル (2020年4月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797680515
作品紹介・あらすじ
チョムスキーをはじめ知の巨人5人が現代の重要問題を斬る
われわれはインターネット時代をどう解釈し、どう生きるべきなのか? 貧困、格差、暴力、ファシズムの影、フェイクニュースなどの嘘……。
今、人類が直面する問題の本質について知の巨人たちにインタビューを行い、歴史学、哲学、生物学、心理学などの分野からアプローチ。現代を生きるヒントを与える。
――「あとがき」より
「真実がまだパンツをはこうとしている頃、嘘のほうはすでに世界を一周している」と言われるように、インターネット上では、嘘は真実より6倍も早く・広く・深く伝わるということが確認されました(Science, March 8, 2018)。どうしてそうなるのかといえば、嘘のほうが真実よりもカラフルでインパクトがあって驚きの度合いが高いからだと。
――目次
第1章 エドワード・O・ウィルソン(生物学者/昆虫学者)
人類は石器時代の感情と、神のようなテクノロジーを持っている
第2章 ティモシー・スナイダー(歴史家)
テクノロジーとロシアとファシズムの関係
第3章 ダニエル・デネット(哲学者/認知科学者)
「意識」とは何か
第4章 スティーブン・ピンカー(認知心理学者)
サペレ・アウデー:新啓蒙主義
第5章 ノーム・チョムスキー(言語学者/哲学者)
新自由主義(ネオリベラリズム)とファシズムの関係
■著者略歴
吉成真由美(よしなり まゆみ)
サイエンスライター。マサチューセッツ工科大学卒業、ハーバード大学大学院修士課程修了。元NHKディレクター。
著書に『知の逆転』『知の英断』『人類の未来 AI、経済、民主主義』(インタビュー・編、ともにNHK出版新書)、『進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義』(編集・翻訳、早川書房)等。
感想・レビュー・書評
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「貧しい言葉が全体主義を招く」ジョージオーウェルが1984年の小説の中で用いた言葉であり、本著でも紹介される。言葉を用いる事で人類のミームが進化し、生物学的には大差の無いこの数百年の人類が、しかし確実に社会を進化させる事で医療が行き渡り、戦争や暴力、飢えによる生きづらさは減少した。
論語「民は由らしむべし、知らしむべからず」、これも本著で引用される言葉だ。従わせることは可能だが、道理を理解させることは難しい、という意味。言葉がミームとして、つまり文化的遺伝子として浸透しなければ、個体間の格差を無視して相互に円滑なコミュニケーションなど難しい。社会ルールや公式の原理、商品の構造を理解せず、盲目に従い、用いるのが大多数の一般的な市民だからだ。
だから、誘導される。
アメリカでは自分とある程度似ている他の人を信用する傾向があって、それがビジネスに役立ってきた。ロシアはインターネット上にアメリカ人が自分たちと似たような人がいると錯覚するようなサイトをたくさん立ち上げた。アメリカ人をターゲットに、黒人用のサイト、白人至上主義者用のサイト、南部の人たち用のサイト。
完全な独裁主義などありえないのだから、主義としては不完全なことを許容するシステムの方がマシであると言う考えが成立する。民主主義の良さは、何度も間違いを犯すがそれを繰り返しやり直すことができるシステムだと言うこと。世界が不完全だと自覚したときに、民主主義が良いシステムだということがわかる。
嘘や欺瞞、ミスや不完全を内包しながら、軌道修正していけるのが、また人類。ならば、寧ろ、修正のメカニズムをハックする事に即効性があり、だからこそ、民主主義が更に高次元にデザイン変更できないのか、という注目の議論になっていく。本著では、そこまでは触れられない。数多あるミームの役割を果たす数々の書物に、そのヒントが眠っており、日夜、ページを捲る。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2022/03/13 amazon 935円
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世界の知の巨人と言われる人たちのインタビュー集。
どれも深淵なテーマだったが面白かった。 -
テーマは利己性と利他性、社会性。集団によってどのように暴力性は生まれるかといった考察は興味深い。
エドワード・O.ウィルソン
高度な社会性を形成する真社会性は、生物進化の歴史上、少なくとも17回実現している。テッポウエビで3回、スズメバチで2回、キクイムシで2回、ハダカデバネズミで2回など。人類では、300~100万年前にグループ間の競争があった。競争を好む性質は、群選択によってもたらされた。社会的生物では、グループの中では利己的な個体が有利になるが、グループ全体として行動する場合は利他的なグループが有利になるという法則がある。宗教信仰は部族主義から生まれてきた。哺乳類のバイオマスのうち、人間が36%、家畜が60%を占め、野生動物は4%にしかならない(PNAS, 2018/6/19)。
ティモシー・スナイダー
ポピュリズムによって出てきた人物が、自分は人々の声の体現者であると言いつのることによって、法や体制が意味を失っていき、障害物として払拭されることが危険であり、こうしてポピュリズムはある種のファシズムに変化していく。インターネットでは、嘘は真実より70%も多くリツイートされ、6倍速く広く深く伝わる(Science, 2018/3/8)。ナチのヘルマン・ゲーリングは、「人々を戦争に同意させるのは簡単だ。我々は攻撃されたと言いふらし、平和主義者を国に危機をもたらす愛国心を欠いた卑怯者と言って貶めればいいだけだ」と言っている。
ダニエル・デネット
哲学者は、繰り返し問いかけ批判することで思考を深め、より適切な問題設定をすることに長けている。意識はひとつではなく、非常にたくさんの事柄が一緒になったもの。ありとあらゆる能力とは別に、意識というものが特別に存在すると考えるのは誤り。宗教への信仰をもたない人たちの数は急速に増えている。イスラム過激派の台頭などは、宗教の最後のあがきを見ている。安定した持続力のあるコミュニティには、入口と出口の非常に厳しいルールがある。内部ではかなり透明だが、外部を嫌い、コミュニティからの離脱を厳しく罰する。
ノーム・チョムスキー
アメリカで生まれた多国籍企業は、世界の富の約半分を占めている(ショーン・スターズ2014)
最大の暴力は考えることをせずに素直に指示に従ってしまう善良な一般人によって行われる(ハンナ・アーレント)。 -
吉成真由美の本というだけで買う価値がある。吉成真由美氏は、「利根川進の妻」という立場を使えばもっと話題になりもっと本が売れるだろうに、その立場を使わず他人の手柄を使わずに自分の力で本を打っているところに魅力を感じる。中身はやはり、学者へのインタビュー本である。教養で殴りつけてくる一冊。
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予想通りだけど、チョムスキーによると、トランプはアカンし、今の共和党は人類史上最悪なんだそうです。環境問題と核兵器問題の解決を遠ざけた張本人たちだから。トランプについては、ナルシスト、誇大妄想狂、なんのイデオロギーも持っていない、など非常に辛辣な評価をしています。ブラジルの大統領ボルソナロを「まったくどう形容していいか言葉を失うほど最悪な人物」と言い、次から次へと目に余る行動のオンパレードだと批判しています。両大統領はコロナに感染したし、反省どころか、完治したことをコロナは大したことない理屈に利用するところまで全く似ている。同じ穴のムジナ。
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チョムスキー 確かに嘘は問題ですが,嘘を見抜くことは,素粒子物理学ほど難しいことではないですね。私が言っていることは,誰でも少し調べればわかることです。プロパガンダがいろいろあっても,それを見抜くことはそう難しくはない。人々が積極的にそうしないのは,受動的で従順であるように訓練されてきたからです。エリートが言うところの「過剰な民主主義」があればできることです。(p.290) -
テクノロジー(≒ インターネット)が促進させた、嘘の拡散効果と孤独の常態化をキーに、人類の近未来について。嘘は事実より広まるスピードが早いとあるが、広まりやすいのは、(嘘を含めた)刺激的なニュースと言った方が多分適切。ただ嘘の主なエッセンスは恐怖心の煽りで、大抵何らかの意図が背後に入っている。科学の世界においては、様々なチェックが機能している。将来的に、フェイクに対抗するワクチンニュースのような仕組みが出来ないものか。孤独については、高度福祉国家スウェーデンにおいて、国民の半数が独り暮らし、25%が孤独死するという事例が紹介される。ネットさえあれば、日本でも、人に接しなくともある程度仕事も生活も出来るようになって久しい。1人で生きる事と、人が本来持つ社会性との折り合いの付け方は、個人の主義や嗜好次第だろうが、それが真の自由なら、人類の漸進なのかもしれないが、自信は持てない。
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すごい知性の持ち主とされている人物でも、
自分の専門外に関しては素人なのだと再確認させられる。 -
<目次>
まえがき 利己性、利他性、社会性
第1章エドワードOウイルソン
人類は石器時代の感情と神のようなテクノロジーを持ってい る
第2章ティモシー・スナイダー
テクノロジーのロシアとファシズム
第3章ダニエル・C・デネット
世界は理解していないけど能力がある現象で回ってい る
第4章スティーブン・ピンカー
なぜ人類の暴力が減ってきたのか
第5章ノーム・チョムスキー
新自由主義はファシズムを招く
あとがき 嘘と孤独とテクノロジー
P47人類が種として生き残っていくためには~何百万年
にもわたって自然が維持し続けていた環境を守って
いくこと
インタビュアーの吉成氏は元NHKのデレクターで
知の逆転、知の英断などのインタビュー番組、本が
あって、安定である。
この手のインタビュー本の中では、一番いい聞き手
だと思う。