空間は実在するか (インターナショナル新書)

著者 :
  • 集英社インターナショナル
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797680638

作品紹介・あらすじ

時間の不思議の先には、空間論の不思議があった!
時間の不思議に思考をめぐらせる「時間論」。時間を追究していけば、空間の謎に直面することとなる。
私たちが、あってあたりまえだと思っている空間は、本当に実在しているのだろうか?
物理の根本原理にして、時間と空間を同じ次元で扱う相対論。その本質を直角三角形のピタゴラスの定理で咀嚼するなど、予備校のカリスマ講師ならではのシンプルな解説で空間の謎に迫る。
この試みは、さらなる時間の不思議や、時間・空間と生命の関係にまで拡がっていく。
ポスト時間論としての「空間論」がここに開拓される。

【目次より抜粋】
第1章 相対論がわかれば、時間と空間の不思議がわかる
相対論なくして文明生活は送れない/ホテルから駅まで何分かかる?/
第2章 光速で動けば時間は止まる
光速より速く動けるか?/ロケットに乗った人から相手の時計を見ると?/
光速は誰から見ても一定/
第3章 さらに不思議な一般相対論
加速し続けるロケットは光速に迫れるか?/ブラックホールへ落下するA氏/
時間と空間は幻影である/
第4章 空間と時間の哲学的考察
空間と時間はこの宇宙の「器(うつわ)」/心の中に空間はあるのか?/
時間は流れない?/未来からの光はなぜか届かない/パラパラ漫画はなぜ動くのか?
第5章 物質と生命の狭間
拡散した赤インクは元に戻るか?/不可逆現象と時間の矢/モノの動きは記憶が生み出す
第6章 生命と時間の流れ
時間は生命の中に/過去と未来は峻別されているのか?/生命は負のエントロピーを食べる/最初の生命が生まれた環境/生きる意志をもつ分子機械/
オートポイエーシスに欠けている時間の発見
第7章 物質が空間を作り、生命が時間を創る
万物の理論/宇宙の階層構造/無意識と自己意識の階層構造/ふたたび実在と幻影(イリュージョン)について/未来からの光が見えない理由/ハードSFの発想か?/

【著者略歴】
橋元淳一郎(はしもと・じゅんいちろう) 1947年、大阪府生まれ。東進ハイスクール講師、SF作家、相愛大学名誉教授。日本時間学会会員、日本SF作家クラブ会員、日本文藝家協会会員、ハードSF研究所所員。京都大学理学部物理学科卒業後、同大学院理学研究科修士課程修了。わかりやすい授業と参考書で、物理のカリスマ講師として受験生に絶大な人気を誇る。著書に『時間はどこで生まれるのか』(集英社新書)『シュレディンガーの猫は元気か』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)などのほか、参考書『物理橋元流解法の大原則』シリーズ(学研プラス)など多数。

感想・レビュー・書評

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  • アリストテレスのように、時間は運動であるというのが私の直観だ。あるとき、季節の移り変わりや時計というのも単なる周期的な運動であって、刻々たる変化があるだけなんじゃないか、と思った。

    つまり時間は存在しないんじゃないか。そう思って以来、その直観が物理的に見たらどうなのか興味があり、時間に関する本をいくつか読んできた。近頃ではカルロ・ロヴェッリをはじめとする「時間は実在しない本」もいくつか出回りだしている。

    本書を手に取ったきっかけはタイトル。
    相対論によれば時間と空間は同じもの(時空)だから、時間を空間という観点からも考えられるだろうに、ただ、それが具体的にどういうことなのかは無知にして想像がつかなかった。

    読んで正解だった。本書は時間と空間をあざやかな方法で説明してくれている。そして私たちが見ているこの世界がイリュージョンでしかない、むしろそうでしかありえないのだということを教えてくれる。

    本書の構成は、3分の1が、アインシュタインの相対性理論の解説。それから、あいだに時間に関する哲学的な考察が挟まれ、生命論へと至る。

    筆者のあざやかな方法というのはこう。つまり、光円錐を描くとき必ず登場するミンコフスキー空間のグラフですべて説明してしまうのだ。ミンコフスキー空間は3次元の空間と1次元の時間からなる時空。

    (それを簡略化して横軸を空間、縦軸を時間とする。ただし、時間、もしくは空間いずれかが虚数になることが知られている。本書では空間を虚数とする。ここで、光の速度を1とすると、傾きが45度の光の世界線が描ける。そして、ピタゴラスの定理によって光の世界線が(1^2-i^2=)0になるようなしくみだ)

    さてこのミンコフスキー空間では、時間は私たちがふだん認識している「方向性」のある時間ではなく、空間の1つの次元にすぎない。

    そもそも、「ヒッグス機構」という仕組みがなければ、質量を持った粒子は生まれなかった。素粒子(光もまた)は時間対称であって、質量を持たず、過去と未来の区別はない。だから、質量をもつ粒子が生まれなければ、時空は存在しなかったのだ!
    質量があってはじめて時空がある。

    ところが、素粒子やミクロな粒子ではなく、マクロな「粒子集団」となると話がちがってくる。粒子が集団としてふるまうときは、「不可逆過程」というかたちで時間の「非」対称性があらわれてくる。いわゆるエントロピーの増大則(机のうえも掃除せずにほうっておくととっ散らかる、というやつ)だ。イリヤ・プリゴジンはこのような「時間の矢」が世界の構造として存在すると主張している。

    ただし、プリゴジンの時間の矢には「動き」はない。つまり「ある瞬間における実像と残像の共存」がなければそもそも動きは生じない(コマを送って運動をつくる映画みたいなもの)。

    ここからの展開が目からウロコが落ちまくりだった。要するに、「記憶」が必要なのだ。そして記憶を持つものがなにかといえば、生命システムである。

    生命が存在してはじめて動きは認識されるというのだ。つまり時間という概念は生命とともに、もっといえば人間の自意識とともに誕生したともいえるのだ。

    だから著者もいうように、時間は人間にとって考えやすい、想像しやすいものなのだ。だから私なんかも時間にばかり目がいって空間をおざなりにしていたというわけだ。逆に、空間は、はるかに認識が難しいのだという。

    ところで生命とは「脆い」秩序である。コンピュータみたいにソリッドではない。エントロピーの増大の極限には「死」があるのだけど、その死を先延ばしにするシステムが生命なわけで、エントロピーの増大に抗いつつ寄り添うといういわば「動的平衡」(by福岡伸一)を支えているのがその「脆さ」である。
    この秩序にもすでに、代謝というらせん状の時間が生じている。

    こんどはまた別の疑問がわいてきた。この生命システムにおける記憶とは何なのか。また、時間の概念を獲得することで、私たちは生存戦略上どのようなメリットがあったのか。獲得するということは支配されるということでもあるが。

    私たちはミンコフスキー空間の「非因果領域の翼」をけっして見ることはできない。逆に言うと、それ以外の領域をイリュージョンとして見、さらにそこから取捨選択するようにして進化してきた(ユクスキュルの環世界)。
    むしろどの動植物も、イリュージョンがなければ生き残ることができなかった。そのイリュージョンは種によってそれぞれ異なるだろう。けれども、生命システムそのものが時間という概念と不即不離の関係にあったとは!

    本書でも、いつまで経っても釈迦の手から逃れられない孫悟空の挿絵が掲載されていたけど、まさにその、孫悟空のような心境。

  • 前半の相対論の説明がわかりやすく、高校数学でわかる範囲でうまく説明されている。
    どうしても、専門書は難し過ぎるし、新書だと説明が省かれすぎて理解しがたいことが多いが、虚数を使うことで視覚的な理解ができて、相対論がわかった気になれる。

    後半はどんどんSFに寄っていき賛否が分かれる内容だが、SF好きには興味深く読める。

    最後のローレンツ変換は自分の頭では理解が難しい・・

    前半部分だけでも読む価値が十分ある本と思う

  • 時間と空間は深く関連しあっているし,それぞれが軸を持っている.
    時間は記憶がないと存在し得ないというのはなるほど.(我々は過去の情報を脳内にある程度留めておけるから差分を計算することが出来,違いに気づくことができる)
    相対性理論を簡単な可視化で理解させ,時間と空間の話を情報と生命にまで展開する著者の視点はとてもおもしろい.

  • 空間こそが虚数。

  • む、難しい。
    文体もやや大仰というか「〜であろうか」みたいな感じで固いのだが、それは慣れれば味わいになるかもしれない。
    後に行くほど難しくなるが、相対性理論をグラフで説明してくれたのは、目から鱗だった。確かに動くと時間が遅くなることがすっきりした。
    しかし、最後までよく判らなかったミンコフスキー空閑、付録1の終わりで、すごい結論に着地するので目眩がした。理系の人には当たり前なのかもしれませんが。

  • 【2020年の今、時間と空間の概念はアンシュタインやベルクソンが想像だにしなかった様相を呈している】(文中より引用)

    最新の科学と哲学を優しく紹介しながら、時間と空間の存在について考察を重ねた一冊。著者は、東進ハイスクール講師とSF作家の顔を持つ橋元淳一郎。

    『TENET』や『インターステラー』が好きな人にはたまらない作品。SF小説を読んでいるかのような錯覚に襲われながら、現代科学がとてつもなく摩訶不思議なところに没入しているのを体感することができました。

    読んでもよくわからないというのが☆5つ

  • 帯文が福岡伸一先生だったため気になり購入

    物理学初心者でもすんなりと入ってくる解説で
    初めて相対性理論にピンとくることが出来たと感じた。
    この本を読み進めるうちにクリストファー・ノーランの映画を観たくなり、一度本を置き映画を観た。

    「理論」をGoogle検索すると
    "個々ばらばらの事柄を法則的・統一的に説明するため、また認識を発展させるために、筋道をつけて組み立てたもの。"
    と出てくる。
    相対性理論もある限定的な(人間の目の届く)範囲の中の事柄に関して筋道の立った法則であり、それは間違いなく事実だが全てではない…
    のだなと本書を読んで感じた。

    本を読むと色々な知識と触れ合う事があるが、全てを100%事実だと飲み込まない読み方をしていきたいなと思う。そのために本を読んでいるんだけど…

  • とても面白い。死の瞬間に未来からの光を見る。更に世界が並行に在ることを知る。

  • これはひど過ぎ。時間の話はつまらなそうで買わなかったのに、同じ著者だと思わずに買ってしまった。こいつは馬鹿かという感想。

  • 量子論関連の本は大好きなので読まずにはいられません。

    タイトル通り「空間は実在するか」についてですが、すごい面白い。

    時間と空間の関係を量子論から紐解いているのですがわかりやすくてしかも独創的。

    わくわくしながら一気に読んでしまいました。

    とっても面白かったです。

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