サヨナラ、学校化社会

著者 :
  • 太郎次郎社エディタス
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784811806662

感想・レビュー・書評

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  • 370

  • 生涯学習論を学んだ人間にとって、イリッチの「学校化社会」、ブルデューの「階級の再生産」、そして「ヒドゥンカリキュラム」など、本書で取り上げられる数々の生涯教育哲学とも呼べる言説たちは耳障りがよい。
    それに加え、上野先生の現場から得た知見、研究から培ってきた独自の考え方が織り成され、本書は教育学関連でも類を見ないバイブルとなったことは言うまでもない。

    奇しくも本書が刊行されたのは2002年4月1日であり、私自身が大学に入学した日ではないか。しかし、何故か本書を学生時代一度も読むことはなかった(研究室にもあったのに)。理由は定かではないが、大学卒業から10年が経とうとする今のタイミングで読めたことは何か因果なことなのかもしれない。

    思うに、結局のところ、今の社会は「学校化社会」から一向に抜け出す気配すらない。みんなやっぱり学歴、偏差値で序列化されることが好きなんだろう。

    あと、本書の内容からは直接的には関係ないのだが、気づいたことがある。
    昨今よく感じることは一人ひとりの嗜好や興味があまりにも多様化かつ複雑化しているということ。たぶん本書が刊行された10年以上前よりもそれは顕著になっている。
    本書に書いてあったことだが、人はあまりにも異質度の高いものであれば認知的不協和を起こすという。しかし、本来であれば異質度が高く、認知的不協和を引き起こすものであっても、ジャンルの細分化が起きている現代社会においては、それを理解するように振舞うことが一種の作法になっているのではないかと。つまりは細分化され本来ならその道のプロにしかわからないようなこと、特にアートや音楽など様々な分野の中で、人はそれをわかったような気分になっているだけではないだろうか。
    これも暗黙のうちに人は予定調和的な同調システムに知らず知らずに組み込まれているようでならない。自分ではオリジナリティ、独自性の追求、ライフスタイルの充実と思っていたとしても。

  • 最近言われて困ることは「M1の時より変じゃなくなったね」だ。私は変でいたかった。

    変になったきっかけは学部時代にある先生の出会ったのがきっかけだ。
    「恋って何?」「友だちって何?」と学生に問い、教員も一緒に考えていた。教員はそれを本当に面白そうに考えていた。

    本書は上野千鶴子流教育論である。
    上述のしたことは著者も「私は自分がおもしろがっていないことを他人サマにおもしろがってもらうことはできない、だから自分が面白いと思うことだけをやろう、と決めました(p.23)」という。
    教員免許を取得する授業は教員の面白さよりも、教えなければいけないことがある。だから面白くないのかもしれない。それでも面白い授業ができる師匠や若師匠はすごい。

    「東大にあるのはピア(同輩集団)の教育力です。その点では東大生は恵まれている、といえる(p.31)」学部生をみていると、自身の学部生時代よりはるかに優秀だと感じる。教員の指導はもちろん、学部生と院生が同じ講義を受けることも大きく影響しているだろう。

    著者のゼミで「援助交際は自己決定か」についてディスカッションをしたそうだ(p.65)。
    援助交際をする女性は、女性性や肉体を資源を高く売りつけるという生存戦略を主体的かつ合理的にとっている。
    そこで学生が「私はそういうことはしない。私は自分の能力(語学力・学力)で勝負する」という。そこで著者は「学力資源を売ることと女性性を売ることにどういうちがいがあるのか」と問う。これまた面白い。

    大学院でちょっとした違和感があった。「あぁ、そういうことだったのか!」というのが「生産財としての学位」と「消費財としての学位」という概念。
    前者は学位をとることがそのあとの職業の「手段」なること。後者は学位を得ることじたいが「自己目的」であるというもの。
    はっきりとどっちかに分けることはできないし、「どっちも」、結果的に「生産財」ということもあるけれど。これって面白い。

    最後にこの一言!やっぱり上野千鶴子はかっこいい。
    「私は研究者の最大の報酬は、頭の天井がスポーンと抜けるというか、「わかった!」「見えた!」という快感だと思うのです。この快感が最大の報酬。ある種のドーピングみたいなもので、これがあるからどんな不遇な目にあおうが研究者はやめられない(p.107)」

    これが本当の研究者ですかね?

    でも、「大学の教授になる」という目的のために論文を書いている人は教授になったら全く論文を書かない(川成洋『大学崩壊』)。それってどうしてだろう。快感を味わったことがないからなのか。それ以上にやらなくちゃいけない事務が多いからか。

    「隠れたカリキュラム」というのはフェミニズムが発見したそうだ(゜o゜)

    (まっちー)

  • 初めての上野千鶴子さん。

    頭いいなぁ。
    文章が明快で、知的で、わかりやすい。

    実践系でない教育本は久しぶりだったので、
    大学で学んだはずの内容なのに、ひどく頭を
    使った。

    脱・学校論者だけど、今の自分はどれと
    どれくらいの距離感にいるのかな。

  • 何度でも読み返す。バイブル。

  • いわゆる良い大学を出た人間の最大の強みは「やればなんとかなる、自分にはそれだけの力がある、という意識を持てていることである」、という言葉が印象的でした。学歴がもたらすものは「知識」よりも「自信」なのだということ、そしてその「自信」が無ければ先に進む為に行動を起こすことすら出来なくなってしまうこと等が書かれていました。

    低学歴でかつニート・フリーターなど社会的に弱い立場にある人達が思考停止しそこから脱出しようとする意欲すら持たなくなる背景にはこのような心理的背景があるのだということ、本人達の「怠け」ではなく学歴社会による心理的な圧迫があるのではないかという疑問に思い至り、社会問題を感情論ではなくロジカルに読み解くためのひとつのヒントになりました。

  • 学校とはなんなのだろう。階層の再生産を維持、低コストで全員が納得できる近代のシステム。えぐいな。。それの片棒担ぎをしてるわけだ。。う〜ん。でもそこを無視して生きてはいけないしな。

  • 現在の格差社会を見通していたと思う。

  • 上野千鶴子、

    ほんまにこの人、頭いいわ。

  • 学校エリートって何かを考える。
    女性に与えられたふたつの選択肢に愕然。

著者プロフィール

上野千鶴子(うえの・ちづこ)東京大学名誉教授、WAN理事長。社会学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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