夏の塩 (SHY NOVELS 233)

著者 :
  • 大洋図書
4.58
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本棚登録 : 911
感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784813012016

感想・レビュー・書評

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  • 読みごたえあった。二段組みで結構なページ数。文庫にしたら何冊分かな? BLといってもとっても仄かで、これくらいなら現実にも有り得るのではないかと思ってしまうほど。静かな中に強く太い絆が感じられた。二人のまわりを取り巻く人々もみな個性溢れるメンツ。お互いを尊重し適度な距離感で二人を見守る。ふわんとしているようで、生きているものなら切り離せないものについても見え隠れしていたりして、場面すべてが濃かった。榎田さんすばらしい! 大好きです。

  • 日本の3〜40年のボーイズラブ小説の歴史の中で、一番の傑作は何か?と問われたら、私は迷いなくこの「夏の塩」「夏の子供」を挙げるな、と久々に再読して改めて思った。10代の頃に読んで深く胸を打たれたけれど、今読んでも全く読み味が変わらない。デビュー作だからかボーイズラブ小説の定型にハマりきっておらず、魚住と久留米だけではなく、サリーム・マリ・響子・濱田などなど…たくさんのキャラクターを扱い、そのサブラインに何度も立ち入りながら、かなり微妙なバランスでボーイズラブ小説として成り立っている。ほとんど奇跡と言っていい。
    それにしても、魚住が久留米の汗で味覚を取り戻していることに気づくくだりや、さちのからのメッセージによって魚住が久留米に愛の告白をするくだりなどはちょっと涙なくして読めない。魚住というある部分がポカンと欠けてしまった人間、生きる感覚を失くしてしまった人間の喪失と再生。「塩」で味覚を取り戻したところから、つよい「子供」になっていくまで。単行本600ページ超にわたって、不器用に近づいたり離れたりする二人の関係性に身悶えながらも、たくさんのキャラクターが奇妙な輪を作りながら二人を支え、メインストーリーをきっちり読ませる、その構造には何度読んでも驚かされる。
    「みんなひとりなのだ。自分の土管の中で、自分はどう生きていくのか、それを考えなければならないのだ。」
    恋愛が全てではない、生きることをめぐる大きくて懐の広い物語であり、私が慈しんできたボーイズラブというカルチャーの一番美しくて素晴らしいところが結晶化された宝石のような物語。たくさんのボーイズラブ読者の宝物になっているであろう作品だし、何度も何度も再刊行されるのも当然だろうが、この作品が今後も生き続け、新たな世代のボーイズラブ読者に読み継がれていくことを心の底から祈っている。

  • 順番間違えたけど私にはそれがよかったみたい
    結末知らなかったら塩の中盤あたりまでのギスギス感で投げ出していた可能性がある

    日下部先生は魚住くんの持つ深い負のオーラに巻き込まれちゃった人なんだなあ・・
    マリさんが言っていたまんまだった。

    夏の子供の方でも名前がよく出たさちのちゃん、
    父親がキャリア持ちでそこから母子感染ってことなのか。
    さちのちゃんの話では泣いた、葉書の破壊力。
    ツライ

  • (´・ω・`) ネタバレアリ〼

    上下巻であることを知らずに、先に夏の子供を途中まで読んでしまいました。だからさちのちゃんが亡くなることも知っていたし、二人が晴れて結ばれる場面も読んでしまっていました。

    だけどそれでも、とても心に響きました。魚住の置かれていた環境、マリやサリーム、濱田さんがどういった存在で、久留米がどれほど魚住のことを大切に思っているか。幸福をうまく感じられずに生きてきた魚住が、彼らと過ごす中でやっと人間らしくなっていく様子。

    BLという、人によっては抵抗を感じてしまうジャンルで括られるのは、とてももったいないと思いました。ページを繰る手が止まらず、すごい早さで読み進めたので、BLと知って見守っていた同居人は多分引いていたと思う。でも、こんなに純粋な愛(恋愛、友愛、親愛)の話なのに。同性で愛し合うことの何がいけないんだろうと、少しかなしくなります。

    そしてそんなBL要素ですが、魚住と久留米のそういうシーンはとにかく甘い。同性ゆえの、あと一歩踏み出せない歯痒さが切なく、読んでいてこっちが恥ずかしくなって、ひとり頭を抱えながら読んでいました。すごく好きでした。

    これから、改めて夏の子供を最初から読もうと思います。

  • 2016.6.17 読了

    大好きな小説になった。
    魚住と久留米をひたすら見守りたくなる。
    ストーリーに厚みがあって、すべての登場人物の人となりや感情が緻密に表現されている。
    どんどん読み進めたいけど、読み終わりたくなくて、大切に1ページ1ページを読み進めたくなる。

    再読必至

    2017.1.22 再読
    2017-4

  • 久留米のアパートに居候してきた味覚障害のある魚住。なぜ分譲マンションに住んでいるのに居候してきたのか。味覚障害の原因はなんなのか。ぼんやりした魚住の様子からはうかがい知れない。
    ある日、久留米の汗を舐めて塩味を感じる。

    久留米と暮らすことで味覚を取り戻し、壮絶な不幸な過去を淡々として生きてきた魚住が徐々に感情を持っていく。久留米に恋すること、そして仲良しになった少女を眼の前で失ったショックでリスカする。それほど感情が出てきてしまう。
    痛いけれど、もどかしいけれど、いい話。

  • 10年ほど前、大学生の時に読んだものがハードカバーで出ていた。再び手に取った。

    うまく生きていけないけど、生きていると、まわりの人と心を通わすことができる。

  • 全体を通して人物がとても魅力的でした。BL小説では蔑ろにされがちな女性陣も、この小説の中ではキャラが立っていて凄く素敵でした(マリちゃん大好きです)。スピンオフのような形でそれぞれの人物に焦点を当てた話もその人物の成長が感じられて面白かったですね。
    いろいろと問題を抱えた魚住と不器用過ぎる久留米との話ではあるのですが、この2人の恋愛を通してそれぞれの人物がどのように大人になっていくのか、正直BL小説という括りだけでは勿体ない気しかしないです。

  • 魚住真澄はいろいろあって味覚障害。しかし、大学時代の友人、久留米充の家に転がり込んでから、徐々に変化していって――。

    ****

    なんやかんやでBL商業小説を読むのは、ほとんど初めてじゃないかなあ。漫画のスピンオフとかは割と読んでるんですけどね。とにかく、繊細な描写やキャラクターの魅力、脇キャラたちのお話、いろいろ絡み合って綺麗な世界を覗きこめました。綺麗かどうかは主観になっちゃいますけど。
    もちろん、魚住くんが儚げで不安定で面白い子なのも、久留米が大雑把で気にしない性格なのもいいんです。でも、わたしが一番「うわーこんな人いたら楽しい! 友達になってみたい!」と感じたのは、マリさんです!!
    あんなにカッコイイ人はなかなかいませんね。考え方もハッキリしていて、すっごく好みです。振り回される方は大変かもしれませんが……ハッキリしない方が苦手なので、すぱーっとしたマリさんにベタ惚れでした(笑)

    しかし、ちゃんとBLとしても胸がきゅっとなる要素満載の「夏の塩」。ぜひぜひ春夏秋冬問わず読んで見て欲しいです。

  • ハードカバーの装丁がとても綺麗。
    大雑把でヘビースモーカーな一社会人である久留米と、美しいけれど生活力ゼロな魚住の、スローテンポな愛のお話。
    ふたりの他にも、近所に住むインド人留学生サリームや、魚住の友人で放浪癖のあるマリ、魚住の上司である微あて馬な濱田など、まるでこの日本のどこかで本当に呼吸をしていそうな生きた人物が存在する。
    本が離せなくなってしまうような流麗でやさしい文章が脈々と流れている。最後のページまで言っても、まだまだずっとかれらの日常を覗きたいと思えるような、余韻に浸れる小説。とてもすてき。

    哀しいほど暗い過去を持つ魚住と、それを無自覚ながら丸ごと受け入れてしまう久留米がすこしずつお互いに寄り添っていく様子が丁寧に描写されています。

    綺麗な文章にひとめぼれして以来、何回も読み返しています。続編の「夏の子供」と一緒に。

    俗にいうBL小説の中でもここまで洗練された文章力や安定した世界観、立った登場人物を持つ小説はめずらしいです。
    「こんなにすごい小説を書く方がいるのかあ」と思って作者さまを尋ねてみれば、これが榎田尤利さんのデビュー作と知って、信じられない気持ちになりました。まさしく文壇の鬼才と言うべきでしょうか。

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著者プロフィール

東京都出身。2000年、「魚住くん」シリーズ第1作となる『夏の塩』でデビュー。以降、多彩なテイストの魅力的なボーイズラブ作品を世に送り出している。代表作としては「交渉人」「漫画家」「Nez〔ネ〕」各シリーズなど多数。榎田ユウリ名義でも「宮廷神官物語」「カブキブ!」「妖き庵夜話」「死神」各シリーズなどを発表し、読者から熱い支持を得ている。

「2022年 『threesome』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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