経済学私小説〈定常〉の中の豊かさ

著者 :
  • 日経BP
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822251024

作品紹介・あらすじ

マクロ経済学者の手による連作短編小説の形式を取り入れた日本経済論。「経済学のロジックと現実経済のデータからいっさいずれていないフィクション」の試み。
本書「最初に編集者から読者へーー「経済学小説」の誕生」から冒頭部分抜粋  
 あのころ、おそらく2014年の初めごろだったと思うが、私は、小さな出版社の編集者として最大の危機に直面していたのかもしれない。我ながら不覚であった。戸独楽戸伊佐(とこま・といさ)先生から原稿ファイルの入ったメモリーをお預かりしてのち、先生との連絡がまったくとれなくなってしまったのである。
 先生の奥様によると、「編集者と会ってくるよ」といって家を出られたそうである。その日、私は、駅の近くの喫茶店で(実は、フランス語で隠れ家の意味である「ルフュージュ」以外で、先生と会ったことは一度もなかった)、確かに先生から原稿ファイルを受け取った。その後、先生は、忽然と私の前から姿を消してしまわれた。私は、先生が、その喫茶店の近くにお住まいだと勝手に想像していたが、実際は、どこにお住まいだったのか、まったく知らなかった。ただ、いたって元気な奥様は、受話器の向こうで「戸独楽は、おりませんが…」と、妙に余韻のある言い回しで、なんだか、「主人だったら、おりますが…」というようにも聞こえた。

感想・レビュー・書評

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  • 「リーダーの教養書」で大竹文雄氏が推薦していた書なので読んでみた。いやあ、小説の形をとりながら経済の仕組みがさりげなく解説されているのだが、なかなかどうして、かなり難しかった。

    消化不良ではあるものの、本書を読んで気づかされたことを2つほど。

    まず1つ目は、日銀が紙幣を刷って錬金術のように無からお金を生み出すことはできない(禁止されている)、という点。

    「「日銀券で調達した資金で長期国債を購入する」とはいっても、「中央銀行は、輪転機をガンガン回して刷った紙幣で長期国債をいくらでも買うことができる」ということにはならない」、「日銀券の発行規模は、個人や企業が日銀券を必要とする度合いで決まってくる。」、「「紙幣の印刷」=「日銀券の発行」などという等式は、現実経済で全く成立していない。日銀券の発行規模は、紙幣の印刷枚数に左右されるものでなくて、あくまで日本経済の活動状況によって決定される」、日銀による国債の直接引き受けは「憲法でも禁じられている。なぜならでこうして発行された紙幣は、経済的な価値のあるものにいっさい裏付けられていないので、紙幣の価格は即座に下落して、経済社会が極度に混乱してしまうからである。」などなど。分かったような、分からないような。

    著者が言うように、日銀が紙幣を刷って市中にばらまくことができないのだとしたら、通貨の供給量は一体どうやって増やすんだろう? ちょっと考えてみた。例えば、庭を掘ったら石油が出てきた(資産が生まれた)ので、(この資産を活かすため)埋蔵された石油を担保に銀行から10億円を借りるケースを考えてみる。銀行にはたまたま預貯金の残高が5億円しかない。銀行は預かっている預貯金の限度でしか融資できないから、必要としている者に必要な金額のお金を貸し出せず、これでは経済が回らない。このような場合(担保に基づくお金の借り入れニーズがある場合)、日銀が市中銀行に金を貸し出す仕組みがあるってことなのかな。担保を形にしたお金の貸し借りだと、担保の価値と供給された貨幣が釣り合う限り、無からお金が生まれたことにはならないから貨幣の価値は毀損されない(担保が将来生み出されるであろう価値や無形のブランド価値だった場合にも同じように考えてよいのかな? 株やブランドは一瞬で無価値になってしまうことが有り得る訳だけど…)。これが通貨供給量を増やすからくり?? どうも、ネット情報を見ると、この日銀と市中銀行の間の通貨量のコントロールに国債が使われているらしいのだが(買いオペ、売りオペ)、国債は将来の税収を当てにした国の借金だし…。本書に啓発されて、難しいことを考えてしまったが、結局よく分からん。

    2つ目は、名目為替レートを見て円高を問題視するのは間違いであり、実質為替レート(日米の消費者物価を加味した為替レート)に着目すべき、という点。実にシンプルで分かりやすい。例えば、「名目為替レートで見ると、2002年初は1ドル130円強、2014年末は1ドル120円弱で1割強の円高が進行した。しかし、同じ期間に、日本の消費者物価水準はほぼ横ばいだったのに対して、米国の消費者物価水準は3割以上上昇したので、実質為替レートで見ると、約2割の円安が進行したことになる」のだという。名目為替レートが円高に振れるのを見て経済の先行きを心配したりしていたが、実は実質円安だったとは。全く知らなかった。

    経済の仕組み、改めて勉強しないとな。

    • りまのさん
      う、一生懸命読みましたが、分かりませんでした……。りまの
      う、一生懸命読みましたが、分かりませんでした……。りまの
      2021/01/26
    • norisukeさん
      拙いレビューを読んでいただき、ありがとうございます。理解できてないことがバレバレで、恥ずかしいです。
      拙いレビューを読んでいただき、ありがとうございます。理解できてないことがバレバレで、恥ずかしいです。
      2021/01/26
    • りまのさん
      りまのの頭が、トロいのです…。
      りまのの頭が、トロいのです…。
      2021/01/26
  •  物語パートのきごちなさと、登場人物のネーミングのカンブリア級の古さに読者が固く目を瞑れば、実りある読書になりうる。
     ただし私は楽しめなかった。著者がこの本を書く前に、文章修行として筒井康隆の『文学部唯野教授』を音読しておけばもっとマシになっていたに違いないと確信している。
     ところで、著者のwikipedia記事(否定的言及に偏っているので問題あり)は頻繁に更新される割に、著書リストが不完全で役に立たないのはなぜだろう。

    【版元】
    頁:464ページ
    価格:2,376円(税込み)
    ISBN:978-4-8222-5102-4
    発行元:日経BP社
    発行日:2016/01/20
    http://bpstore.nikkeibp.co.jp/item/books/P51020.html


    【目次】
    目次 [003-005]
    主な登場人物 [006]

    編集者から読者へ――「経済学私小説」の誕生 007
      プロローグ 
      Part I.  “定常"の中で市民として
      Part II.  “定常"の中で公僕として
      エピローグ 

    途中で編集者から読者へ――「あなたが戸独楽先生ですか?」

      番外篇 

      著者と編集者から読者へ
    『経済学小説』を真に役立てるために 422
      番外の番外
    賃上げとは?――ある左派政党幹部の鬱病(?)
    最後に編集者から読者へ――「夜がけっして訪れることのない黄昏」の可能性 421
    著者あとがき(2015年11月吉日記 齊藤誠 代) [460-461]

  • 小説としての複雑な作り込み(を意図したと思われるもの)はあまり感心しなかったが、マクロ経済学の復習、もしくはマクロ経済学理論の応用(実社会へのフィット)を知ることのできる秀作なのではないか。経済学部生の副読本としても良いように思った。自分としては、読みながらどのモデルを用いているのかがわかるのは楽しく、しかしモデルが完全に理解できていないことが確認できて少々落胆もした。

    またこれは小説の体裁ならではのことだが、孤高の経済学者が社会でどのような仕打ちを受けているかも描かれていて、それが想像通りの面があり微笑ましくも悲しかった。特に「中高年の作文コンクール」の項では主人公として描かれた経済学者の主張に私は強く賛同する。

  • 経済

  • 現行の経済を研究者の著者である戸独楽戸伊佐の原稿をもとに編集者が解題のやりとりを書いた作品。

    経済の問題のみならず原発や経営者との対談など経済に精通する研究者の論点と解題がノンフィクションであり、フィクションであると感じるとともに、政府などへの提言など鋭い指摘も盛られており、物語として楽しみながら教養を身につけることができました。
    いくつかの話で指摘されている物価上昇と交易条件の関係性についてはたいへん勉強になりました。
    また、番外編については編集者である立退矢園が小説を書いており、そちらは馴染みやすい内容から戸独楽氏とは違った論点から書かれているところも面白いと感じました。

    日本経済の問題点を考えさせられるとともに物語も楽しむことのできた一冊でした。

  • 難しかった

  • 基本的には「父が息子に…」の続編的な内容。前作で容赦なく散りばめられていた数式は本作では影を潜め、代わりに短編小説のようなフィクション形式での叙述が主体となっているが、「現実経済における諸問題の検討→モデル化→公表データで検討」という流れは引き継がれている。

    本書の「定常性の持つダイナミクス」というテーマは、要は「当局のポジショントークに惑わされず、きちんと公表データを見て、停滞しているとばかり見られがちな現状のうちに何が起こっているのかを冷静に見出そう」ということだろう。現下の日本経済停滞の主因が交易条件の長期的悪化であり、物価の下落によるものとは言えないこと(つまり逆説的ながらデフレ自体が悪なのではない)、日銀の金融緩和が日銀券の増刷などではなく実は民間銀行の準備預金により成されてきたこと(ということは、マイナス金利で準備預金が減れば緩和効果も消失?)などは、政府高官の説明に真っ向から反するもの。しかしその根拠となる数字がまさに政府発表の統計からロジカルに導き出されるものだけに有無を言わさぬ説得力があり、現在政府が謳う成長戦略や金融政策の怪しさを再認識するには十分。基本的に過去の公表データからの分析なので将来動向への言及が少ないが、軽々しく将来予測を口にするエコノミスト達の文章よりは遥かに信頼が持てる。

    個人的には、純設備投資と消費の関係を表す式の使われ方に恣意性が見られることの指摘に喝采。経済学の「=」って、論理式の「ならば」を使うべき場面にも使われたりするから厄介だ。

    一昔前の倒叙ものの本格推理小説みたいな本書の建て付けが奏功しているかは大いに疑問。ただ、あなたがやけに威勢のいい政府見解と身の回りの風景との間のギャップに違和感を感じるならば、この本にその理由が書かれている可能性は非常に高いと思う。

  • 日経書評より
    「父が息子に語るマクロ経済学」の著者。

  • 経済学の理論とデータに基づいて、架空の経済学者と編集者が織り成す新しい小説。
    大事なのは「経済小説」ではなく「経済学小説」であるところ。
    ここには不確かな経営理論に基づいたストーリーなどは皆無であり、愚直に新古典派経済学に基づいた作品である。
    こんな変わった形式にもかかわらず、齊藤先生の経済データと愚直に向き合う姿勢が貫かれていて、読んでいて自分の姿勢が正されるようだった。
    私も目の前のデータに真剣に向き合う人でありたいと思う。

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著者プロフィール

1960年愛知県生まれ。1983年京都大学経済学部卒業。1992年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。住友信託銀行調査部、ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授、京都大学経済学部助教授、大阪大学経済学研究科助教授、一橋大学経済学研究科教授などを経て、2019年より名古屋大学大学院経済学研究科教授。
日本経済学会・石川賞(2007年)、全国銀行学術研究振興財団賞(2010年)、紫綬褒章(2014年春)。

著書
『新しいマクロ経済学』(有斐閣、1996年、新版2006年)
『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、2000年、日経・経済図書文化賞)
『資産価値とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、2007年、毎日新聞社エコノミスト賞)
『原発危機の経済学』(日本評論社、2011年、石橋湛山賞)
『震災復興の政治経済学』(日本評論社、2015年)
『危機の領域』(勁草書房、2018年)
Strong Money Demand in Financing War and Peace(Springer, 2021年)他

「2023年 『財政規律とマクロ経済』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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