意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826902359

作品紹介・あらすじ

生命進化の過程で〈意識〉はいつ生まれたのか?
私たちの〈心〉はどのようにして形づくられるのか?
〈機械〉に意識を宿らせることは可能なのか?

ユニークな工学的アプローチで脳が心を生むメカニズムに迫った、神経科学の第一人者による衝撃の論考。
意識を宿したAI(人工知能)=人工意識は、いかなる未来を描くのか?

”意識の注目理論を提唱する著者と、脳の中へと飛び立とう。
ヒトの心に興味があるなら、この本は最高の知的冒険だ。”
――ブライアン・グリーン(『時間の終わりまで』著者)

”彼の斬新なアプローチが、幾多の意識研究が陥っていた沼から私たちを救い出す。”
――スーザン・ブラックモア(『意識』著者)

”難解になりがちな意識のテーマをわかりやすく伝えた、お手本のような一冊。”
――『パブリッシャーズ・ウィークリー』

感想・レビュー・書評

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  • 著者は、究極的には工学的に意識を作り出せると考える。
    意識を"謎めいたもの"であるとか、人間には不可知であると見なすのではなく、意識を"実用的・工学的観点"から理解すれば、驚くべき未来が待っていると語る。

    「心は培養され、そして保存されるべきもの、もとの生物学的プラットフォームから取り出され、移植され、複製され、いくつかの枝に分けられ、無限に維持され、さらにはほかの心と混ぜ合わされることができるものとなる。私は、やがて心は生物学的身体から切り離され、人工知能とヒトの知能との境界は曖昧なものになると思う」

    本書の原題は『意識再考』で、訳書のタイトルは邦題を柔らかくしようと訳者が考え付けられている。
    あえて「意識はなぜ生まれたか?」の著者のアンサーを探せば、次の文章が見つかる。

    「脳が意識という構成物を進化させたのは、二つの大きな利点があったからだと考える。ひとつは内的な制御能力の向上、もうひとつは社会的認知のための基盤である。こうした理論があり、しかも実用的な利点もあるので、人工意識はいまや離陸可能な状態にある。次の10年で、なんらかの形の人工意識が誕生するかもしれない」

    意識を持つことは果たして「有用」なのか?
    確かに我々は、夕陽を見て感動することができるし、何も言わなくてもお互いに目を見つめあうだけで心情を理解しあえる。
    それ自体は本当に素晴らしいことだが、意識は同時に、イジメや中傷、自己不信なども生み、これほど苦しめられるものもないのではないか。
    ヒトは社会的な動物で、他者と協調行動を取る上で、自分自身だけでなく、他者にも反射的に意識を帰属させる能力は不可欠なのだろうが、そのために意識が生まれたんじゃないだろう。

    進化の過程で我々の身体は、その時々の困難に対し、即興と間に合わせによって、行き当たりばったりの改変をし続けてきた結果、たまたま生まれてきたのが意識と捉えた方が正しい気がする。

    著者は、心はつまるところ情報なのだから、「ちょうどコンピュータからコンピュータへとコピーされるファイルのように、別の情報処理装置にコピーすることも原理的には可能」だと考える。
    記憶だろうが、性格だろうが、意識だろうが、脳内の物理的なメカニズムの産物に過ぎず、スキャンしコピーし、人工的複製物を作ることも不可能ではない、と。

    ただ、生きてる脳を正確にスキャンするって大変なんだよね。
    何百億、何百兆とあるシナプスやニューロンの、それもその、わずかな膨らみまで複製するって、とんでもない解像度を必要とするスキャニング技術がいるけど、それが実現できるのは一体いつになるだろうね。
    ま、原理的には複製可能とは、そういう意味なのだが。

    心が情報だと言っても、それは単純で静的なものではなく、膨大で、つねに変化し続け、美しいほどに複雑なものだ。
    それに問題はバケツの中身ではなく、バケツそのものなのだというのが本書のポイント。

    情報を主観的な体験へと変えるために、意識は特別な方法で情報処理をしている、その神経プロセスこそが重要なのだ。
    大脳皮質のこの情報処理の仕方は独特で、著者はNFLに喩え、最終勝者になって「脳内の名声」を勝ちうるまで、情報は休みなき選抜のプロセスにさらされるとする。
    ここで、著者ご自慢の「注意スキーマ理論」の登場だ。
    この注意スキーマが最終的に、我々に主観的体験をもたらすのだが、とにかくイメージが掴みづらい。
    まずこの「注意」が一般的な"注意"の意味するものではなく、PCのポインタのようなものでもない。

    注意とは、光や音のような外的刺激に対する反応のようなものではない。
    抽象的思考などとともに内的経験として処理されるものであり、内なるスポットライト - 直接的で具体的な対象からもっとも抽象的な概念にいたるまで、私たちの処理の焦点がカバーする多次元の、ほとんど無限とも言える世界の探索を可能とするものだ。

    「情報どうしを激しい競争にさらして、一度に限られた情報だけを集中的に処理し、この処理の焦点をシフトして調整する高度な制御装置をシステムに組み込むこと。世界の複雑な理解を可能にしたもの、それが注意である」

    ふつう我々は、注意を意識の一部だと考えるが、科学的には間違いだと語る。

    「注意は、層をなした一連のメカニズム、つまりデータ処理の方法であり、これに対して、意識は自分が有していると思う内的体験である。注意とは脳がするなにかであり、意識とは脳が有していると主張するなにかである」

    わかったような、わからないような説明だが、要は注意と意識は別物で、意識のメカニズムが失われた場合でも、注意のメカニズムは存在しうるらしい。
    つまり「注意はたんなる意識の局所的な集中ではない。注意は、意識とは異なる特性なのだ」そうだ。

    もっとわからないのは注意のもつ「不定形な力」で、「休みなく動き回り、探索し、リンゴや音や考えや記憶といった対象を一時的につかまえ、それ以外の対象を排除する。ひとつの対象をつかまえると、その対象はあなたにとって鮮明で、リアルで、生き生きしたものになる。言いかえれば、それは対象を体験に変え、強力な結果(行為の選択など)をもたらすのだ」とするところ。
    ま、つまり、もし注意がなかったら、必要な情報を欠き、意識は無意味で無関係なものとなる、というのが結論だそうだ。

    ほんと、この「注意スキーマ」って実態が掴みにくいんだけど、なんとなんと著者は、意識をもつ機械を実現するための4つの構成要素のうち、この2番目の注意スキーマの実装がもっとも安易だと語る。
    「注意スキーマを機械にもたせれば、人間と同じように自分には意識があると主張するものができあがるだろう。人工的な注意スキーマの行く手に立ち塞がる大きな技術的ハードルはない。それはほぼ間違いなく、四つの構成要素のなかでは、もっとも容易に、しかも限定した形で組み込める」のだ、と。

    私は人工意識なるものを実現するなど、まるで即興曲をコピーするのに似て、完コピしたと思った矢先から姿を変えるため、不可能じゃないかと考えるのだが、いくつか共感する箇所もあった。

    まず、複雑さが意識を生んだという主張の難点を指摘している所。
    つまり「進化の過程のどこかで、神経システムが複雑になって、ある閾値を超え、主観性を獲得した」とする説で、これはともすれば、意識が「複雑な情報処理から自然に生じるという直観」を生むため、著者はそうではないと否定する。

    あと人間以外の下等な生物に意識などないという言説も否定する。
    洗練度に違いはあれど、爬虫類や鳥類、哺乳類にも広く、注意スキーマを有していて、意識はヒトだけでなく、動物界において広く共有されているとする。

    それと、視覚的意識の処理システムは階層構造になっていて、一番最下層の入力段階では意識を生じないと考えられていたが、実はそうではなく、システム全体が生成に寄与していることがわかったと指摘。
    つまり、意識はすべての処理階層からもたらされるのであって、意識領野と非意識領野といった区別に意味はない。
    と同時に、意識体験はどこで生まれるか?という問いも意味がないとする。

    面白いのは、眼から意志やエネルギーが照射されるという考えは古今東西、古くから共有された信仰で、こうした心のビームは、他者の発する注意のビームを追跡すれば、予測に役立てることができるとする、生まれながらの直観を示していて、潜在的な内的モデルとして深く組み込まれたものだとしているところ。
    山田風太郎の『甲賀忍法帖』の甲賀弦之介は、必殺の瞳術を使って、敵を自滅させるのだが、この手の眼からビームの話は昔からよくあって、子供でも違和感なく共感できるのが不思議だった。
    同様に幽霊に対する古くからの信仰も、この内的モデルから説明がつくとする。

    2022年9月28日、ヤンキースのジャッジが61号ホームランを打った時に、あるツイートが話題になった。
    曰く、「1961年にヤンキースの背番号9のロジャー・マリスが61本を打ち、その61年後にヤンキースの背番号99のジャッジが61本打った」と。
    マリスの61号が出たのは1961年で、そこから61年後の2022年にジャッジが記録に並んだ。
    さらに、マリスのヤンキース時代の背番号は9で、ジャッジは99と。
    この数字の奇妙な対称性に興奮を覚えたのは、ヤンキースファンだけではなかったと思うが、意識の観点から考えると本当に味わい深い。

  • 物質に過ぎない脳からどうやって主観的な体験である意識が生まれるのかというハードプロブレムをそのまま解くのではなく、なぜ人はそもそもハードプロブレムがあると思ってしまうのかを説明するアプローチを取る。
    ハードプロブレムは存在しないと主張するダニエル・デネットと同じ立場だ。
    我々は外界の情報をすべて平等に扱うのではなく、その重要度に応じて優先づけを行なっている。そのプロセスは注意と呼ばれる。注意は制御を要する。制御を行うためには、注意を描写する内的モデルが必要になる。それを注意スキーマと呼ぶ。
    注意スキーマは、物理的なプロセスをそのまま描写するのではなく、ある種の単純化されたリアルな非物質的特質を記述する。それが、人に意識が存在すると主張することを可能にする。
    一回読んだだけでは、わかったようなわからないような感覚なので、多分わかっていない。注意スキーマの文献を読んで理解を深めたい。

  • 攻殻機動隊のゴーストダビングが現実味を帯びてくるんじゃないか!?という本。
    生物の意識を

    センサー→強化抑制→取捨選択→クオリア

    の順で説明していきます。

    ゴーストのアップロードに必要な

    コネクトームプロジェクトの説明と進捗
    人での現状

    もわかります。

    結論から言うと、脳細胞&シナプスの量が莫大なので、まだまだですが、
    この先が怖いような楽しみなような、、。

  • 医学部分館2階書架 : WL300/GRA : https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410170413

  • 原題
    Rethinking Consciousness : A Scientific Theory of Subjective Experience
    (意識再考 主観的体験の一科学理論)


    原著2019
    プリンストン大 神経科学・心理学教授



    ■7章 さまざまな意識理論と注意スキーマ理論

    ○意識の錯覚説
    142

    中心にあるアイデアは、わたしたちが実際には意識など持っていないというもの。主観的な特質である意識体験そのものがない。その代わり、私たちが自分に意識があると「思う」のは、脳が生み出す錯覚なのだという。

    注意スキーマ理論も、ある種の錯覚説になる。
    この理論では、意識の得体の知れない特性、そのつかみどころのない形而上学的な性質は、現実には存在しない。自分にこうした特性があると思ってしまうのは、私たちの不完全な内的モデルがそのように教えるからである。

    ○注意と意識
    160
    (世間一般の理解と異なり)
    注意は、層をなした一連のメカニズム、つまりデータ処理の方法
    →これに対して、意識は自分が有していると思う内的体験

    注意とは脳がするなにかであり、意識とは脳が有していると主張するなにかである

  • ウェルメイドな啓蒙書だと思った。著者のサービス精神/ショーマンシップが垣間見える。ともすればロジックの袋小路に陥りかねない「意識とは何か」「脳とは何か」という問題に関して(むろん、袋小路に迷い込んだらそれはそれで面白いのだが)、平たく整理しこちらに考えるヒントを投げかけてくれる。俗に言う「ハード・プロブレム」や「心のアップロード」に至るまで、生物学からサイエンス・フィクション的な思考実験まで何気に著者がこちらを魅惑する技巧に唸らされ、「懐の深さは曙並み」(スチャダラパー)だなと思わされた。お薦めしたい一冊

  • シンギュラリティは近いなんて言われるけど脳の深淵さを考えるとまだまだその日は来ないと感じます。

  • 意識下の中の無意識。アフォーダンスという概念はどこでも出てきますね。

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著者プロフィール

プリンストン大学神経科学・心理学教授。同大学の神経科学ラボを率いる。神経科学に関する本を執筆するほか、ニューヨーク・タイムズ紙、アトランティック誌などに寄稿する。プリンストン在住。趣味は執筆、作曲、腹話術。

「2022年 『意識はなぜ生まれたか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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