欲望について

  • 白揚社
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826990431
#A

作品紹介・あらすじ

欲望はどのようにして生まれ、われわれをどこへ導いていくのか?最先端の生物学的研究成果から古今東西の哲学、宗教の智恵にいたるまで。アメリカ図書館協会CHOICE誌2006年度優秀賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 2015.11.20
    心理学、哲学、古代の思想家らの知見を織り交ぜながら、欲望とは何か、欲望存在としての我々はいかに生きるべきかを述べた本。これまた、なんで早く出会わなかったかなと思わずにはいられない一冊だった。Part Ⅰでは、欲望が如何に自分の与り知らないところで発生しているかについて。特に他者に関する欲望(社会的欲望、羨望や嫉妬、優越欲求など)が現代人の強烈な欲望を多く占めるという現状や、また欲望の危機(欲望の喪失=無気力や鬱、欲望への嫌悪=これまでの生活に嫌気が指すなど、欲望の意義の喪失=この欲望を満たすことが生きる意味においてなんになるという絶望的実感)という捉え方は興味深かった。Part Ⅱでは、心理学の知見も踏まえ、そもそも欲望とは何なのかという考察に入る。BIS(生物学的報酬システム)によって、快不快の情動より生まれる直接欲望、そしてその欲望を満たすために知性が生み出す間接欲望、また直接欲望にも快楽を得られる快欲望と、ただやりたいだけ(癖とか)という非快欲望とがある、という欲望の構造的理解は非常に示唆に富むものである。この欲望形成理論において、人間の生得的階層的欲望から生まれる多種多様な欲望を説明することができる。別の本(欲望を知る)にて、欲望の4階層性及び、外的刺激に対するパラレルな入出力について知ったが、そのパラレル性に加え、そこから間接欲望を鎖のように繋ぎあわせることで我々は欲望を生み出している。また進化心理学的知見から、我々の知性は情動から生み出された、生存と繁殖にとって有利になるための直接欲望を満たすための、間接欲望を推論によって生み出すという機能に過ぎず、あくまで知性は情動に対し従属的であるということが明らかにされる。我々の欲望システムは我々が今までそれにより生存してきたからこそ生み出された進化の産物であり、その結果と、現代に生きる我々が幸福に有意義に生きることは、重なっていない。意志や理性とは独立して働くBISにとっての至上命令は、生存と繁殖の確率を上げることのみであり、我々の自由や幸福、生きる意味ではない。故に情動は知性=私という意識に対し全く独立して働き、言うことを聞かず、黙らせることもできず、我慢しなさいと言えば泣きわめき、まるで内なる五歳児である。さらに深層心理学の知見から人間は自分の無意識を意識によって知ることはほぼできない(サブリミナルマインドも参照)ということを明らかにしていく。つまり自分の欲望についても正確に知ることはできず、欲求ミス(ミスウォンティング)が生じる。欲望に生きる者にとっての不幸は、この、自分が本当に欲していることは何なのかを知ることが難しいということ、にも関わらず間違えたチェーン(間接欲望)を作り上げ、本当に欲しているもの以外を求めいつまでも不満足であることだろう。また逆に自分が本当に欲していることを知りながらそれを満たす間接欲望として何を求めてばいいかわからないという知性的問題もある。欲望のチェーンにおいて、その始まりがわからないから、何を形成すればいいのかわからないというのと、始まりはわかるけど、何を形成すればそこにたどり着けるのかわからないという、2つの欲望形成ミスがあるように思われる。Part Ⅲでは、東西の哲学や宗教、そしてエキセントリック=世捨て人的な生活を送った人々から、欲望と付き合っていくための方法を学ぶ。大きく見ればその方法は2つ、節制と克己だろう。節制とは、自ら欲望を抑えることもそうだが、そもそも欲望を喚起するようなものを生活から排除することも含む。克己はそれでも湧き上がった欲望を、諌めること、それは別の欲望にすり替えることでもあり、祈りなど超越者を頼ることでもある。まとめとして、欲望は単独では存在せず、発生源も複数ある(網の目のようにチェーンは繋がれていく)。生得的報酬システムにより我々の欲望の大部分は決定されており、しかもそれは進化の結果であり、我々を幸福にすることを主目的にするものではない。そんな欲望に対し我々の知性は従属的であり、真正面から戦うという方法ではほぼ勝ち目はない。特にハルトマンの理論通り、価値の高いものへの欲望は弱く、価値の低いものへの欲望は強い、つまり知性的欲望はコントロール可能でも、情動的欲望はコントロール不能である。欲望を完全に消すことは不可能(それはほぼ鬱状態)であり、また抑制することも容易ではない。しかし我々の欲望は満足を知らず、故に欲望不満足への最悪の対処法は、それを満足させようと必死になることであり、それは麻薬中毒による不満足を治すために麻薬を摂取し続けるようなものである。そして満足を得る最良の方法は、上記の、知性の無力さにも関わらず、しかし不快さを耐えBISに反抗することもできる我々の選択によって、自分自身を変えること、足ることを知ることである、とする。これだけの知見と説得力をもってしても、私はまだ、満足=心の平静への道を歩む勇気がでないというのが、正直なところである。かつてそれを選び、やってみたことがある。確かに毎日が清々しく、悩み不安は少なく、幸福と言えるものだったが、その心の平静に襲ってきたのは、虚無と、退屈だった。おそらく欲望そのものに対する禁断症状のようなものだったのかもしれない。一方に、欲望を節制し克己する、幸福=心の平静への道があり、一方に欲望の充足によるあの強烈な快楽、それはすぐに適応し不満足へと変わるのだが、絶えず快楽→不満足→快楽→不満足...という道があり、まだ私はどちらともつききれない。欲望の充足が無意味で終わりがないという決定的実感が足りないのだろうか。もうしばらくは、心の平静(反転すると退屈、虚無)と、果てなき快への渇望(反転すると不満足、苦痛)の間を、まさにショーペンハウアーが人生は苦痛と退屈の振り子であると言ったように、私も振られておこうかなと思う。欲望を考える上で非常に示唆に富む一冊。

  • 仏陀「人を奴隷にするのは生でも、富でも、力でもなく、生と富と力への執着なのだ。」

  • 欲望についての分析と考察。
    非常に良書。

    欲望はあなたの内部で自然発生するもの。
    それは生存と繁栄のため。
    その言いなりになることは、人生を意味のあるものにしない。

    以下メモ
    あなたの人生が地上の天国になるか,地獄になるか。
    それをかなりの程度まで決定するのは、あなたの置かれた環境ではなく、あなた自身であり、そしてまた、あなたがどれだけ欲望を抑制しているかにかかっている。

    人生最大の目標とすべきものが、名声や財産の追求であってはならない。
    目標とすべきは満足を手に入れることである。
    世俗的成功を手に入れても、その追求に向けて彼らを駆り立てた不満の感情は消えることがない。

  • 賢い人を幸福にするにはほとんど何も要らないが、愚か者を満足させるものは何もない。たいていの人が惨めなのはそのためである。 ラ・ロシュフコー

    の一文から始まるが、それに集約されているような本。

    私たちは日々、自分の中から湧き上がるありとあらゆる欲望(食欲、物欲、富、名声、異性、称賛 etc)に突き動かされ、そして苦しんでいる。

    それにもかかわらず、多くの人は欲望を満足することこそが幸福に繋がると信じて活動している。

    が、しかしそれは本当に幸福をもたらすのか?

    という問いからスタートした本書。

    中身はこんな内容
    1. 欲望の潮の満ち引き
    2. 他者
    3. 欲望の水脈をたどる
    4. 欲望の源泉
    5. 欲望の心理学
    6. 欲望の進化
    7. BIOS(生物学的インセンティブ)
    8. 人間の置かれた状況
    9. 仏教、キリスト教、イスラム教
    10. アーミッシュ、フッター、オナイダ
    11. 哲学と欲望
    12. 変わり者

    というように、欲望の現状 ⇒ 欲望の原因。メカニズム ⇒ 欲望との良い向き合い方 というように系統立てて書かれており、理解しやすい。

    特に我々日本人にとっては仏教国であるがゆえに煩悩という名で古くから付き合ってきた。
    ただし、それは今のように懇切丁寧に系統立てて科学的に説明されているわけではないので、どうしてもわかりにくくなっている感じがする。

    なので、仏教に興味がある人が読んでも理解の一助になるのではないか。

    以下、良いと思った考えなど
    ・私たちが他者を求めるのは反応が欲しいためだ。私たちのほとんどは自信がない。

    ・人間の真の幸福が宿るものとして、他者の頭はあまりにも惨めな舞台である。

    ・我々は人に幸福だと思わせるためには、実際に幸福になるためよりも、はるかに労をいとわない。

    ・私たちが羨望の虜になるのは、たんに他人の生活よりも自分の生活の方が良く知っているからだ。

    ・日々の生活にたえず欲求不満を抱く人の多くは知的能力を欠いているか、知性があるものの使っていないか。

    ・手に入れたとたん好きでなくなるようなものを欲しがることがある。

    ・今持っているモノに満足しなくなれば、また新しい欲望を形成する。

    ・生きようとする「生物的」意志が砕かれたとき、人間は生きることを「証明」しようと知性がどれだけ努力しても効果がない。

    ・BISは生物の生存・繁殖に有利な事は「快」、不利な事に「不快」を示すプログラムだ。それは生きることに有利であってもそれは個人が幸福かどうかは意に介さない。

    ・欲望は道徳的に悪いからでなく、克服しない限り私たちが苦しむ。

    ・成功と満足は違う。というよりかなりの程度まで相容れない。

    ・自分の欲望に何らかの歯止めをかけない限り、満足することはない。

    ・セックスに関わる快楽は、ドラッグ同様にこちら側に相当の犠牲を要求する。特に異性を性的に判断するなど

    ・人間に最も強烈な楽しみを与えるのは、そんなものからでも楽しみを見出せる力である。

    ・楽しみの奴隷にならないやり方で楽しめ

    ・受け入れた時はじめて、人は受け入れたものの真価を認めることができる

    ・欲望を達成したら何が私に起きるだろう?達成しなかったら?多くの場合、全く変わらない。

    ・隣人から尊敬されたいという欲望は、自分から見て尊敬すべき存在でいたいという欲望よりも強い

    ・この人の人生が価値あるものなら、生きることに熱中して、私を批判する時間などあるはずがない。

    極論、 唯我足るを知る ということです。

  • 欲望についての形式化、客観視ができるようになる。他者からの承認や、優越感を得たいという欲求など、どのようなかたちの
    欲求があるか理解することで、自らがどのように振舞うのかということを自分で考えることができるようになる。
    ただ欲望の生まれる理由についてもっと根源的な議論が欲しかった。

  • 心理学の入門書としては、かなりおすすめ。平易で分かりやすいうえに、深い学習にも繋げていける。
    「欲望」について、歴史・文化・宗教・哲学など、幅広い視点から解説されているが、なによりも「欲望」の根本的なメカニズムについて、理解することが財産だ。

  • ハワイの秘法に紹介あり

    逗子図書館にあり

  • 欲望にかられて失敗することがあり、欲望をコントロールする手法を知りたく本書を読んだ。結論としてはやはり特効薬は無いが、本書を読み、欲望の性質を知ることと先人の智慧を知ったことで、これからをより良く生きるための参考になった。
    欲望には限りがないということは、漠然と知ったような気になっていたが、「ミスウォンティング」「適応・順応」という言葉、説明を読んでより改めて意識的に捉えることが出来た。人間はある欲望を満たしてもそれに順応すると満足できなくなってしまう。結果欲望の奴隷となり欲望のために生きることになりかねない。
    欲望を制御する考え方としては、喜びの感情を尊重する哲ストア派の哲学が一番しっくりきた。エピクテトスの言葉「人が自分に向ける時間とエネルギーを、コントロールのできる人生の諸相に向けるならば、今よりもはるかに幸せになるだろう」は心に刻んでおきたい。

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