- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784834021561
感想・レビュー・書評
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確かバルカン半島にあったと思うけど・・ええとルーマニアの傍だったような・・でも地図上で正確に指せない。
あとはヨーグルトと琴欧洲。という程度の知識しかなかったブルガリアという国。
お粗末な頭を謝ります。この本がとても面白くて、認識を改めました。
何が面白いかと言うと、日本のお話には決して登場しない「吸血鬼」が現れるという点。
(確認したら北に吸血鬼の本場・ルーマニアが位置していた)
そして女性たちが大活躍するという点。美しいだけでなく、勇気と知恵にあふれている。その分男子は若干情けない。
他国のお話に類似したものも多いのに、結末がひと味もふた味も違う点。
精密なモノクロ画に描かれた民族衣装が優雅で素敵という点。何より、主人公がみんな幸せになるというのが良い。
吸血鬼が出てくるお話など、どちらかの消滅をイメージしそうだがそうはならない。
眠っているときに胸の扉を開けて奥を覗くというのが、呪いを説く方法だという。
初めて聞くこの方法を、見事にやってのけるのが主人公の女性で、吸血鬼と化した男性に生命力を吹きこみ、悲恋物は終結する。更に初めて聞くのが、気に入った男性を見つけたら、手にしたりんごで相手の肩を打つというもの。表紙絵がその場面で、選ぶ時点からすでに女性目線だ。
ブルガリアの女性たちは、ひょっとして大変有能で働き者なのかもしれない。
日本の「犬とねことうろこ玉」にそっくりな「パーベルじいさんの光る石」。
でも「みんなでしあわせにくらしました」で終わる日本のお話とは結末が違い、もっと手がこんだ印象。物語の終わり方には、その国の文化や歴史・宗教観までが現れている。
ところで「うそ話」というカテゴリーがあったら、小説と共に昔話・民話も入ることになる。
両者の違いは、小説がひとりの作家さんの頭の中で組み立てられたもの。
かたや昔話・民話は、名もなき民の語り伝えてきたもの。
なので、昔話・民話には、その国・その時代の民の願いや祈りが込められることになる。
編者の後書きによれば、
「ブルガリアの昔話には、主人公が幸せな結末を迎える話が多くあります。五百年のあいだ、トルコに支配され、自分の国の言葉を遣えなかったブルガリア人は、昔話に、自分たちの願いを語り継いだのかもしれません」とある。
南にギリシャとトルコ、東には黒海。西にセルビアとマケドニア。
東西の文化が入り混じり、神秘な話・美しい話・笑える話が混在して楽しい一冊だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
内容:12編からなる昔話集
石灰娘 ムクドリとブドウの木 パーベルじいさんの光る石 吸血鬼の花よめ たまごを売って子ブタを買って 月になった金の娘 ふしあわせさん ふしぎな小鳥の心臓 カメのおよめさん スモモ売り 悪魔とその弟子 つばさをもらった月 -
「ブルガリア発、選りすぐりの12の物語
ブルガリアはヨーロッパのバルカン半島に位置し、古くから東西文化交流の場でした。昔話もオリエントとヨーロッパ相互の影響をうけた独自の楽しいものが多くあります。青春時代にブルガリアのソフィアに留学していた編者が、選りすぐりの物語を集めました。「石灰娘」「パーベルじいさんの光る石」「吸血鬼の花よめ」「ふしぎな小鳥の心臓」など全12話収録。」
メモ:
「悪魔とその弟子」
・・「息子が悪魔のもとでの三年の修行を終えた時、手元に引き留めて殺そうと計る悪魔を前にして母親は「もう一日だっていやですよ。むすこがいなくては、これから先、わたしは生きていけないんです」と訴えて、息子を連れ戻す。この母親の言葉にこそ、怠け者の息子を自立させるキッカケがあったのではないか。「自分を必要とする誰かがいる」と実感した時、息子はなんとかしようと立ち上がり、息子と母親の関係は逆転する。」(『お話とともに育つ喜び』下澤いずみ p29) -
あとがきにブルガリア民話の特色の濃い話を選んだと、あるだけあって、あまりみたことのない展開も多くて、興味深かった。
おじいさんが悔しがって泣いたり(「パーベルじいさんの光る石」)、年老いた母親が息子の弟子入りの期間が終わったからもう手離そうとしなかったり(「悪魔とその弟子」)と、人間味溢れる感じ。
ところどころの設定だけ抜き出すと創作ファンタジーみたいでときめく。
吸血鬼の心の奥(「吸血鬼の花よめ」)、木の根元が燃えていて求めるとかげやヘビ(「パーベルじいさんの光る石」、「ふしぎな小鳥の心臓」)、色の変わる川(「月になった金の娘」)。
「ムクドリとブドウの木」、「ふしあわせさん」、「スモモ売り」のように、不思議なことは何もなく、教訓話のようなものもある。
「カメのおよめさん」、「つばさをもらった月」は羽衣伝説のような、元の姿に戻るのを阻止する部分がある。
「月になった金の娘」は舌切り雀の葛籠のように、欲深な継母は虫まみれになる。
「たまごを売って子ブタを買って」は取らぬ狸の皮算用。
「石灰娘」は、石灰で出来た娘が最後は幸せになるけれど、一国を背負う王子としては、変な娘を妃には出来ないのかも知れないけれど、他の国のお姫様に対しても王子の態度が冷たい。
完璧な王子じゃないところが珍しい。 -
「子どもを本好きにする10の秘訣」>「昔話・神話・歴史」で紹介された本。
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「吸血鬼の花嫁」はちょっと他国を知るのに面白かったです。こんな考え方するんだな。って大人目線。子どものとき読んだらもっと別の目線でみれたのかな。
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ブルガリアといえばヨーグルトしか思い浮かばないのですが、こうして昔話を読むと親近感も沸きます。古今東西昔話には似たようなパターンが多くあります。子どものいない老夫婦に何かの化身が子どもとしてやってきたり。助けた動物に恩返ししてもらったり。結婚した相手が実は人間じゃなかったり。その中で出てくる動物や道具立てにお国柄が表れて面白いです。
また割と行動的な人物が多く登場するんですね。幸せは自分の手で掴み取るもの。それが国民性なのかも。 -
表題作と『悪魔とその弟子』が面白かった。
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1996年、単行本として出版されたものが、福音館より今回文庫本として出されました。
日本ではあまり紹介されることの少ないブルガリアの昔話12話が入っています。
青春時代にブルガリアに留学経験のある八百坂洋子氏の文章と、高森登志夫さんの美しいモノクローム画の表現で、中世の時代に迷い込んだような錯覚を覚えます。
表題の「吸血鬼の花よめ」では、昔話としては珍しく勇気あるお姫様が主人公で、ブルガリア女性が持つ心の強さを垣間見たような気持ちになりました。