緑の模様画 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
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本棚登録 : 353
感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (378ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834022896

作品紹介・あらすじ

三つ葉のクローバーのように心を結び合う。まゆみ・アミ・テト。三人の前に繰り返し現れる茶色い瞳の青年はだれ?白髪の老人がじっとそそいでくるまなざしの意味は?かつて若者が身を投げた塔の窓に映る謎の影、寮母が語る遠い日の心ときめく思い出。女の子たちが出会ういくつもの物語の網目には、ちいさな危機もひそんでいた…。小学校上級以上。

感想・レビュー・書評

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  •  心も体も、大人とも子どもとも言いきれない十二歳ごろの三人の女の子たちの身に起こった、ちょっと不思議な春のできごとが綴られた物語。少女三人の友情を中心としながら、親世代やさらにその上の世代の人物たちが若い彼女たちに向ける眼差しと、時を超えて愛される古典名作『小公女』をめぐる各人の思いとが、きらきらと優しく豊かな物語世界を織りなしていて、胸いっぱいになってため息の出るような、素敵な読書時間だった。(☆10個くらいつけたい。)
     きらきらと輝いてはいるが、きれいごとだけではない、意地悪さや平凡さや無能さやどろどろとした醜さも全て丸ごとひっくるめて、みんないい子だよ、大好きだよと、年長ける者から年若い者へ向けたメッセージのような小説だと感じた。そしてそのメッセージは、エールやアドバイスのような上から下へ授けるものではなくて、むしろ「ありがとう」に近い、「若いあなたたちがいてくれること自体が私たちの喜びなんだ」と、場合によっては恋焦がれすがって上げる叫びに近い、ものだと思う。そういう無条件の賛美を浴びてきっと人は育ちたい。自分より若い人に向かって、そういう気持ちを表明できる大人でありたいし、そういう世界であってほしい。なんてことを思った。

     その他備忘メモ。
    ・シャムシャム、がすごく好き
    ・秘密の場所、名付け、きれいなもの集め…と女子心躍る
    ・三人という人数は危うさだけではなく軽やかさもあるよなあ、なんて
    ・自分と違う友達の考え方にふれて、はっと風が吹く感じ
    ・だいたい予想がついてしまう(はじめに提示された問題が、本人の努力や周りの助けによって解決するみたいな、いかにも大人が子どもに読ませたがりそうな)子ども向け小説もあるけど、それとは違った
    ・「男の人」に対するこの年頃のこの微妙さの描き方
    ・小公女あわてて読んで良かった

    • akikobbさん
      たださん、
      ルチアさん、検索してみました。独特で、でもやはり手に取りたくなる魅力がありますね。
      普段はあまりジャケ買いしないのですが(可愛い...
      たださん、
      ルチアさん、検索してみました。独特で、でもやはり手に取りたくなる魅力がありますね。
      普段はあまりジャケ買いしないのですが(可愛い本ならたくさんあってキリがないし…)、このときはなぜか、借りちゃえ!と思ったんです。
      2023/05/31
    • たださん
      akikobbさん
      もしかしたら、akikobbさんの本能が、これはいいよと、なにか察するものがあったのかもしれません。実際、☆10個くらい...
      akikobbさん
      もしかしたら、akikobbさんの本能が、これはいいよと、なにか察するものがあったのかもしれません。実際、☆10個くらいつけたい印象でしたものね。こうした人間の持つ神秘的感覚って、凄いなと思います。運命の出会いとは、よく言ったものですよね。
      2023/05/31
    • akikobbさん
      たださん
      本当に、幸運な出会いだったなあ!とひとりホクホクしていましたが、たださんが分かち合ってくださって嬉しいです♪(分かち合うって言葉の...
      たださん
      本当に、幸運な出会いだったなあ!とひとりホクホクしていましたが、たださんが分かち合ってくださって嬉しいです♪(分かち合うって言葉の使い方間違ってるかな〜、と思いつつ…)
      2023/05/31
  • 「緑の模様画」タイトルの意味がラストの美しい描写に納得。児童書だけど、思春期の少女から壮年、老人、いろんな年代の人々の思いがひとの物語の中にあって楽しい読書でした。夢か現実か不思議なシーンもあったけど妙に納得したりして、人は繋がってるんだと感じたストーリーでした。「小公女」もう一度読んでみようかな。
    「プリンセス」ってのはひとつのメタファ、つまりたとえでもあるんだー生き方に対する
    なるほど。


  • 「だって、影っていうより、影法師のほうが、なんか向こう側に、すてきなことが隠れてる感じがしていいじゃない……。それにさ、引っ越してきた誰かの影なんて……つまんないもの」



    小公女をキーに広がっていく3人の少女の世界。

    寮生活や女の子同士の微妙な機微は、「おちゃめなふたご」「おてんばエリザベス」も彷彿とさせる大好きな世界観!


    好きな子に友達の手前、冷たい態度をとってしまうの、わかるなあ。

    暖かくて優しいお話なのに胸がきゅっと切なくなる。
    もう13歳の夏には戻れない。


    すっかり大人になったわたしには、
    「あんたたちみたいなかわいい子を見たら、気むずかしいおじいさんだって、うれしくなっちゃうにちがいないもの。」という森さんの気持ちがわかる。

    「博士の愛した数式」の博士がルートに「ただもうそこにいるだけで、抱擁すべき相手」となってしまうのも、年々共感が深まる。


    それならば、歳を重ねていくのも悪くないかなあ。

    ミズネズとユッコさんみたいに、ほんとうはいつだって少女に帰れるのかもしれないし。


    「女の子って何でできてる?砂糖にスパイス、いいものぜんぶ、そういうもんでできている……」


    確かにあったあの頃は、いつまでも宝物みたいに胸の中で輝いている。

  • 三人の少女が偶然バスの中で出会い、「小公女」が話題に上った瞬間から、春の訪れと共に不思議な出来事が訪れる。
    木下透が「アリルプリンセス」と呟いた瞬間、シャムロック、塔の影、森さん。
    人物が皆植物になぞらえた名前なのも、春の訪れの描写があることも『小公女』をベースにしながら『秘密の花園』へのオマージュもあるような気がしてならない。
    アミが一番好きだ。
    読み進めれば読み進めるほどいい話だった。作者の他の作品も読みたい。
    平澤朋子さんの挿絵も素敵。

  • 「十一月の扉」がすごく良くて、他の著書も読みたくなり、図書館で借りて読みました。
    3人の少女とふしぎな青年、塔の家の不思議と小公女のお話とが絡み合い繋がっていく…。
    少女特有の心の揺れや、大人たちの大切な思い出、つながっていた時間や語られる物語の背景に迫るドキドキ感が児童書とは思えない、読み応えのある一冊でした。

  • 小公女が繋ぐ3人の少女と白髪の老人の邂逅。
    少女たちが何度も出会う男性は何者なのか?

    噂やジンクス、ちょっとしたことで友情がギスギスしたりと多感な時期の少女の心持ちの描き方と、今と昔が交錯するような不思議さと切なさのある物語は高楼さんならでは凄く良い。

    12〜13才の春のような若さの少女たちの姿が瑞々しく、大人の郷愁を誘う。
    この物語はどちらかというと大人に刺さると思った。

    緑が煌めき風そよぐ4〜5月に読むのにピッタリ。

  • 3人組というのは、結構色々な話に出てくるけれど、これほど危うい人数はないと私は思っている。しかも、女の子の3人組となったら、それが仲良しでいられる可能性が最も低いものじゃないだろうか。

    トオルさんという不思議な存在を通して、彼女たち3人も危うい橋を幾度か通り過ぎる。ひやひやしながら、彼女たちも危ういバランスに気づきながら、でもそれを微妙に積み直しながら進んでいく。
    私にはできなかったなんとも言えない女の子3人組の行方に成せなかったものを重ねてよませてもらった。
    小学生には、まだ早いかもしれないが、いつか読んで欲しい一冊だ。その時は、「小公女」も一緒に読んだ方がいいだろう。
    旅先からもどったら、私も「小公女」を読み直したくった。

  • 背表紙には『小学校上級以上』なんて書いてあるけど、ちがう。
    この本を本気で楽しめるのは、森さんの年代を迎えてこそだ。
    自分は今、ミズネズと同年代にあたるのだが、この年代が一番浅い気がする程だ。
    少女達の時間は大変濃く。
    森さん達の時間は更に深みをましている。
    その中間にある今はとても自由な気がした程だ。

  •  中学生期の女の子たちの気持ちが繊細に、丁寧に描かれていた。友達を手放しに褒められるのも、気持ちを打ち明けるのに不安を覚えるのも、ままならない感情に引きづられて本意ではない行動を取ってしまうのも、彼女たちが精一杯生きているからだ。
     自分が世界にとって何者なのか分からない不安に押しつぶされそうになる怖さも、隣に誰かがいてくれるだけで立ち向かうことができる。

  •  12、13歳の頃の自分を思い出しながら読みました。あの頃は本当に人間関係に敏感で、友達の一挙一動に翻弄されながら、感情を振り切らせて生きていたけれど、それが見事に描かれています。一つの言動に至るまでに気持ちが揺れ動く様子は、あぁそうそう、こんなふうだった!と頷かずにはいられません。高楼さんの心中には少女が生きているのだなぁ。
     あとは、児童書だけど説教じみてない点がとても好感を持てました。それでもこの物語の中に何か学びがあるとすれば、今目の前にあるかけがえのない日々と、日々感じることを大切にしようということ、そしてあなたたちは一人残らず美しくかけがえのない存在なのだということ、かなぁ。10代の日々は、人生のうちで感性をもっとも意識下で働かせている時期だと思う。そこでの思い出はずっと息づいていて、輝かしいものなんだって、あぁそうかもしれないって思いました。

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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