そもそも、治るとはどういうことでしょう?
知覚神経を麻痺させて痛みを抑えることは、治ると同じこと?
体から必要な水分を絞りとって血圧を下げる利尿剤はどうでしょうか?
何年も薬を飲み続けているのに治らないのはなぜ?
薬を飲まなければもっとひどくなるから?
でも、いま飲んでいる薬が難治化させているとしたら?
病気の成り立ちがわかれば、治し方もわかる。
その秘密は、自律神経と免疫のはたらきにあったのです。
著者は新潟大学大学院医学部教授で免疫学者の安保徹先生です。
著者は言います。ほとんどの病気は、交感神経の緊張により引き起こされると。
病気が発症するプロセスはこうである。
〈交感神経の緊張→顆粒球の増加→リンパ球の減少〉
このプロセスはきわめてシンプルですが、今まで原因の分からなかった難病もこう捉えることで合点がいくと言っています。
さて、これはどういうことかというと、自律神経のうち日中の活動時にはたらいているのは交感神経です。交感神経は、心臓の拍動を高め、血管を収縮させて血圧を上げ、消化管のはたらきを止めて体を活動的な状態に整えています。体を活動的な体調に保つことは、私たちが日々の生活活動の中、例えば仕事や家事をテキパキとこなしてゆくには都合の良い状態だからです。
そして、交感神経が優位にはたらく活動時には免疫細胞である白血球のうち顆粒球が増えることは、手足に傷を負いやすい活動時は、傷口から入った細菌を効率よく排除してくれる顆粒球という免疫細胞が多くいてくれた方がいいからなのです。
今までは自律神経のはたらきというと、内蔵の活動を調整する神経としか考えられていませんでしたが、著者らは共同研究で交感神経は顆粒球のはたらきを、そして副交感神経は同じく免疫細胞である白血球のうちリンパ球のはたらきを支配していることを突き止めました。これを「白血球の自律神経支配の法則」というのですが、この考え方こそが本書のキモとなっています。
著者は、交感神経の緊張が原因で引き起こされる病気が7割なら、副交感神経で引き起こされる病気は3割だと述べていますが、ここでは交感神経の方だけをご紹介します。
体が活動的になる交感神経のはたらきは、私たちが生産的に活動するためには欠かせないものですが、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしで、交感神経の緊張状態が長期間続くと体の中ではいろいろな弊害が生じるようになります。
著者はその弊害を大きく4つをあげています。
1つ目は、増えすぎた顆粒球は常在菌を攻撃したり、活性酸素をまき散らして組織を破壊するようになるということです。これに代表される病気が、急性肺炎、急性虫垂炎、腎炎、肝炎、膵炎、そして、ガン、胃潰瘍、歯槽膿漏、潰瘍性大腸炎、十二指腸潰瘍、クローン病、痔疾など、実に様々です。
2つ目は血流障害です。いわゆる血の巡りが悪いと、体を壊すなんてことはよく耳にしますが、血流が悪くなると、全身の細胞への酸素と栄養の供給が滞り、老廃物の排泄もできなくなります。体に発痛物質がたまれば、痛みやこり、しびれ、発ガン物質が蓄積すれば発ガンを促すことにもなります。
そして3つ目はリンパ球の減少です。顆粒球が交感神経の支配下にあるなら、リンパ球は副交感神経の支配下にあります。両者は拮抗してはたらいていますから、交感神経が優位になると、副交感神経のはたらきが抑制され、リンパ球は減少してしまいます。リンパ球は、消化酵素で分解された異種たんぱくやウイルスなどのサイズの小さい異物を処理することを得意としていますから、リンパ球が減少するとカゼなどの感染症にかかりやすくなるのです。また、リンパ球はガン細胞攻撃の要でもありますから、数が不足すればガンの発症を許すことにもなります。
最後の4つ目は排泄・分泌能の低下です。交感神経は副交感神経と拮抗してはたらいているので、交感神経が優位になって副交感神経が抑制されてしまうと、臓器や器官の排泄や分泌能も低下します。その結果、便秘や排尿障害が起き、胆石や腎臓結石、ウオノメなどができやすくなるのです。
私たちは、このように交感神経が過度に緊張した心身の状態を惹起させるものを何と呼んでいるでしょうか?
そうです、“ストレス”です。
ストレスと一言でいっても人それぞれで、それこそ星の数ほどあるでしょうが、著者は①働き過ぎ、②心の悩み、③薬の長期使用を3大ストレスとし、中でも本書のテーマでもある薬の長期使用によるストレスに警鐘を鳴らしています。なぜなら、薬を汎用する昨今、現代薬の多くは交感神経の緊張を促す作用があるからです。
とりわけ、「消炎鎮痛剤」と「ステロイド剤」は交感神経を緊張させる作用が強く、先に見てきたように、血流障害を起こし、顆粒球による組破壊を促すという点では「病をつくる薬」の代表格とまで言っています。
薬を飲めば不快な症状はたちどころに消えてしまいます。症状が消えることは、治癒したことではないのでしょうか?
著者は言います、「病気と正しく向き合うためには、まず病気に伴って現れる症状に対する誤解を解くことが大切です」と。
交感神経の緊張が組織破壊を起こすことは先に見てきたとおりです。では、体が治るときはどのような経過をたどるのでしょうか?
ズバリ、その逆の経過をたどるのです。体の修復は交感神経と拮抗関係にある副交感神経が優位にはたらくことで始まります。このとき生成されるプロスタグランジンというホルモンは血管を拡張させ、破壊された組織への血流量を増やすことで修復を助けています。ですが、プロスタグランジンには、この他に痛みを起こすはたらきや、発熱させるといった作用ももっているのです。つまり、治癒するときは熱がでて腫れて痛いのです。
この修復のプロセスを知らないで、痛みやかゆみ、発熱などの不快症状を、体を破壊しようとする現れ、つらい症状は悪者だ、と誤解して症状をとことん抑えにかかると、せっかく起きている治癒反応を止めるばかりか、新たな病気まで上乗せしてしまうことにもなるのです。
著者は対症療法のなかでもよく使われる消炎鎮痛剤を例にとって話を進めます。
消炎鎮痛剤の成分にはプロスタグランジンの産生を抑えるはたらきがあります。プロスタグランジンの産生が抑えられれば、知覚神経は麻痺して痛みは和らぎます。
ですが、痛みの起こるそもそもの原因は血流障害です。それを知らずに薬を使い続けることは、顆粒球による組織破壊や免疫の低下を引き起こし、高血圧や糖尿病、不眠症、便秘、頭痛など新たな病気が次々と上乗せされます。そして、その症状を抑えるために降圧剤、経口糖尿病薬、睡眠薬が処方され終わりのない対症療法が始まるのです。
ここまで読むと、今すぐにでも薬の使用を止めることが健康への試金石になると思ってしまいますが、そうではありません。著者は、急性疾患やあまりに症状がつらい時に2~3割症状を軽くするつもりで薬を使用することまでは否定していません。すべて自己判断で薬をやめることをすすめているわけでもありません。
医師、そして患者さん自身が、病気の背景にあるストレスを軽視して漫然と対症療法を続けることに警鐘をならしているのです。
痛み一つとってもありふれた症状であり、誰しも延々と続く対症療法に陥ることはあるかもしれません。
ですが、病気の成り立ちがわかれば、治し方もおのずと見えてくるのです。
本書では、自分で免疫力を高める方法も書かれています。
また、治療法としてはハリ治療が載せられていますが、副交感神経を高めるような代替療法ならハリ治療にこだわる必要はないとも言っています。「気持ちいい」「心地よい」と感じられることがポイントらしいです。