アスク・ミー・ホワイ

著者 :
  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838731114

作品紹介・あらすじ

今年No.1ロマンチック・ストーリー
装画は雲田はるこさん。

過去はね、変えられるはずなんだよ。
もしかしたら、未来よりもずっと簡単に

初めて港くんと会ったのは、大寒波が到来した冬の日だった。
港颯真・元俳優。写真週刊誌のスキャンダル報道によって、彼は、
少し前に芸能界から姿を消した。
ヨーロッパの街を転々としていたようが、
ここアムステルダムに住み始めたという噂は本当だったのだ。

初めはブルーやグレー、
途中から淡いピンクが重なったり。
彩りはあるけど、虹色と括れなくて、
すごく好きな世界でした。ーーー乃木坂46 高山一実

心も、身体も、酒も、誤解も。
溶け始めた瞬間が、最も艶めかしく、
意識の奥底を温める。
この物語には、人々の瘡蓋を溶かす、
蒼い陽射しがある。 ----リリー・フランキー

感想・レビュー・書評

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  • 自粛期間中に古市さんがツイッターに投稿していた小説。
    画像では読みにくかったので辛抱強く書籍化を待っていました。まさかこれほど素敵な小説だったなんて!
    あらすじを読んだ時点ではボーイズラブにそこまで興味は湧かなかったのだけど、「ニュースにはいつも続きがない。」という少し不穏な書き出しを読んだ瞬間にはもう惹き込まれていた。

    大雪が降る冬のオランダ・アムステルダムで、彼女に振られたばかりで傷心の料理人ヤマトと、ドラッグ使用疑惑から逃れるように渡蘭してきた俳優の港くんが出会う。
    港くんがゲイであることも相まって、もしかして実在するあの人がモデルかな?なんて思いながら読んだりした。
    ヤマトと港くんが、ただの他人から友人になって、そしてさらに少しずつ距離を縮めていく日々が、アムステルダムの素敵な風景と、ヤマトがつくるおいしそうな料理といっしょに描かれている(グレートギャツビーにでてきたミント・ジュレップがここにも!)。
    ボーイズラブに興味ない……なんて思っていた気持ちはどこへやら、ただただ恋愛小説として、私はまるでヤマトの友人か港くんのファンかであるようにドキドキしながら二人の行く末を見守っていた。
    港くんのもつ吸い込まれるような魅力によって、これまでのヤマトの閉じた世界が見事に塗り変えられていく様子が、淡く色がほどける夜明けの空のように美しい。

    それにしても、古市さんがこのような小説を書くなんてびっくり。
    ワイドショーでは結婚制度を毛嫌いするような発言ばかりの古市さんが、こんな風にゆっくり育まれる繊細な愛情を、それはそれは大切に書いているんだから!
    まぁ愛の行き着くところが結婚だけじゃないからね。愛=結婚じゃない。これは絶対に。
    "愛し合う"ことの普遍性は充分承知のうえで、だからこそ男性同士の関係でもってこんなに優しい愛を書けるのかもしれない。

    『誤解とは大前提なのだ。あらゆる関係には、誤解や思い違いやすれ違いが含まれている。その中で、誤解を解こうとする過程にこそ意味があるのではないか。完璧に理解し合うことが無理だとわかりながら、その状態に近付こうとする試行錯誤こそが、誰かを思い合うことなのだと思う。』

    ここ読んで「ほんとうに古市さん?!ヒュー!\(//∇//)\」ってなってしまった。
    そして書き出しも最高だったけど、終わりの一文もまた最高。なぜかは分からないけど古市さんの書く文章とはほんとうに相性がぴったりで、読んでいて心地良くて優しくて大好き。

  • 期待しないと傷つかないで済む。
    だけどそれ以上になることはできない。
    闇があるから希望はあるし、
    傷つくから幸せにもなれる。
    最初から何も無い世界を望んでいるくせに、
    何でわかってくれないのかと傲慢に期待してしまう。
    好きだから期待するし、頼りにしてるから期待する。
    過去でさえ誤解して解釈を変えて事実を曲げることはきっとできる。本当にできるかどうかよりも港くんの切実な祈りのように感じる。
    何も無い世界の逃げ込みたい気持ちと、
    今ある世界が全て壊して平和にしたいとい破壊衝動は、
    大きな諦めを抱えている部分は同じだけど
    決定的に何か違う気はする。
    それなのにどちらにも強く共感できる。

  • 作家さんに対してあまり良い印象がなかったものの、内容が気になって読んでみた1冊。
    読み終える頃には白旗を上げて突っ伏す羽目になりました……。

    全く綺麗なことなんて無い日常の中、恋人の裏切りという呪いを抱えて燻るヤマトと、芸能界の荒波に沈み、薬物に堕ちて溺れつつも危うい魅力を失わない港くんが、どちらもフィクションらしいキャラクター造形でありつつも、リアルと地続きの人間くささがあって魅力的でした。

    時には旧知の友人のようで、時には恋人の一歩手前のようで。
    互いにひとりの人間と人間として、距離を縮めていく様には作中何度もドキドキさせられました。
    ヤマトの抱くそれは紛れもなく「恋」だろう!とどれだけ背中を押したくなったことか……。

    読了後、作品タイトルでもある曲の和訳を調べて、港くんも等しくヤマトのことを想っているのだな、と改めて感じることが出来て、本当に素晴らしいエンディングで良かったです。

    男性同士の恋愛、というよりも、本当に人間としてお互いに惹かれた。
    そういう雰囲気が作品全体にあり、恋愛を性別ありきで語るのはナンセンスだよな、と日頃思っている身として、その点でも個人的に評価が高いなーとも思います。
    今年イチ、読んで良かったと胸を張って言える作品でした。

  • 大きな波があるわけではないけれど、雰囲気がとても好きだなぁと。ああ、尊い。
    ゆったりと進んでいくふたりの押し付け合っていない愛が私は好きだなぁと思った。その気持ちが自分を変化させてくれたのかな。そうだといいな。

    恋愛だけでなく、ひとに対する想いをこんなふうに考えられるのは素敵。こんなふうにひとと接して、割り切りつつも寄り添っていけたらいいよね。
    素敵な言葉がたくさんあった。

    ある意味おままごとのようなかわいさとピュアさとまっすぐさがあるのに、心のどこかでシビアな現実も受け入れて、だからこそ今この瞬間勇気を持って素直に接する姿が尊い…。なんだよもう、幸せでいてくれよ。

    あとご飯が美味しそう。
    オランダにも興味が出てくる。

  • 雲田はるこさんの装画も素敵だった。今までの古市さんのイメージが拭えなくてなかなか読み進められなかったー!舞台はオランダ。海外には行ったことないからいろいろ新鮮で、学べることも多かったです。
    日本とは異なることがたくさんあって、やっぱり一度でいいから海外に行きたいなぁと思わされました。個人的には出てくる料理がおいしそうで、お腹空く話だったなぁ。

  • いまはオランダ、アムステルダムで中途半端な自意識を抱えて暮らしているヤマト。ビザを取って日本から一緒にやってきた彼女とは別れてしまい、現在は日本料理店で働きながらくすぶっている。
    かつての友人と再会したのをきっかけに、ヤマトは港くんと出会う。薬物疑惑が報じられ、ゲイではないかと噂され、芸能界を引退して日本を離れた港くん。
    薬物使用も同性愛も、何にでも寛容なアムステルダムで二人が仲良くなり、パートナーとなる物語。

    ---------------------------------------

    港くんが、芸能界の親友に同性愛をカミングアウトしたときのことを”浅はかだった”と話す場面がとても印象的だった。
    なぜ同性愛の告白だけ特別視するのか、人間関係のなかでは相手に伝えないこともたくさんある。住所や学歴、食の好みくらいは知っていてもおかしくないけど、年収とか好きな体位をあえて話すことはない。それなのにカミングアウトしないのが悪いことだと勘違いして、港くんは打ち明けてしまったのだという。

    たしかに何故同性愛だけが、カミングアウトして称賛されるのかはわからない。著名人が「わたしはロリコンです! 小学生が大好きです!」なんてカミングアウトしたら、称賛どころか犯罪者予備軍として扱われてしまうだろう。

    ”色んな嗜好があるんだから、他人のことはほっとこうぜ!”みたいな世の中になれば、マイノリティの人たちも含めた、全員が生きやすい社会になるんだろうけど、それもまあ、なかなか難しいと思う。

    事実は変わらなくても解釈を上塗りすれば、過去は変えられる、と優しく話す港くん。かっこいいなあ。
    アムステルダムでうだつが上がらない日々を過ごしていたヤマトが自分の店を持てたのも、豊かな生活を送れるようになったのも、港くんのおかげ。すごいぜ芸能人パワー。

  • 「あのね、夢を叶えることと同じくらい、願った夢を忘れている人も多いんじゃないのかな」

    「同じ才能を持っている二人がいたら、勇気があるほうが勝つに決まっているんだよ。だって勇気がない人は、才能を発揮することなく人生を終えていくんだから」

    Een vervelend misverstand(オランダ語」で「悲しい誤解」

  • ドラッグやセクシャリティに対してキャパシティの広いというアムステルダムが舞台。
    恋人に裏切られ日本料理店でうつうつと働くヤマト、親友のリークによるドラッグスキャンダルで芸能界から去ったゲイの港。
    まずは二人の出会いの場面の衝撃度。そこから始まるっ!?今後の展開はネガティブな方向に向いていくよね?絶対ハッピーエンドはないわぁ…憂鬱なラストを覚悟しながら読み進める。

    一般人と元芸能人。「孤独」という共通点はあってもしょせん住む世界は違うし、性的指向も違う。どうやっても続く関係とは思えない。けれど、二人の間のハードルはあっという間に低くなり、そして消え去っていく。

    「友情」と「恋愛感情」、その違いを考える。
    誰かの特別になること、誰かのために何かをしてあげること、誰かのそばにいたいと思うこと、には違いがないのに。ただ、「恋愛関係」にない相手を言葉の力だけで支えることの困難さ。いや、それを困難と思うこと。
    それにしても若い時から芸能界にいて世間知らずに思われる港くんはしなやかで打たれ強くてクレバーで優しくて、そして名言が多い。いやぁ、「港君名言集」を作りたいね、ほんと。

    「過去はね、変えられるはずなんだよ。もしかしたら、未来よりもずっと簡単に」と
    「夢を叶えることと同じくらい、願った夢を忘れないことも大事だと思うんだよ」は、心のノートに刻み込む。

    これ、港くんがパーフェクトすぎて嘘っぽい、という意見も出るかもしれないけど、ナイーブさも含めてこれくらい完璧であってこそ、の物語とも。一種のファンタジでもあり。

    今まで、男同士の恋愛小説にはあまり心を動かされることがなかった。否定はしないし理解もする、でもそこに必要以上の付加価値を見つけることができずにいた。
    けれど、今回この小説を読んで、この世界観をみんなが求める意味が分かった気がする。
    繊細で深い「友情」と「恋愛」が混在する関係。純粋で湿度の低い二人の「愛情」がずっとずっと続きますように、とそう願わずにはいられなかった。

    それから、ヤマト君の作る料理がおいしそうで、夜中に読むとつらいね、これ。
    そしてもし実写化するなら、と妄想。港役は、アタクシとしては綾野剛一択。あとはヤマトくん。誰がいいかな、とにやにや。

  • 読み終わった次の日
    彼らが幸せで良かった、と思って仕事中ニヤリとしてしまった。そんな事初めてかも。映画化して欲しいな。

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著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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