ライトノベルは好きですか?― ようこそ! ラノベ研究会

著者 :
  • 雷鳥社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784844136415

作品紹介・あらすじ

「ラノベ、読みますか?読みますよね!?だったらぜひ、今度の日曜日に来て下さい!」黒髪ロングの美少女に誘われて、ライトノベル研究会に足踏み入れた「炎上王子」こと柏木光輝。美人指導教員のもと、なんとラノベを論じるはめに…?!本気でライトノベルを研究する、前代未聞の長編青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 2022/2/24読了。
    短期集中独学講座「ライトノベル概論」の17冊目として読んだ。
    本独学講座2冊目の『ライトノベル研究序説』や9冊目の『ライトノベル・スタディーズ』でもお名前をお見かけした研究者の方が、ライトノベルの実作者として「ライトノベルを文学の研究対象として扱うこと」についてライトノベルの体裁で書かれたのが本書だ。
    僕に「ライトノベルっぽさ」という不快感=傍ら痛さを与えるはずのライトノベル的文章の塊を読むのは、この独学講座を始めてからは本書が初めてのことになる(『東京忍者』と『激突カンフーファイター』は除く)。だから内容よりも、そうした文章に一冊のあいだ耐え抜けるかどうかを試みるつもりで、恐るおそる読み始めた。
    それがなんと読めるではないか! 独学講座の14冊目『ライトノベル表現論』と15冊目『「ライトノベルっぽさ」のつくり方』で学んだことが、ほぼ全ページ全行に渡って面白いようにはまっていく。はまらないところが一つもない。なるほど作者はここでこうした工夫を凝らしていて、これがライトノベルというものか、と手に取るように分かるのだ。ライトノベルの「型」を学生に示すためなのだろう、よく考えて作られた分かりやすくて良い教材だと思った。これは面白い体験だった。
    だがしかし、ライトノベルっぽい文章に対する不快感もまた健在だった。主人公が「文章、うまいなあ……」と評した作品からの引用部分にさえ、それはそこそこ濃厚に感じられた。著者が巧拙の巧のほうに入ると判断して引用した文章に対してもそうなのだから、ちょっともうどうしていいか分からなくなった。それなのに最後まで読めたのは、上記の体験の面白さがその不快感を上回っていたからだろう。僕だってライトノベル臭のする文章がまったく読めないわけではない。
    そしてやはり、この不快感の正体を突き止めるために必要なヒントは、本書にもあまり書かれていないようだった。そもそもこうした文章を読みやすいと感じる読者に向けて書かれたものなのだから、「この不快感」という問いを取り上げる必要が本書にないのは当然のことだ。
    その答えが書いてあるライトノベル語りの本はないような気がしてきた。答えが一つだけではないような気もしてきた。これまで色々な本を読みながら、不快感の出所はこれかな? あれかな? と考えつつ、そうかもしれないけど微妙に違うなと考えなおす堂々めぐりを繰り返して推測できたのは、それらすべてがある配合率である閾値にはまり込んで文章に表れたときに、僕の何かを逆撫でするのだろうということだけだ。それらを一つ一つ明らかにして、それらすべてを包摂する一つの概念にまとめ上げて言葉で説明をつけるのは、研究者でも評論家でもない僕の頭では無理だ。
    独学講座はそろそろいったん切り上げる潮時だろう。不快感の正体を突き止めることはできなかったが、ライトノベルや、非ライトノベルへ拡散しつつある「ライトノベルっぽいもの」に対する僕なりの向き合い方は少なくとも一つは見つかった。本来の対象読者層である思春期まっただ中の人々のようには楽しめないかもしれないけれど、僕なりに本書を楽しんだように楽しめばいいのだ。「型」を操ったり破ったりする作家の手腕を楽しむことなら、僕にもできる。脳内のライトノベルを受け入れるべき場所が荒れ地だったのが、区画整理で砂利道ぐらいは引けたという感じだろうか。

  • ラノベ研究会を書いたラノベということで、「ラノベとは何か」が書かれたものかと思いパラパラとめくってみると実在のラノベのタイトルも多く列挙されていて、それぞれの作品がラノベの界隈に於いてどのような位置を占めどのように読まれているのかが書かれているのかなと思っていたのです。
    しかし実際読んでみると「ライトノベルとは何かを研究するということはどういうことか」が書かれたものでした。
    つまりラノベを研究する時に、既存の研究はどのようなもので、どこを着目点とするのかという研究の入口を示したものだったのです。

    もちろんストーリー上でキャラクターの語るラノベ論は展開されますが、そもそもラノベの定義とは?という問題からして「炎上」の原因となり、どこをラノベの起点とするかも諸説あるものなのです。だから答がここに提示されているのではなく、どういった切り口でラノベを扱うのかが提示されるのです。

    主人公のラノベに対する考えを読みラノベとは何かがわかる、というよりはラノベを研究する面白さを知るのです。研究対象としてのラノベの奥深さを知ることは、ラノベを楽しむ奥深さを知ることに通じるでしょう。
    そんな難しい理屈はいい、面白ければそれでいいのだ。そうなのですがそれを敢えて研究するという人は何をどう考えて研究しているのか、それが「ラノベ」の形で差し出されているのは意義深く感じます。これを読んで研究してみようと思う人も出ているのではないでしょうか。

    これが書かれたのは既に6年前。日進月歩を繰り返しているラノベですから、新たな切り口も生まれているのでしょう。でもここでラノベ研究の入口の在り方を知りました。それはこれから先ラノベ論を読む時の手掛かりともなるでしょう。
    さあ、あらゆる方向からラノベを楽しもうじゃないですか。

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著者プロフィール

1978年、新潟県生まれ。作家、成蹊大学文学部准教授。専攻は日本近代文学。小説に『遥かに届くきみの聲』(双葉社)、『小説 牡丹灯籠』(二見書房)、著書に『言語と思想の言説――近代文学成立期における山田美妙とその周辺』(笠間書院)、『中高生のための本の読み方――読書案内・ブックトーク・PISA型読解』(ひつじ書房)、共編著に『ライトノベル・フロントライン』全3巻、『小説の生存戦略――ライトノベル・メディア・ジェンダー』(いずれも青弓社)など。

「2023年 『落語と小説の近代 文学で「人情」を描く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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