クラウドの象徴 セールスフォース

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  • インプレス
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784844327691

感想・レビュー・書評

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  • 国会図書館で勉強の傍ら読むために借りた本であったが、読んでみると面白く3時間ほどかけてひと通り読み終えてしまった。
    セールスフォース・ドットコムといえば過去にクラウドの本を読んで知ったぐらいであるが、この本では具体的な導入事例が書かれている、地方自治体、郵便局、ネジや酒の中小企業、みずほコーポレートグループ、ヒルトンホテル、イオン銀行などで、このセールスフォースを入れた経緯やどういうシステムを構築したかなどがそれぞれ紹介されていた。巻末にはセールスフォースを実際の使い方も書かれており、私が実際に自分のパソコンで操作してみるよいきっかけになった。

  • その昔一斉に脚光を浴び、導入が進んだシステムがCRMだ。営業活動の支援を目的としたシステムで、顧客情報や問い合わせなどをデータベースで管理し、そこから経営に生かせる情報を分析するのが主な用途。だが実際に導入してみると、カスタマイズが容易にできない、ユーザーにとって使い勝手が悪い、経営目的に合わせてシステムを構築できない――といった問題が生じ、結果として「塩漬けのシステム」の代表格になってしまった。

    だがそのCRMが今、息を吹き返そうとしている。息吹を吹き込んだのは「クラウドコンピューティング」という概念の台頭と、その用途の焦点を「技術」ではなく「ビジネス」に当て、分かりやすくユーザー企業に提示した黒船・米セールスフォース・ドットコムだ。

    セールスフォースは大規模なデータセンターを持ち、CRMやSFAを運用。その機能をネットワーク経由で提供するクラウド型ビジネスを生業とする企業で、米国を中心に利益やサービスの導入企業を爆発的に増やしている。国内でも郵便局やみずほフィナンシャルグループなど大企業がこぞって同社の「クラウド型サービス」の導入を決めている。また、大企業だけでなく、中堅規模の企業や従業員が数十人の中小企業、はては専門のIT管理者を要しないNPO法人にまで、そのサービスは受け入れられている。

    なぜセールスフォースがこれほどまでに支持を集めるのか。それは前述した「使えないシステム」を「使えるシステム」に転化するサービスを常時提供しているからだ。一般的にシステムを自社で導入する場合、そのシステムを開発/運用する人員を企業内から確保しなければならない。だがセールスフォースはさまざまな会社に提供するシステムのすべてを自社の人員でメンテナンスしているため、ユーザー企業はこれらの運用管理をセールスフォースに代行してもらえる。またサービスとして提供するシステムの基盤は既にセールスフォースが作り上げている。そのためユーザー企業は1からシステム開発を行う必要がない。これまでのシステム開発に必要としていた各種の工程を、セールスフォースにアウトソーシングできるのだ。

    こうしたクラウド型サービスはSaaSやPaaSという名前で、数年前から業界でも注目を集めてきた。だが当初は採用する国内企業は圧倒的に少なかった。その理由は「信頼性」。企業の根幹をなす機密データを外部の企業に預けてもいいのか、自社でシステムを保有しないため何かしらのアクシデントが起きた場合、手を打つことができないといった懸念が払しょくしきれなかった。

    だが、こうした「国内システムの歴史」が転換点を迎えている。厳密なデータセンターで情報を管理し、ユーザーの意見に即して自動でシステムをカスタマイズ/バージョンアップする。その上使う人だけからサービスの課金をするという仕組みが、「所有する」というこれまでの情報システムの在り方を、「利用する」というサービス型の形態に変貌させようとしている。

    本書では、セールスフォースのサービスがもたらす威力を、さまざまな企業へのインタビューを基に解き明かしている。各企業が口をそろえるのは「文系の担当者でもできる」カスタマイズの「簡便さ」、システムの要件が定まっていなくても即座にシステムを運用させられる「俊敏性」、システムを使うときはスケールを拡大し、使わない時は縮小できる「拡張性」といったところか。スモールスタートでシステム運用を開始し、必要に応じて規模を伸縮自在に拡張でき、しかも劇的な低コストでそれが実現するという点が、予算に余裕のない中小企業にも受け入れられている。

    このようにクラウドコンピューティングが、企業とシステムのこれまでの関係にくさびを打ち込んでいる。確かに基幹系や勘定系といったシステムにクラウド型サービスを適用するのは時期尚早だ。100%に限りなく近い稼働率と可用性が必要とされる企業の根幹を支えるシステムは、自社で運用するほうが、何かが起きた場合のリスクを軽減できる。だが頻繁な情報更新を必要とし、顧客の情報という「常に変化するもの」を扱う情報系システムにとって、クラウド型サービスとの親和性は非常に高いといわざるをえない。

    「国内企業にとっては、SaaSでも価格がまだ高い」という声も聞こえてくるなど、日本ではSaaSは浸透していない。だが、ここで取り上げられている企業は、クラウド型サービスに活路を見いだし、自社のビジネスを活性化させ、売り上げを上げている。セールスフォースという企業とそれが繰り出すサービスには、国内のIT業界が再浮上するためのノウハウがたくさん詰まっている。これらをくまなく取り入れることが、今後国内企業がビジネスで勝ち残っていくための最終手段になるのかもしれない。

  • クラウドサービスを考える機会があったので、購入してみた。クラウドサービスの先駆者で、昨今利用者が急増しているセールスフォースのサービスや活用事例がわかりやすくまとめられていて、一気に読みきることができた。もちろん、実際にサービスを領するために必要な詳しい技術的な内容ではないが、自社のビジネスへの適用をイメージしたり、クラウドサービスそのものが抱えやすい課題などを俯瞰的に押えるのには、大変有用だと感じた。

著者プロフィール

ITジャーナリスト。
1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

「2022年 『メタバース×ビジネス革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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