- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784862726995
作品紹介・あらすじ
星野源や吉澤嘉代子など多くのアーティストに支持されるロングセラー歌集『たんぽるぽる』に加えて、電子詩集『地球の恋人たちの朝食』から、同じ背景で書かれた詩作品を追加収録。
【収録作品より】
「目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき」
「とても私。きましたここへ。とてもここへ。白い帽子を胸にふせ立つ」
「うれいなくたのしく生きよ娘たち熊銀行に鮭をあずけて」
感想・レビュー・書評
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「たんぽるぽる」。短歌研究文庫の新文庫シリーズ(新書サイズ)になります。
転がるような可愛らしいタイトルを囲むように、一面にたんぽぽ畑が広がっていて、何処か懐かしさも感じます。
雪舟えまさん。本名、小林真実さん。跋文で松川洋子さんが、21歳の時に北海道新聞に初投稿、1999年の夏に上京と紹介されています。
作品の中にはそれらの背景を思わせる歌もよく出てきます。
他であまり紹介されていない中から、少しだけご紹介させてください。
もっとも旅にみえないものが旅なのか
目覚めて最初に見るぬいぐるみ
部屋をとりかこんで落ちる稲妻の中に
羽毛の舞う国がある
傘にうつくしいかたつむりをつけて
君と地球の朝を歩めり
胸にわたし 背中に妹をくくり
父はなんて胴の長い天使
蓋とれば 相談にのりますという顔をしている
春のぬか床
サイダーの気泡しらしら立ちのぼり
静かに日々を讃えつづける
安心感であったり、穏やかさを感じたり、日常が愛おしくなるような作品が好きです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
雪舟えまさんの歌集の文庫本ですね。
雪舟えま『ゆきふね・えま』さん(1974ー)札幌生まれ。小説家・歌人。
歌集『たんぽるぽる』の初版は2011年の春だそうです。この文庫版(新書サイズ)は2022年の2月発行です。短歌なのでこの新書サイズが良いですね。
とは言え、短歌を少し味わってみようという私の目論みは、ページを開いた瞬間に「えっ」となりました。こんな短歌あり、雪舟えまさんの世界の中に引き込まれる短歌ですね。
目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき
とても私。きましたここへ。とてもここへ。白い帽子を胸にふせ立つ
美容師の指からこの星にない海の香気が舞い降りてくる
きみ眠るそのめずらしさに泣きそうな普通に鳥が鳴く朝のこと
カステラの一本ずつに雷をしずめて通りすぎるあまぐも
妖精の柩に今年はじめての霜が降りた、 という名のケーキ
北風はほんとうに来てこの窓へ電車の音を運んでみせた
雪よ わたしがすることは運命がわたしにするのかもしれぬこと
風呂あがりあなたがパジャマ着るまでの時間がのびる春なのです
たんぽぽがたんぽるぽるになったよう姓が変わったあとの世界は
はやく何か建てばいいって言われてる空き地を月が歩いているよ
手のなかで軋むデラウェアあの人の深層筋を吹きわたる風
解説の松川洋子さんは「若草色のシュールレアリスム」と言われています。
私には、短歌のメルヘンに思えます。よくわかりませんが、穂村弘さんが認めていらしゃるから確かなのでしょう。
文庫版には、詩が一篇『地球の恋人たちの朝食(抄)』も記載されています。
ちょっと驚いて、楽しめる歌集でした。 -
この玄関は入るのに難しいですね。もうちょっと離れて見ましょうかね。
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p11
温度の不安定なシャワーのたびに思いだすひととなるのだろう
p33
びすびすと降る雹のなか抱きあって むかし金属だった気がする
p34
すきになる? 何を こういうことすべて 自信をもってまちがえる道
p42
逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ愛に友だちはいない
p43
やっと二人座れるだけの点のような家を想うと興奮するの
p44
全身を濡れてきたひとハンカチで拭いた時間はわたしのものだ
p70
歩道橋にのぼってさけべ願いごとは轟音に溶けこませたら叶う
電話きてどきんとゆれた心臓が壁画の劣化すすめてしまう
p72
硬貨舞うバスの床みて不可思議なちからが目覚めそうな感じに
p77
ながいながい手当てはじまる僕たちが眠ったあとは星が引き受ける
ふたりだと職務質問されないね危険なつがいかもしれないのに
p80
君がもう眼鏡いらなくなるようにいつか何かにおれはなります
p83
ぜんぶ忘れて似合う服を着ていたい次にあなたの前に立つとき
p85
なでられて頭の二十二個の骨ふしぎだふしぎだとさざめけり
あの人と最も小さなものになり輝く管を流れてみたい -
雪舟さんの短歌。なんだろねこの視点と感性。独特で繊細でユニーク。短歌をよむとほわんと映画のような映像が思い浮かぶ。世界は、おもしろい。
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どう遠回りしても行き着く先は愛
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シンガーソングライターの吉澤嘉代子さんのおすすめで読んだ本…解説も素敵でした。
ちいさな棘は抜けぬまま肉にめり込み、今も胸の奥に刺さったままです。きっとどこまでも深く深く、いつか私の一部となるでしょう。いえ、もう既になっております。
確かに私にもちくりと著者の著す世界の棘が、
私の肌にも、確実にその棘を残しました。
特に好きだったのは…章の扉にあった詩
ムーンせんべい。三日月、上弦、満月、十六夜など月の満ち欠けをかたどったせんべいが一箱に一枚入っている。どの形が入ってるかは分からず、新月として空っぽのこともある。その新月こそが当たりで、幸運を呼ぶんだそうだ。〜月の港の代表的なおみやげである。
…本当にこんなおせんべいがあったら素敵じゃない?あるのかな?あとでググってみよう。
『地球の恋人たちの朝食』の詩の抜粋とのこと。一気にこの本の著者に興味が寄った。
そして、短歌が始まった。
1首ずつ、声に出して口を動かし、詠んでみる。
逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ愛に友だちはいない
全身を濡れてきたひとハンカチで拭いた時間はわたしのものだ
あるときはお酒に強くある時は弱くてひとは自由なのです
うるいなくたのしく生きよ娘たち熊銀行に酒を預けて
歩道橋にのぼってさけべ願いごとは轟音に溶け込ませたら叶う
あの人と最も小さなものになり輝く管を流れてみたい -
美しすぎて眩しく、読み進めるのが辛い部分もあった。美しいものを素直に認められる美徳がある。短歌の句切れの前後で景色がガラッと変わり、イメージが結びつきづらいものもあった。多分それは自分の経験不足なんですが…。
おまえよく生きているなあと父がいうあたしが鼠にいったことばを
寄り弁をやさしく直す箸 きみは何でもできるのにここにいる
歩道橋にのぼってさけべ願いごとは轟音に溶けこませたら叶う
ホットケーキ持たせて夫送りだすホットケーキは涙が拭ける
変人と思われながら生きてゆく自転車ギヤは一番軽く