色気の漂う歌集だった。
理性と感性は同居しているのだけれど、どうしても感性が勝って香ってしまうような。
若すぎず、人として内面と外見の美しさが調和してきた頃…鈴木晴香さんは丁度そんな年頃を迎えているんじゃないかしら、と感じた。
男性も同じなのかもしれないけれど、これまで育まれてきた内面と、姿形の美しさだけではない個性としての美しさも皆調和して、人としてぐっと美しさを増す時期が女性にはあるように思うからだ。
儚い歌もあるのだけれど、それよりも、大胆で捨て身な歌にドキリとしてしまう。
「君の手の甲にほくろがあるでしょうそれは私が飛び込んだ痕」
「包丁の腹で胡桃の殻を割る朝の心に形がほしい」
「君の頬に「は」と書いてみる「る」は胸に「か」は頭蓋骨に書いてあげよう」
「君は今きっと新しい恋をして新しくない手で触れている」
好きだった歌を幾つかご紹介。
「レトルトのカレーの揺れる熱湯のどこまでもどこまでも透明」
「メリーゴーラウンドに乗ってくちづけを交わせば廻り続ける夜空」
「ビー玉をばらまくように日曜はひかりつつ中心を失う」
「悲しいと言ってしまえばそれまでの夜なら夜にあやまってくれ」
「開かれて光ってしまう淡水魚それとも躰 月の脱衣所」
「駆け引きも億劫になる花ざかり乞われるままの恋をしている」