殺す親 殺させられる親――重い障害のある人の親の立場で考える尊厳死・意思決定・地域移行

著者 :
  • 生活書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784865000993

作品紹介・あらすじ

「生きるに値しない命」を地域と家庭の中に廃棄しては「親(家族)に殺させ」ようとする力動に静かに抗うために

「私がリンゴの木を植えても植えなくても世界は明日滅びるだろう」という明確な認識を持ち、世界の救いのなさにおののくしかないからこそ、私自身が今日を生きるために、私はリンゴの木を植える――。
透徹した絶望と覚悟を共有する中で、出会い、耳を傾け合い、認め合い、繋がり合うこと。抗うすべと希望を、その可能性の中に探る。

【HPリード】
「生きるに値しない命」を地域と家庭の中に廃棄しては「親(家族)に殺させ」ようとする力動に静かに抗うために。

【帯原稿】
「生きるに値しない命」を地域と家庭の中に廃棄しては「親(家族)に殺させ」ようとする力動に静かに抗うために

「私がリンゴの木を植えても植えなくても世界は明日滅びるだろう」という明確な認識を持ち、世界の救いのなさにおののくしかないからこそ、私自身が今日を生きるために、私はリンゴの木を植える――。
透徹した絶望と覚悟を共有する中で、出会い、耳を傾け合い、認め合い、繋がり合うこと。抗うすべと希望を、その可能性の中に探る。

感想・レビュー・書評

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  • 老いて身体を傷めた親が介護負担のために自身の心身の健康を維持できない事態という人権侵害きらは目を背けたまま、「森」の責を「一本の木」に帰して「個人モデル」で固有の親を指弾して終わることもまた、「殺させる社会」に加担する行為ではないのだろうか。
    そこにもまた、当たり前に疲れ、老い、病んでいく「一人の人」であることを許されず、「殺させられる者」へと追い詰められていく、「弱い者」としての親たちがいる。
    ー本文より引用

    本書は、自身が知的にも身体的にも重い障害を持つ重症児を我が子に持つ母親である著者が、障害者の尊厳とまた障害者をケアする(主に)母親の尊厳に焦点を当て、かれらが生きていくにあたってどのような問題点があるか、障害児をモノとして見てはいないか、1人の人間として尊重するべきではないだろうかという論に一石を投じ、論じたものである。

    医療の現場で、医療者(主に医者)の言うことだけ聞いていればいいのだと押さえつけられるような感覚、患者のためのものであるはずが医者のためのインフォームド・コンセントになってしまっているなど、患者目線での論を語っているところには共感した。私も難病で病院に通っているが、今まですげなくされた経験から、医者の機嫌を損なわないようにする姿勢が染み付いてしまっている。それはとても息苦しい。
    他にも冒頭に引用したように、何気ない世間の声が当事者たちを追い詰め、心を殺し、また物理的にも殺してしまうことを指摘している。
    読みながら、どうしてこのような構造が成り立ってしまうのだろう、いやその理由は分かりそうなものなのだが、どうしてここまで障害者とその家族への偏見が根強い人には根強いのだろうと疑問に思った。ただ自身やその身内に障害のある人がいるかいないかの違いだけだというのに。
    そういった偏見もありながら、障害を持つ親に必要以上の責任を無責任に求める声も多々ある。
    著者はこの点について、「私たちもまた、「正しさ」や「強さ」や「美しさ」だけを語ってこなかったか、強さや美しさをだ称える言葉だけでつながろうとしてはこなかったか、と問い直すことが必要なのではないだろうか。」と問いかけている。

    過度に障害者本人や家族の働きを賛美したり批判したりすることで、ケアをする家族や他ならぬ当事者である障害者本人の生きる世界を損なってはいないか。彼らが殺し殺されないようにするには、偶さかに五体満足の健康体で生まれた人たちも、障害者が生きるということを意識的に共有することが大事なのではないかと、本書を読んでいて思った。いい意味で社会全体がかれらのことを自分ごととして考え意識しなければ、かれらの孤独は癒せない。意識と制度の改革がただちに必要な案件だろうと思った。
    障害者は生きている価値がない。
    そういった論説がまかり通るこの世が怖くて仕方ない。本書で何度も言われているが、追い詰められている人ほど声を上げる余裕がない。かれらの声は、地に埋もれ、無きものとされてしまう。
    まずは声を上げられる世の中に。
    そしてそれに耳を傾けられる世の中に。
    障害や病気に関わらず、声を上げられない人の声を相互に聞き取ろうと思える世の中になることを祈る。いや、祈るだけでなく、動かなければならない。小さなところからでも。
    そう思わされる本でした。

    以下備忘録がてら目次をば。

    第1部 子どもの医療をめぐる意思決定

第1章 アシュリー事件
第2章  「白い人」の不思議な世界の不思議な「コンセント」
第3章 子どもをデザインする親たち
第4章 ボイタ法

第2部 「死ぬ・死なせる」をめぐる意思決定

第1章 「死ぬ権利」をめぐる議論
第2章 「無益な治療」論
第3章 私たちはどのような存在にされようとしているのか

第3部 「無益な治療」論を考える

第1章 「無益な治療」論が覆い隠すもの
第2章 日本型「無益な治療」論としての「尊厳死」
第3章 意思決定の問題として「無益な治療」論を考える
第4章 「出会い」から意思決定を問い直す

第4部 親であることを考える

第1章 強い者としての親
第2章 相模原事件
第3章 弱い者としての親
第4章「親を『ケアラー』として支援する」という視点
第5章 親にとっての「親亡き後」問題
    
最終章 リンゴの木を植える

あとがき

  • 勉強になった。親の思いも親から見た医療や法もなんとなく理解できた。
    ただ、言葉が難しく文章の内容が頭に入ってこないところも何箇所かあった。万人に向けて書いているのではないにしろ、もうちょっと噛み砕いて書いてくれれば、もっと読みやすかったかなと思った。

    障害児と関わったことがあるとか、当事者であるとか、興味がある人は、ひとつの意見として読んでみるのもいいかもしれない。

  • 親とは何か?尊厳とは何?尊厳死の結論にいらない日本の国民性・考え方。私自身も植え付けられている無意識の障害者への考え・態度。全て重く深くでもある、でも避けてはいけない問題。さて、自分の考えはどうかというと、健常者であり、障害のない子供を持っているので、著者のような考えには正直至らないが、もし同じ立場だったとしても、ここまで戦えないかもしれない。そのくらい終わりのない世界。神様は、そんな試練を選んだ人にしか与えないんだと思い生きていくのかな。

  • 自分にも起こり得ること
    障害はないですが歳をとったり事故に遭うなどで
    当事者となりえる
    話し合うこと、協力しあうこと
    対岸の火事ではない

  • 重度障害者の子供を持つ著者の当事者の経験からの医療の問題点、介護の葛藤、社会的支援のなさ、親子の特別な関係が築かれる様子など、とても読み応えのある本だった。
    「母よ殺すな」で活動した青い芝の会が結成されても、未だ障害者を親が殺してしまう事件は経たない。これを親と子、家族だけの問題に片付けてしまってはならず、著者は社会的になぜ「殺させられる親」が形成されていくかについて書いている。

    相模原事件の風化に見られるように、障害者が殺される事件の背景には私たちの無関心が最大の原因なのではないかと感じた

  • 意思決定権はできる限り本人に帰属させること。勝手に決めるな。
    重かった。

  • 勉強になったし、読んでよかったと思った。

  • 子どもの自己決定を大人が勝手にやってしまっている ということを考えさせられた一冊。
    自分もそういうことをしてしまっているし、これからもしていくかもしれない。
    相模原の事件についての他の本も読みたい。

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著者プロフィール

児玉真美(こだま・まみ):1956年生まれ。一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事。京都大学文学部卒。カンザス大学教育学部でマスター取得。英語教員を経て著述家。最近の著書に、『増補新版 コロナ禍で障害のある子をもつ親たちが体験していること』(編著)、『殺す親 殺させられる親――重い障害のある人の親の立場で考える尊厳死・意思決定・地域移行』(以上、生活書院)、 『〈反延命〉主義の時代――安楽死・透析中止・トリアージ』(共著、現代書館) 、『見捨てられる〈いのち〉を考える――京都ALS嘱託殺人と人工呼吸器トリアージから』(共著、晶文社) 、 『私たちはふつうに老いることができない――高齢化する障害者家族』 『死の自己決定権のゆくえ――尊厳死・「無益な治療」論・臓器移植』 (以上、大月書店)など多数。

「2023年 『安楽死が合法の国で起こっていること』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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