ビリー・ワイルダー: 生涯と作品 (叢書・20世紀の芸術と文学)

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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784871985383

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  • ビリー・ワイルダーの名前は聞いたことがなくても、地下鉄の通風孔の風がめくり上げるスカートを手で押さえるマリリン・モンローの写真は見たことがあるだろう。あの『七年目の浮気』を監督したのがビリー・ワイルダーその人である。

    『サンセット大通り』『第十七捕虜収容所』『麗しのサブリナ』『七年目の浮気』『翼よ!あれが巴里の灯だ』『昼下りの情事』『情婦』『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』『フロントページ』等々。アカデミー賞ノミネート20回、受賞6回という錚々たるキャリアの持ち主。

    ウィーン生まれのユダヤ人。ベルリンで新聞記者をやっていたが、ふとしたきっかけで映画の脚本を書くようになる。ヒトラーが政権を取ったのを機にアメリカ、ハリウッドへ。グルメでダンスの名手。冗談好きで、美術品収集家としても知られる。

    原題は「完璧な人間なんて、ひとりもいない」。やはり、モンロー主演の映画『お熱いのがお好き』の最後の場面で使われるせりふだ。名せりふの多いワイルダー作品の中でもいちばん有名かもしれないこのせりふは共作だった。これに限らず、ニヤリとさせられたりホロリとさせられる名文句の多いワイルダー映画の脚本は意外なことにほとんどが共作である。完璧な人間などいないことをよく知っているからこその共作だったのだろう。

    売り出し前のレイモンド・チャンドラーとも『深夜の告白』で共作している。ワイルダーは言う。「チャンドラーは才能豊かな男だったが、わたしとはそりが合わなかった。共作者というのは、結婚相手のようなものだ。仲よくやっていけなくても、何かを生みだすことはできる。『深夜の告白』の最終結果には満足しているよ。」

    ヒッチコックは、「『深夜の告白』のあと、映画界でいちばん重要なふたつの言葉は“ビリー・ワイルダー”だ」と電報を打ったといわれている。

    サイレントからトーキー、モノクロからカラーの時代へと映画の歴史そのものを体現したようなワイルダーだから、今までにも何冊もの評伝が書かれている。それらと比較して、この本のいちばんの特徴は、ワイルダーの映画人生を作品ごとにまとめていることだ。映画好きにはうれしい配慮である。お気に入りの作品がどうやってできたか、その裏話を知るのは何よりの楽しみだ。

    仕事部屋に「ルビッチならどうする!」という言葉を掲げていたほど 尊敬するルビッチや、エーリヒ・フォン・シュトロハイムの逸話。主演女優や男優の撮影中の様子など、本人の言葉がかなり長く引用されている。『お熱いのがお好き』で抜擢されたトニー・カーティスが、もう一度一緒に仕事がしたかったと洩らしているのが印象的だ(共演のジャック・レモンは、その後何度も使ってもらっている)。ロング・インタビューならではの役者の肉声が伝わってくるのも特徴の一つ。

    しかし何よりうれしいのは、ビリー・ワイルダーその人の名せりふが聞けることだ。この人は、たとえインタビューでも名せりふで締めくくらないと納得できないらしい。いくつか抜き出してみよう。ハリウッドではどんな名監督でも、編集で泣かされる。そのことに触れて、

    「映画を作るのはハサミなんだよ。(略)だからわたしは、最小限しか撮らないんだ。映画が完成したとき、編集室の床には、チューインガムの包装紙と涙以外、何も落ちてないよ。」

    「映画を牛耳っている連中は年々お粗末になってきているからね。今では“来年の連中”というものまでいる。」

    今年(2006年)はワイルダー生誕百周年にあたるそうだ。この本を片手に数々の名作をもう一度見返してみるのもいいかも知れない。

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