「鼓動」
フランスW杯、マスコミとの軋轢、セリエA進出。沈黙を通していた中田英寿選手本人を始め、のべ200人以上の関係者への緻密な取材の果てに見えてきた、中田が追い求めていた真実とは。
この本は中田英寿のサッカー人生における2つの分岐点に絞っています。こういうタイプの本は「主人公が劇的に書かれるだろう」と勝手に思っていました。ですが、この本は客観的な立場から中田の周りで起きたことを書かれているように感じました。絞られている2つは「W杯の初出場」と「海外移籍」についてです。
(1)W杯初出場
日本がW杯に初出場したのは98年です。このW杯出場に至るまでの日本代表の経緯をなぞりながら、そこに中田選手には何が起きていたのか、彼は何を考えていたのか、理想とするサッカーはどんなものだったのかetcが混ぜられています。
(2)海外移籍
中田選手はW杯後、ペルージャに移籍します。そこで1年目から当時の日本人への偏見を吹き飛ばす活躍をします。特にセリエAデビュー戦となったペルージャvsユベントスの開幕戦(3-4)は未だに残っています。この本ではこの海外移籍が成立するまで中田選手には何が起きていたのかが書かれています。そして一番の注目は中田選手を親身にサポートした日本の事務所社長と有能で信頼できる代理人です。
しかし、この海外へ移籍することの一番の難しい点はやはり交渉です。選手が移籍する場合、所属クラブと移籍先クラブの移籍金額などの交渉がまず1つ大きな壁になり、次に選手と移籍先クラブとの年棒交渉が2つ目の大きな壁になります。
中田選手の場合、ペルージャのこの壁が相当高かったです、なぜなら相当海外仕込の交渉を押してくるので、日本の価値観からいくとなかなか対応できないからです(ここで代理人が如何に頼りになるかが出てきます。中田選手の場合次原氏とゴードン氏のタッグは強力で、日本と女性に対する先入観をふっとばした)さらにマスコミがこの壁を黒くするので、余計大きなストレスが発生することになります。
以上の2つがメインテーマです。
この本の中で最も印象深いのは「プロとして立ち向かう壁は多くある」ということです。あの中田選手でさえ、19,20歳ということもあったが、大きなストレスや不満を抱えて苦しんでいました。特にこれは今でも恐らく変わらないと思いますが、マスコミの存在は大きいですね。本の中でベンゲル(アーセナル監督)は「マスコミは最大の敵」という主旨の発言をしていますが、その通りでした。
中田英寿という一人のサッカー選手はこのマスコミの過剰報道や歪曲報道にW杯予選から海外移籍実現までずっと苦しめられます。またマスコミに加え、ファンや団体など目の前の情報をただ鵜呑みにしている存在がいかに人を苦しめるのかを再度確認しました。
また、海外移籍に向けて中田、中田をサポートする後藤氏、代理人ゴードン、事務所の次原氏、がいかに大変だったのかを感じることが出来ました。特に代理人と事務所の仕事はどれだけ大変なのかを感じることが出来たのは大きいです。なぜなら代理人やスポーツ選手をサポートする会社について強い興味が沸いたからです。特に代理人の存在は選手にとって重要です。というのも交渉相手から契約において良い条件を得ること以上に良い移籍先を選手が選択出来るかは代理人の腕に掛かっているからです。
この本でも登場しますが選手を金のなる木としか見ない代理人はかなり居ます。そんな彼らにはめられる前に選手は信頼できる代理人を見つける必要があります。この代理人の選択はこれからより一層大切になると思います。
以上感想でした。この本は中田英寿を客観的に知ることが出来る本だと思います(そしてゴンのあのゴールの勘当が蘇るw)。
以下は本の内容とは関係ないです。
私は日本人が海外で活躍する姿や挑戦する姿を見ると非常に強い刺激を受けます。それはサッカー選手でも野球選手でも建築家でも関係ありません。彼らの姿から大きなパワーを受けることで、「自分もビジネスマンとして必ず海外で仕事をする!!」と何度も思います。つまり、私にとって多くの彼らのような日本人は一つの指針です。
私が中田英寿という選手を初めて知ったのは、彼が五輪メンバーに選ばれた時です。そうです、あのブラジルを破ったあの世代です(TV観戦)。その時のチームには前園という優れたドリブラーがいて、川口というチームの背中を押せるGKがいて、現在も現役である伊東というダイナモもいました。そして怪我さえなければ、私としては98W杯には先発で出ていたと思っている大砲・小倉(オランダでの活躍は衝撃)もいました。そんな選手ばかりいる中で、中田英寿という選手は特にびっくりな選手でしたw
そんな中田選手は五輪後も活躍して06W杯後引退しました。今でもピッチに戻ってきて欲しい選手です。