子どもが巣立つということ: この時代の難しさのなかで

著者 :
  • ジャパンマシニスト社
3.80
  • (0)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 36
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784880491912

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  「発達」心理学者の著者が,現在の子どもの置かれている状況を深く見つめた内容の本です。
     今,子どもの生活の場である学校や家庭は,子どもが巣立っていく(社会に出て行く)ために,何か準備をできているのでしょうか。
     人が「巣立つ」とき,それは,完全な独り立ちを意味するわけではありません。一個人としての自立を意味するわけでもありません。著者の言葉を借りていえば,
    「巣立つということは成熟するということではないこと。形容矛盾を覚悟していえば,人は未熟のまま,しかし巣立つ。そういうものかもしれません。」(本書240ページ)
    「飛ぶ準備がととのって,安心して飛び出すというものではなくて,むしろ時が来て未熟なままに飛び出す。そして,飛び出すことによって,飛べるようになる。逆説的なようですが,それが実際です。」(245ページ)
     巣立つというのは,これまでの,親を中心とした人間関係の網の目からはなれて,自分を新しい人間関係の中に入り込ませることでもあります。そのとき,すでに親以外の人間とのつながりを持っているかいないかで,その巣立ちが成功するかどうかに大きな影響を及ぼす可能性もあります。
     さらに,未熟な人間が巣立つためには,当然,後押しがいるでしょう。巣立った後のサポートも必要でしょう。これらもまた,自分が社会と関わっていく中にあるし,それに支えられて生きていくのでしょう。(経済的に,あるいは精神的に)親元を離れたとき,新しく広がる社会の中にも,後押しやサポートがあると感じることができれば,彼,彼女らは,石橋をたたいて堂々と渡っていくことができるような気がします。
     自分一人で生きていくことはできない。「巣立ち」という自立の現場を切り取ってみただけでも,そこには,沢山の人とのネットワークとその影響があるわけです。
    「自立は,孤立ではありません。とすれば,子どもたちの自立を考えるうえで問題となるのは,自分の力で生きるという時の,その力をどう高めるかという以上に,むしろ子どもたちを囲む関係の網の目をどう作っていくかにあるのではないでしょうか。」(40ページ)
     「子どもに学力つける」といって,学力調査の点数をあげることに血眼になっている学校現場に,以上のような発想はまったくありません。
     生きてはたらく力にさえなっていない「学力」の向上を目指すことをやめ,友だちと,あるいは先生と共に生きている楽しさに気づく学校。そんな学校ができればいいな。少なくとも,子どもが疎外感をもち,自信をなくしていくような学校現場にはしたくありません。

     本書には,犯罪を犯してしまった若者の実例(著者が相談に関わっている)が出てきますが,その事件の原因を,加害者になった若者の個人的な資質に求めることの危険性もよく分かります。
     これまで,自分たちの社会の〈内〉にいたはずの少女や青年を,犯罪を犯した途端に〈外〉に追いやり,そして,犯罪を起こした原因をその子の精神状態や障害のせいにする。それは,同時に,自分たちの社会を〈外〉から守るために,〈内〉に新たな障害者差別の意識を広げることにもなりかねません。彼女らが,犯罪を犯すまでは「自分たちの〈内〉にいた」ことを思えば,その「自分たちの〈内〉の構造」こそ,見直すべきだと気づくはずなのです。
     とても読みやすい本でした。そして,著者の主張もよく理解できました。

  • 発達心理学の専門家が、自身のひきこもりの子どもの不登校から高校進学を諦めて職人さんの弟子になって、それが2年で挫折してという実体験と重ねながら語った子どもが巣立っていく事の難しさ。

  • 子どもは、自身が力をつけた結果、成熟して巣立つ、と思いがちだけれど、それは違うのでは? と著者は書いています。

    人は誰も、未熟なまま巣立ち、あとは社会との共同の網の目の中で生きていく。
    なので、必要なのは、共同の網の目をつくる力ではないか、ということが書かれています。

    僕は共感しました。
    子どもや社会を見る目が少し変わりました。
    300ページ近い本ですが、一気に読めました。

  • 【新刊情報】子どもが巣立つということ 371.4/ハ http://tinyurl.com/83xlxwq 今の子どもたちにとって、「巣立ち」がわかりづらくなっている。この時代を生きる子どもたちの「巣立ち」がどのようなものかを考えることを通して、この時代とは何かを問う。 #安城

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

1947年生まれ。発達心理学・法心理学者。現在、兵庫県・川西市子ども人権オンブズパーソン。発達心理学の批判的構築をめざす一方、冤罪事件での自白や目撃の心理に関心をよせ、それらの供述鑑定にも関わる。「自白の心理学」「子ども学序説」(岩波書店)「「私」とは何か」(講談社)ほか著書多数。

「2012年 『子どもが巣立つということ この時代の難しさのなかで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

浜田寿美男の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×