片づけたい女たち

著者 :
  • 而立書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784880593432

作品紹介・あらすじ

まだやり直せる。まだ勝負は終わったわけじゃない…傍観者の罪って?モノに埋め尽くされた部屋で、人生の整理整頓に直面する女たち。アメリカ・ミネアポリスとニューヨークでリーディング上演された英訳台本を併録。

感想・レビュー・書評

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  • タイトル通りといえばタイトル通りなのだけれど、問題は何も片付かないまま幕が閉じる。見てみなかったふりをして、自分の身を守るといった行動は大人としては当たり前とか言われがちだけれど50代の女性でもいつまでも引きずってしまうところに、人間ってそんな成長はしないんだなと安心する。

  • 永井愛、こんどは何?と思って借りてきた。表題の芝居台本と、その英訳台本が収録されている。この表紙の絵、どっかで見たような…と思ったら、荒井良二だった。

    ある朝の仕事前、ベランダで、ひょろひょろと伸びはじめたゴーヤの脇に座って読む。ツンコ、おチョビ、バツミという、50代の女3人を想定して書いたと、永井愛があとがきに書いている。3人は高校時代の親友。

    ある日、ツンコの家(それはデザイナーズ・マンションと思われるしゃれた空間)をおチョビとバツミが訪れてみたら、「あらゆる所に物が散乱し、あるいは積み上げられ、もはや部屋と呼べるほどの秩序はない」というすさまじい状況になっていた。芝居は全編、そのぐっちゃぐちゃのツンコの部屋を3人が片づけていく。

    手を動かし、ゴミの分別を確認し、それぞれの置き場を決めて、物を片づけながら、3人の口は動く動く。散乱した物から、ツンコの生活が、あるいは、おチョビやバツミの生活が、みえてきたりする。

    バツミ ねえ、新聞、雑誌はどうせ回収に出すんでしょ? だったらいっそ玄関の方に…
    ツンコ 読むのよ、私! 読もうと思ってとってあんの!
    バツミ ウチの亭主もよくためるけど、結局読んだためしないよ。
    ツンコ お宅のジジイと一緒にしないで! 私は学ばなきゃなんないの!
    バツミ 何か、凄い言い方されちゃったなぁ…
    ツンコ いや、お宅のご主人は充分学んでらっしゃるから…
    おチョビ 学ぶにしてもさ、新しい情報、取り入れようよ。過去はひとまず水に流して…
    ツンコ シリーズ物とか、切り抜いてんのよ。ファイルもちゃんと、どっかにあるのよ…
    (p.25)

    ついつい古新聞をためて、それをときどきがさがさと読んだりする私は、ここを読んで笑ってしまった。ときどき、記事を切り抜いて、ツンコとは違い、私はファイルもせずに、あちこちに紙が積みあがっていて、またその紙の束を、ホコリが積もったような頃に、拾い出して、じーっと読んだりする。(こういう癖をどうにかしないことには、ウチが紙の山になるのは逃れられへんなと思う。)

    この本の後ろ半分は英訳台本"WOMEN IN A HOLY MESS"で、その前に、ミネアポリスでのリーディング体験が数ページ書かれている。永井愛は英語が全くダメだそうで、報告されたり、質問されたりしながら、二兎社の制作が英語への下訳→アメリカ文学研究者の目で直す→現地の劇作家の目で直す→さらに3人でよりふさわしい翻訳をめぐってメール、というふうにして英訳台本ができていくのを待っていたという。そのなかで「翻訳というもののどこがどう難しく、どんな問題に直面するのかということが、少しずつわかってきた」(p.106)と書いている。

    ここが、なかなかおもしろかった。

    現地の劇作家が「なくてもわかる」とカットしたト書きのほとんどは、作者の永井愛は「なくてはわからない」と思ったから書いたものだった、とか。多少ひねった言葉は、ひねった部分が意訳されて、きわめて普通の言い回しになってしまう傾向にあった、とか。

    永井愛は、事前にこんな手紙をもらっていた。「共同作業は必ずしもスムーズではありませんが、大切なのはオープン・マインドで試行錯誤を繰り返すことのように思います。PWC(プレイライツ・センタ-)のレジデンシーは、安心してこの試行錯誤ができる場ですので、楽しんで冒険をしていただければ幸いです」(p.116)。

    そして、現地はその通りの場だったという。"オープン・マインドで試行錯誤を繰り返す"というのは、どこにおっても大事やなとしみじみ思いながら読んだ。

    (6/28了)

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著者プロフィール

1951年 東京生まれ。桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒。
1981年 大石静と劇団二兎社を旗揚げ。1991年より二兎社主宰。
第31回紀伊國屋演劇賞個人賞、第1回鶴屋南北戯曲賞、第44回岸田國士戯曲賞、第52回読売文学賞、第1回朝日舞台芸術賞「秋元松代賞」、第65回芸術選奨文部科学大臣賞、第60回毎日芸術賞などを受賞。
主な作品
「時の物置」「パパのデモクラシー」「僕の東京日記」「見よ、飛行機の高く飛べるを」「ら抜きの殺意」「兄帰る」「萩家の三姉妹」「こんにちは、母さん」「日暮町風土記」「新・明暗」「歌わせたい男たち」「片づけたい女たち」「鷗外の怪談」「書く女」「ザ・空気」「ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ」「ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…」「私たちは何も知らない」

「2021年 『鷗外の怪談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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