あらゆる名前 (ポルトガル文学叢書10)

  • 彩流社
3.63
  • (6)
  • (8)
  • (11)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 103
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882027102

作品紹介・あらすじ

ポルトガル語圏初のノーベル賞作家が独自の文体で描く異色作。孤独な戸籍係の奇妙な探求を通して、人間の尊厳を失った名も無き人の復活劇を描く!
 ●『あらゆる名前』は一見、この上なくシンプルなプロットの動きの少ない小説である。しかし、そのなかにはカフカに通じる官僚化する現代社会を見つめる視点や、人間と人間との関係について、そして背景には、やはり歴史的につくられたポルトガルの風景や言葉などがある。あるいは、あるひとりの人を追い求め人間の心の内を心理学的コンテクストで読むこともできるし、他人を求める人間という視点から、他者あっての自分を考える材料ともなり、ひとつひとつの出来事を社会学的視点から解読していくことも、また全体を包括する広い宇宙という観点から哲学的に楽しむこともできる。聞き手がどのような方向から、どのような距離からアプローチしても相応に答えてくれる小説と言える。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • カフカの「城」を思い出した。
    測量士K同様、戸籍管理局補佐官ジョゼ氏はどこにも行き着かない。

  • 局長はなぜあんなにジョゼ氏に好意的だったのか

  • 「彼女と面と向かって話をしたいとは思わないよ、それならどうして彼女を探すんだい、どうして彼女の人生をしらべてまわっているんだい、.......理不尽だ、そのとおり、理不尽なんだ、でももう何年も前からこの理不尽なことをやっているんだ、もし彼女に会うことになったら、君は彼女を探していたことを知らせないでおくんだと言いたいのかい、そのとおり、どうして、説明はできないな」

    主人公はあらゆる出生と死亡を記録し続ける戸籍管理局のさえない中年独身男性。
    ふと1人の女性の記録に、知りたいという衝動に駆られ、自分の立場を利用してまで危険を冒し、その女性を追い求める。
    「相手のことを知りたい」という欲求と「自分のことを欲しい」という欲求とのアンバランスさがストーカー小説の面白さではないでしょうか。いや、詳しくはしらんけど!!
    ポルトガル人初のノーベル賞作家。映画「ブラインドネス」原作「白い闇」の作者。
    目が見えなくなる病気が蔓延した世界の隔離病棟の中でただ1人、目が見える女性の戦い。
    非常にえぐい、きつい、がいい映画だと思います。

  • 戸籍管理局の補佐官、生と死の最初と最後の受託者であるジョゼ氏は執念に似た愛で「無名の女性」を探す。一人の人間の過去を整理して意味のあるものにしようとする試み。加護を与えられている彼は、可能なすべての偶然のなかから常に最良の選択をする。管理局の保管庫に集まるあらゆる名前。それらは決して読み終えることのできぬ書物。文字の一つ一つに触れながらたどってゆくさまよってゆくきれぎれの物語のかけらはこの世の新たなる書記としてわたしが綴る物語でもあるのだ。
    名前を呼ぶ。発話するときの音波の衝撃によって人は何度でも生を享ける。

    死とは冷たい消尽点ではなく未訳の通過点である。

  • 戸籍管理局に勤める「ジョゼ」氏は、ひょんなことならある女性の戸籍謄本を手にする。趣味の一環でこっそりと集めていた有名人のそれに紛れていた存在に心惹かれ、「その瞬間」は生きていたはずの彼女を探し始める。生まれてからの足跡(記憶)を追うことで、戸籍を扱うという特異性の中で、直面する生と死の矛盾に行き着く。
    近代的な制度は生と死を厳格に分ける。遺された者たちの心情や記憶とは別に、死者は死というその瞬間によって社会的な存在ではなくなるのだ。「ジョゼ」氏が辿っていく人探しの途上はそうした近代装置からは捨てられた残滓を紡ぐ旅である。アパートの一番右の老女は「なぜ電話帳で調べないのか?」と問う。羊飼いは自殺者の墓標を勝手に入れ替える。「ジョゼ」氏の経験は、不合理な旅ではあるが、果たしてそう規定しているのは誰なのか。死とは、いよいよ近代的に名付けられた表象の在り方に過ぎないのだ。戸籍管理局という制度それ自体が証明するように、死とはそう規定された瞬間に始まるのだが、それはシンボリックな意味においてそうであることというに過ぎない。
    あらゆる名前の中で、大切な存在のことを思うとき、必要なことは、管理された生や死ではない。シンボルを越えた先にある存在そのもの、記憶、その他あらゆる何ものかである。奇妙な物語であり、そして間違いなく悲劇と呼べるのだが、本当の悲劇とはどのような意味においてそうなのか、問い返すきっかけとなる。

  • サラマーゴ特有の開業や文字記号のない読みづらい文体で、慣れていない人は最初で嫌になると思う。もしかしたらこれでも、翻訳の段階でだいぶ補正されているのかもしれないが。物語は膨大な数の死の記録が集められる出生管理局の古い戸棚から、ふとある一人の女性の記録に取りつかれたようにその生涯を追う、出生管理局に努める一人の初老の男性の物語。その姿はまさにパラノイア。途中目も当てられない。だが、こうした強烈な描写もまた、サラマーゴ特有。一癖も二癖もある作家だ。

  • 自分が下したとみられる決断は実は外部にこそ依存していて、その外部のものも更に外部に依存しているのではないかと考えさせられる。
    修行を重ねて5年後に再読。

  • 読み続ける気になれず、80ページぐらいで読むのを止めた。

  • 戸籍管理局に勤める下っ端の50がらみのオッサンが、ひょんなことから一人の女性を探し求めることになる・・・。ちょっと精神が疲れている時に読んだのであまり内容が頭に入ってこなかった。要再読。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1922年、ポルトガルの小村アジニャガに生まれる。様々な職業を経てジャーナリストとなり50代半ばで作家に転身。『修道院回想録』(82)、『リカルド・レイスの死の年』(84)、『白の闇』(95)で高い評価を得て、98年にノーベル文学賞を受賞。ほかに『あらゆる名前』(97)、『複製された男』(2002)など。2010年没。

「2021年 『象の旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジョゼ・サラマーゴの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×