- Amazon.co.jp ・本 (453ページ)
- / ISBN・EAN: 9784887217690
感想・レビュー・書評
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電車の中で読めない重さと、刺激的な絵画の数々。
「醜」という強烈な表現は、厳しい現実の奥をさらけ出す力を持っています。ヨーロッパの各時代の歴史、宗教、美術を知らないと
ただ重いだけの本になってしまいます(汗詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1、古典世界の醜‥イデア
2、受難、死、殉教
3、黙示録、地獄、悪魔
4、モンスター(怪物)とポルテント(予兆)
5、醜悪なもの、滑稽なもの、猥㐮なもの‥カリカチュア
6、古代からバロック時代までの女性の醜さ‥マニエリズム
7、近代世界の悪魔‥サタンから哀れなメフィストテレスへ
8、魔女信仰、悪魔崇拝、サディズム
9、フィジカ・クリオーサ(肉体への好奇心)
10、ロマン主義による醜の解放‥美の黄昏
11、不気味なもの
12、鉄の塔と象牙の塔‥ロンドン、デカダンス
13、アバンギャルドと醜の勝利‥シュールレアリズム
14、他者の醜、キッチュ、キャンプ
15、現代の醜
絵や参考文献に圧倒される。芸術史の総ざらいといった感じ。 -
ウンベルト・エーコと言えば、『薔薇の名前』。『薔薇の名前』は昔、読んだ。『フーコーの振り子』は挫折したような気がする。本書は、そのエーコが著わした、古今の西洋美術から醜いものの系譜を辿ろうという大部。とにもかくにも高価で重い(物理的に)本だ。図書館に予約を入れてから知ったのだが、『美の歴史』の続編としての『醜の歴史』であり、基本的には美に対しての醜、調和に対しての不調和、快に対しての不快の本である。冒頭、イタリア語と日本語で美と醜の類義語が数十ずつ並べられる。それだけ美にも醜にも様々な色合いがあるというわけだ。醜の多様な局面を15の章に分けて、絵画や彫刻そして文学作品の引用とともに、解説が紡がれていく。図版の豊富さ。テキスト引用の多さ。これだけのものを1人で編纂するエーコの頭の引き出しの大きさには絶句する。碩学とはこういう人を言うのか。しかし決して取っつきにくい本ではない。峻厳な崖ではなく、奥深き森といった感じだ。造詣の深い人は深いなりに、素人は素人なりに、ラビリンスのような森の中で遊ぶことが出来る。朝日新聞の書評で横尾忠則氏が述べていたように、とりあえずは論評にまったく目を通さず、絵だけを眺めるのも「あり」なのだ。もちろん、解説を読めばさらにおもしろいのだけれど。いったい、「醜」って何だろう。読み終わってほぉっとため息が出る。その価値観は時代によっても振れ幅が大きいのだろうし、地域にも、そしてもちろん個人にもよるのだろう。自分が「醜」と思うものを突き詰めることは、すなわち自分を知ることでもあるのだろう。いや、恐れ入りました。すごいです。第一作目の『美の歴史』、それから今執筆中らしい第三作目もそのうち読んでみたい。*自分にとって一番気持ち悪かったのは、アルベルト・サヴィニオの『ロジェとアンジェリク』。気持ち悪いと思いつつ、何度も見てしまう。原典が多分あるんだろうと思うのだけれど見つからない。サヴィニオはデ・キリコの弟。形而上絵画派の一員。この一派の一人のピシスの妹がマンディアルグと結婚したんだそうで。*野蛮人を表す「バーバリアン」。元々はギリシャ語の「バルバリ」=もごもごと訳のわからない言葉を話す人々から来ているのだそうだ。異質なるものは蔑みや排除の対象になるのだなぁ。*自分が醜いと思うものにもっとも近いのは魔女のイメージかも。白雪姫のお妃が化けたような。本書中に、中世、火刑に処された者が魔女ではないかと告発されたのは、多く、「醜女」であったからだとあった。これには唸らされた。*中野京子の『怖い絵』シリーズで出てきた絵もかなりの数、収録されていた。「怖い」と「醜い」。切り口が違うとまた新鮮だ。*とはいえ、このところ、恐ろしかったり気持ち悪かったりする絵の本を読むことが多かったので、何だかすかっと明るく美しいものも見てみたい気になってきた。何事もバランスが大事・・・?
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ほしい たかい