- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784887320062
感想・レビュー・書評
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収録されているのは中編3つ、「ウニデス潮流の彼方」1947(昭和22)年、「グリュックスブルグ王室異聞」1954(昭和29)年、「ナリン殿下への回想」1938(昭和13)年。
中公文庫の『蒲団』で俄然興味の湧いた江戸川乱歩と同年生まれの作家、橘外男のエンタメ作品集。中古で入手。
まずは作家の多彩さを示す本と言えるだろう。最初の作品「ウニデス潮流の彼方」は海洋伝奇ロマン。「グリュックスブルグ王室異聞」はミステリ。直木賞を受賞した「ナリン殿下への回想」はユーモア小説的な部分を多く含んだ現代(当時)の奇譚。
この作家の作品は、文章はあまり上手くないが、語り口が優れており、その点、8歳ほど年下の横溝正史と同様の出色のエンターティナーである。素晴らしい文学作品とまでは言いがたいが、時代を経てもじゅうぶんに楽しめ、ある意味、B級映画的な良さがある。
本巻の前半2作においては海外を舞台にしていて、読んでいると海外作品の翻訳ものを読んでいるような錯覚を覚える。そんなに海外旅行をしていたわけではないように思えるが、エンタメ系の翻訳小説をたくさん読んでそのスタイルを会得したタイプだろうか。
最後の「ナリン殿下への回想」は、映画「ローマの休日」のようなシチュエーションで、インドの王族の少年が一般人を装って日本に来ている。作品は日中戦争の最中に書かれ、インドはまだイギリスの支配下にある。
本作はしばしばユーモア小説のようになって笑いを誘うが、イギリス(漠然とした国家概念に過ぎない)への反感が憎悪へと至り、当時の日本の巷間にそうした感情が溢れていたのかもしれないとも思うが、日本の戦時体制に迎合するかのような文も見られて、その辺はいただけない。詳細をみるコメント0件をすべて表示