- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784892571091
作品紹介・あらすじ
「あなたは誰?」と、無数の鳥が啼く-望まない結婚をした娘が、「白人の墓場」で見た熱帯の幻と憂鬱。自伝的小説、本邦初訳。
感想・レビュー・書評
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50年前に出版されたカヴァンの小説初訳本。東南アジアの不快な暑さと湿気に閉じ込められた濃密で不快な閉鎖空間で抑鬱感満載の話。タイトルは繰り返されるチャバラカッコウの鳴き声。カヴァンらしい文章の上に、精神的に厳しい時に読むと持ってかれそうなくらい落ち込んでいく。特筆すべきことは、50年前に書かれたとは思えない技法で、シュールな仕掛けがなされ、不快で弱った読者を困惑される。誰にも勧められないが、この閉塞感はほんとたまらない。もうすぐ傑作「氷」が復刊するし、まだまだカヴァンの刊行ラッシュが続いてほしい。
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20世紀前半、イギリス統治下のビルマ。むせかえるような熱帯のけだるさ、けたたましい南国の鳥、火に集る虫たち、雨季を告げる嵐。これほどの閉塞感で自伝的小説という事実が恐ろしい
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復刊が相次ぐアンナ・カヴァンの自伝的小説。
『アサイラム・ピース』を始めとする、SF・幻想小説にカテゴライズされる作品群とは異なり、カヴァン本人の、最初の結婚生活を元にしたと思しき本作では、SF的な仕掛けは無い。但し実験的な結末は用意されている。
これまでに紹介されている、言うなれば『アンナ・カヴァンらしい』小説との共通点は、終末を思わせる緊張感。主人公の若い娘は年上の粗暴な夫や非協力的な使用人に怯え、体質に合わない風土とも相まって、現代で言う『DV被害者の思考』に陥っている。主人公はその息が詰まるような世界だけではなく、この世界全ての崩壊を望んでいたのではないだろうか。 -
自分とのつながりを失った娘。乱暴で威圧的な夫。娘を憎む気味の悪い使用人。第三者的な目が冷然と描写する熱帯での暮らし。
単調で騒がしい鳥の叫びと耐えられない暑さに、空間が時間がぐにゃりとゆがめられるよう。
導き手のようなスエードブーツの若者は唯一まともな存在感を示すも、その姿が見えなくなれば、また元の不確かな光景に蔽われてしまう。
幻か悪夢か現実かの狭間で、夫と使用人の異様さが彼女の恐怖心と不安を物語っている気がした。 -
生々しい肌感覚が文章から伝わってくる。