優しい日本人 哀れな韓国人 (WAC BUNKO 304)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898318102

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  •  ひどいタイトルだが、韓国について、ある側面を知ることができる。
     韓相龍や李完用の考えや目指したものについて、知りたいと思ったし、崔麟や李光洙もそうだ。韓国にはある近代化に向けた哲学があるし、思想があった。それがなんであるかは、これらの人々が韓国にとって売国奴として裁かれているので、ぜんぜん分からない。
     呉慶錫の思想についても日本で資料は容易に手に入らない。禹範善やその息子についても初めて知った。今井正の映画『望楼の決死隊』『愛の誓ひ』も観て見たい。今井は共産主義のばりばり左翼だが、作品作りとして、当時の状況として忠実に映画を撮っており、著者は絶賛している。著者はオランダ映画『38度線』も勧めている。
     昭和9年の『満州日報』の記事に、親に売られた朝鮮の娘を日本の官憲が助けた記事などが紹介されている。これも、現在の価値観で昔を裁く人間にとっては、不都合な記事だろう。
     直木賞作家伊藤桂一の『兵隊たちの陸軍史』『水の琴』も紹介されていて、当時の慰安婦と兵隊との関係について述べられている。これも読みたい。
     また、半島の舞姫 崔承喜は、親日として没年すら明らかでない最後をむかえている。これを、どのようにして描くかは、いまだなされていないのではないか。
     水野錬太郎という日本人の文化統治についても知りたい。ソウル大学の母体となる京城帝大の創設を推進した人だ。太極旗を考案したのは親日派の朴泳孝。明治15年、彼が朝鮮政府の使節代表として日本に向かう船上のことであるという。
     また朝鮮を考えるに、曺寧柱や朴春琴、権逸の存在も忘れてはならないだろう。

     P216 には、北朝鮮の主体思想の生みの親・黄長燁が1997年に韓国に亡命し、回顧録を書いていることが引用される。
     そこには戦時中の徴用体験も記してある。
     昭和19年、2月から終戦まで、大学生の彼は江原道・三陟のセメント工場で働いていた。
     そこで彼は「私たちが初めて来たときの作業班長は三陟警察署の日本人刑事だった。しかし私たちが彼の非行を問題にし、ことが大きくなると追い出された」と述懐している。
     朝鮮人徴用工たちは日本人の上司をクビにすることもできた。
     どこが強制連行なのだろうか。今も問題とされている原点である資料『朝鮮人強制連行の記録』は冷戦たけなわのあの時代に、「反共」を軸に結び付く日米韓の三国関係にくさびを打ち込もうとして出版されたものであり、我々は理解しておくべきであると、著者は書いている。
     しかし、この本で重要なのは、未来から裁かれた過去の人々を知ることができることだ。現在の、もしくは戦後の価値観で評価され、裁かれる人々。まるで、歴史とは、現在に思想闘争として利用できると言わんばかりのものだ。思想闘争には、どこか、戦争もやむなしというものがある。暴力肯定である。左派であれ、右派であれ、この「裁く系の人間」は、人々が感情的になることが求めている。Twitterのアクティビストも、スマホの画面で、みんなが怒りを元気玉のように集めてくれることを求めている。「憎悪の政治学」とでも言おうか。現在の中心であり、その憎悪の増幅のために、歴史は利用される。そうはさせないためにどうすればいいかが現在の歴史学の地点であるとは思うが、もしかしたら、いまの歴史学は「裁く系の人間」によって乗っ取られていたりするかもしれない。
     この本は、思想闘争本ではなく、むしろ、未来や現在から、裁かれてしまった韓国の人々を取り上げて、あらためて当時それがどういうものだったかの解釈を述べているように思う。

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著者プロフィール

1952年福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。日本近現代史研究家。著書に『優しい日本人、哀れな韓国人』(WAC出版)、『中国共産党の罠』(徳間書店)、『日本はいかにして中国との戦争に引きずり込まれたか』、『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』(以上、草思社)、『満洲国建国の正当性を弁護する』(G.ブロンソン・リー著、翻訳、草思社)、『暗黒大陸中国の真実』(R.タウンゼント著、共訳、芙蓉書房出版)、『続・暗黒大陸中国の真実』(R.タウンゼント著、共訳、芙蓉書房出版)、『日米戦争の起点をつくった外交官』(P.ラインシュ著、訳、芙蓉書房出版)ほか。

「2023年 『日本を一番愛した外交官』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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