アウシュヴィッツの残りのもの: アルシ-ヴと証人

  • 月曜社
3.92
  • (12)
  • (11)
  • (15)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 182
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784901477000

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 現代イタリアを代表する思想家アガンベンの主著の1つ。ネグリは好みじゃないけど、アガンベンは好み。現象学的書き方を継承しているし、扇動的ではなく冷静だから。

    アウシュヴィッツ収容所で、ユダヤ人の収容者たちの間に「回教徒」と呼ばれる人たちがいた。回教徒とは、収容者の中でもとりわけ疲弊しきって絶望している人、生きる意志をなくした人、話しかけても答えない、人間的なふるまいをしなくなった非人間の存在である。収容者たちは、彼らの様子が床に頭をこすりつけてお祈りする回教徒によく似ているから、「回教徒」と呼ぶようになったという(アウシュヴィッツ後のイスラエルとイスラム諸国の憎悪の歴史を知っている立場としては、大変示唆的な言葉)。

    回教徒は言葉を持たない。回教徒になったら、ガス室に送られる。ガス室に送られない為に、収容者たちは、回教徒でないように、人間のように振舞うことを自らに強いた。ガス室に送られた人は全員死んでいるから、ガス室での殺戮がどのようなものであったか、誰も証言できない。回教徒とはどのような存在か、実際回教徒であった人はガス室に送られて亡くなっているし、生き残ったわずかな人も当時のことを語ろうとしないから、回教徒とは何か、証言不能になる。

    アウシュヴィッツで見かけた回教徒について語る生存者は、回教徒の体験について代理で語っているようでいて、語れない。語ることができないけれど、語り継ごうとする。

    話す内容を持っている者は話す言葉を持っておらず、話すことのできる者は、話す内容を持っていないというのは、何もアウシュヴィッツに限った特別なことではないと、アガンベンは証明していく。

    最後に、アウシュヴィッツで回教徒だった人たちの証言が並べられる。回教徒本人による証言だ。回教徒は証言不可能だと書いてきたのに、これをのせていいんだろうかと思いながら読み始めると、書いてある内容がすさまじい。そして同時に、自分自身も人生の中で、回教徒だった瞬間があるんじゃないかと、思ったりした。自殺する人、肉体的にも精神的にも極度に疲弊している人、生きる意志を放棄した人は、みなアウシュヴィッツにおける回教徒の状態になる。

著者プロフィール

1942年生まれ。哲学者。マチェラータ大学、ヴェローナ大学、ヴェネツィア建築大学で教えた後、現在、ズヴィッツェラ・イタリアーナ大学メンドリジオ建築アカデミーで教鞭をとる。『ホモ・サケル』(以文社)、『例外状態』(未來社)、『スタシス』『王国と栄光』(共に青土社)、『アウシュヴィッツの残りのもの』(月曜社)、『いと高き貧しさ』『身体の使用』(共にみすず書房)など、著書多数。

「2019年 『オプス・デイ 任務の考古学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジョルジョ・アガンベンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ミシェル・フーコ...
ジャック・デリダ
ジョルジョ アガ...
ジャック・デリダ
國分 功一郎
ミシェル・フーコ...
ジョルジョ・アガ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×