国家をもたぬよう社会は努めてきた: クラストルは語る

  • 洛北出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903127323

作品紹介・あらすじ

はじめてのクラストル――
 「国家なき社会」は、なぜ「国家なき社会」なのか。
 それは、その社会が「国家に抗する社会」だからである。その社会が、国家を忌〔い〕み嫌い、祓い〔はらい〕のけてきたからである。国家という災厄を、封じ込めてきたからである。
 つまり政治は、国家以前にも存在するのであって、国家は、政治のとりうる形態のひとつにすぎないのだ。ようするに国家は、クラストルによって、その玉座〔ぎょくざ〕から転げ落ちたのだ。
 * * *
 ピエール・クラストルの『グアヤキ年代記』に感銘をうけ、英語に翻訳して序文まで書いたのが、若き日の小説家ポール・オースターだった(Chronicle of the Guayaki Indians, 1998)。
 「〔『グアヤキ年代記』の〕何の気取りもない直截さ、人間らしさに私は打たれた。……自分がこれからずっと追いつづけるにちがいない書き手に出会ったことを確信した。……この本を好きにならないのはほとんど不可能だと思う。じっくり丹念に練られた文章、鋭利な観察眼、ユーモア、強靱な知性、対象に注がれた共感、それらすべてがたがいに補強しあって、重要な、記憶に残る書物を作り上げている……彼〔クラストル〕はめったにいない、一人称で語ることを恐れぬ学者である。」〔『トゥルー・ストーリーズ』、柴田元幸訳、新潮文庫、298-307頁〕
 * * *
 本書『国家をもたぬよう社会は努めてきた』の「序文」のなかで、フランスの政治哲学者ミゲル・アバンスールは、クラストル以前と以後を分かつポイントを、3つあげている。
 【1】「なき〔不在〕」から「抗する〔対抗〕」への移行。いわゆる未開社会は、国家なき社会なのであるが、そのゆえんは、欠如や欠損ではなく、国家の拒絶である。したがって、それは「国家なき社会」というよりは「国家に抗する社会」である。
 【2】威信は与えられているが権力をもたない首長の存在。人々は、首長の言動に目を光らせている。特権への意欲が権力への欲望に転化しないよう、注意を払っているのだ。
 【3】国家はあらゆる歴史の地平ではない。「国家に抗する社会」から出発して「国家のある社会」を見ていくことが重要になる。
 * * *
 そしてアバンスールは、次のように述べて「序文」を締めくくっている。
 「この声に耳をかたむけよう。自由であり、かつ他者の自由を求める、一人の人間の声。アチェの夜の歌に耳をかたむけ、ラ・ボエシやルソーに耳をかたむけ、災厄以前の「あたらしい人間」に耳をかたむける、一人の人間の声。こうした声のすべてが、ピエール・クラストルのユニークな声とからまりあいながら、共鳴している。」
 * * *
 本書は、クラストルへのインタビューを通じて、彼の著作が人文社会科学全般にもたらした強烈なインパクトを紹介している。クラストルの人類学を知りたい人に、うってつけの入門書である。

感想・レビュー・書評

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  • この版元の装丁は常に美しい。それだけで所有欲がそそられる。中身はクラストルの民主主義や始原的なアナキズムにかんするインタビューが主だが、分量としては訳者解説の方が多い。それでも、インタビュー部分からは大きな示唆を得られる。国家を形成しないためにも、元来、争いつまり戦争というのは絶えなかった、というテーゼは重い。

  • [p. 104 以降]

    読了。「解釈労働」と「恣意的暴力」と「強制的権力」について、メモ。

    --

    [pp. 52-103]

    インタビュー自体は 1974 に刊行されたもののよう。面白いんだけど自分の知識不足でいろいろ手探り。背景を知るには後半の改題を読むといいのかな。

    --

    [p. 51 まで]

    タイトルが面白そうだったのと、ブックカバーがカラフルで目を引いた。人はなぜ従属したがるのか、という問いの立て方が興味深い。「一体化した全体としての社会の権力」「一個の全体としての社会の権力」。

  • 389||Cl

  • 【書誌情報】
    『国家をもたぬよう社会は努めてきた―― クラストルは語る 』
    ピエール・クラストル 著
    酒井隆史 訳
    発行元 洛北出版
    四六判 並製 272頁
    2021年10月刊行
    ISBN 978-4-903127-32-3 C0010
    定価(本体価格 2,600円+税)

    http://www.rakuhoku-pub.jp/book/27323.html

    【目次】
    ・ミゲル・アバンスールによる序文「ピエール・クラストルの声」
    ・ピエール・クラストルへのインタビュー
    ・訳者による解題「断絶のパッション——ピエール・クラストルとその「事後効果〔アフター・エフェクツ〕」

    索引
    訳者あとがき

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著者プロフィール

ピエール・クラストル〔著者〕1934年パリに生まれる。フランスの人類学者。ソルボンヌ大学でヘーゲルとスピノザを研究し哲学を修め、1956年以降、クロード・レヴィ=ストロースの学生として人類学の研究をはじめる。さらにアルフレッド・メトロの指導のもとに南アメリカをフィールドにした政治人類学研究を開始。その後、高等研究院教授となる。1977年7月、その影響力のきわみにあるなか、自動車事故によって他界した。日本語に翻訳された著作として、『グアヤキ年代記――遊動狩人アチェの世界』(毬藻充訳、現代企画室、2007年)、『国家に抗する社会――政治人類学研究』(渡辺公三訳、水声社、1987年)、『大いなる語り――グアラニ族インディオの神話と聖歌(毬藻充訳、松籟社、1997年)、『暴力の考古学――未開社会における戦争』(毬藻充訳、現代企画室、2003年)がある。

「2021年 『国家をもたぬよう社会は努めてきた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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