新訳テンペスト

  • レベル
3.75
  • (1)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 21
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903225470

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 初☆シェイクスピア。
    イギリス文学が面白くなってくると、作中に引用されるシェイクスピア作品がどうしても気になってくる。そう思いながらも、いつかいつかと読むのを先延ばしにしてきた。
    そうしてやっと1冊目を読んだのだけど、おかしなことにイギリス文学からシェイクスピア作品へと手を伸ばすはずだったのが、なんと“ガンダム”からシェイクスピアへとたどり着くことになったのだ。と、いうのも、ガンダムシリーズ最新作『水星の魔女』は、シェイクスピアの『テンペスト』が原典となっているらしい…とのことをブク友・BRICOLAGEさんに教えていただいたから。『水星の魔女』のこれからの展開が気になる私にしたら、もうこれは読まなきゃです。

    いくつか出版されている『テンペスト』のなかで、この『新訳 テンペスト』を選んだのは、まずアーサー・ラッカムの絵が好きだったから。アーサーの描くファンタジーの世界は美しくて妖しくて、ちょっと不穏。一度見たら忘れられない不気味だけど面白い夢の世界。
    アーサーの描いた『新訳 テンペスト』という点ではお気に入りなところがもうひとつあって、それは表紙カバーの下に隠されている。なんとそこには1926年に『テンペスト』が発行された当時のアーサーが描いた表紙絵が再現されているのだ。これがまた黒地にゴールドで描かれた海のニンフ画で、とてもシックで素敵なの(なんだか刺繍っぽい)。

    あと訳者が井村君江先生というのも面白そうと読んでみたくなった。英文学者の井村先生はケルト・ファンタジー文学研究家であり、うつのみや妖精ミュージアム名誉館長にも就いておられる妖精学の第一人者。
    その先生が従来の訳では『テンペスト』に登場する「エアリエル」は「フェアリー(妖精)」とされてきたけれども、エアリエルは「フェアリー」ではなく「スピリット(精霊)」だと、新訳で明らかにされたのだ。
    妖精の視点とエリザベス朝時代の価値観からとらえなおした完全訳─なんて紹介されたなら、気になって仕方がないじゃない。

    ──あらすじ──
    かつてミラノ公爵だったプロスペローは弟のアントーニオによってその地位を奪われ、娘のミランダとともに絶海の孤島に追放された。
    それから12年後、ナポリ王アロンゾー、ミラノ公爵となったアントーニオらを乗せた船が大嵐に遭い難破、プロスペローとミランダが住む島に漂着する。
    実は王の船を襲った嵐は、魔術を使うプロスペローが復讐のため、スピリット(精霊)のエアリエルに命じて用いた魔法によるものだった。

    島に王の一行と離ればなれに漂着したナポリ王子ファーディナンドは、プロスペローの思惑のとおりミランダに出会い、2人は一目で恋に落ちる。
    けれどもあまりにも簡単に結ばれてはありがたみがないと考えたプロスペローは、ファーディナントに試練を与えた。そしてその試練を乗り越えたファーディナンドは、プロスペローからミランダとの結婚を許される。

    一方、更なる出世を目論むアントーニオはナポリ王の弟セバスティアンを唆し王殺害を計る。
    他方、島に棲む怪物キャリバンは漂着した飲んだくれの使用人頭と道化師をうまく担ぎ上げプロスペローを殺そうとする。
    しかしながら、そのどちらの悪だくみもスピリットのエアリエルの活躍で頓挫した。

    ナポリ王やアントーニオらに復讐をしようとしていたプロスペローも娘の幸せそうな様子を見届けると復讐を思いとどまり、彼らを赦すことにする。和解した一同はナポリへ向かい、ファーディナンドとミランダの結婚式を執り行うことになる。

    魔法の力を捨てエアリエルを自由の身にしたプロスペローは、自身の身を観客にゆだねる……


    『テンペスト』の芝居は、1616年の万聖節(12月1日)の夜、ホワイトホールにおいて、ジェームズ1世の御前で上演された。
    この戯曲『テンペスト』は婚礼の祝宴劇で、プロスペローの娘ミランダと難破したナポリ王アロンゾーの息子ファーディナンドとの婚礼を祝福する仮面劇になっている。

    シェイクスピアはこの作品を最後の戯曲とし筆を折ったことから、プロスペローが魔法の力を捨て去る最後のセリフ「わしはこの杖を折って地中深く埋め、このわしの書物を測量の錨も届かない海の深みに沈めてしまうつもりだ」という言葉に彼の最後の姿を投影する解釈も多くある。

    さて、この『テンペスト』には超自然のものとして、空気の精「エアリエル」と、土の精「キャリバン」が描かれる。
    今作の井村先生の解説ではエアリエルに主に焦点があてられ、「スピリット(精霊)」のエアリエルと『夏の夜の夢』に登場する「フェアリー(妖精)」たちとの違いが述べられた。
    『夏の夜の夢』の妖精の王オーベロン、妖精の女王ティターニア、妖精の従者パックなどなどは、皆「フェアリー(妖精)」であり、また「家族」を作り「社会」を形成し「国」を構成するので、「トゥルーピング・フェアリー(Trooping fairies…群れを成して暮らす妖精)」と分類される。
    これに対して『テンペスト』のエアリエルは、魔法使いプロスペローに仕える使魔「ファミリエール(familiar spirit)」であり、「フェアリー(fairy)」ではなく、「スピリット(spirit)」と呼ばれているのだ。
    ここから井村先生は、プロスペローがエアリエルを作中でどういう名前で呼んでいるのか整理し、そこからうかがえるエアリエルの性質をまとめ、「フェアリー」とは全く違う存在であることをつきつめていく。
    たしかにシェイクスピアは、エアリエルを「スピリット」としか呼んでおらず、従ってパックたち「フェアリー」とは、種類が違うわけである。

    さらにいえば、パックには‘we shadows’(我ら妖精、「影」のもの)とのセリフがあり、彼はfairy(妖精)であり、人間のshadow(影)であるが、エアリエルはspirit(精霊)であり、soul(魂、精神)であると、双方ともに超自然的であり、目に見えない存在であるけれども、シェイクスピアはこれらを違うものして考えていたなど、チャールズ・タルポット・オニオンズの『A Shakespeare Glossary』から引用し、説明する。

    また魔術は当時の人々の関心の的だったこと、“魔術流行”についても触れられている。
    ジェームズ1世は魔女や妖術を信じ恐れ、神から王権を授かった国王こそが魔女を弾圧し一掃すべきだという『悪魔学(デモノロジー)』を著している王。その王の御前で、シェイクスピアはプロスペローという王を思わせる魔術に精通した学者を登場させた、というのは面白いなと思った。シェイクスピアとジェームズ1世の関係や、ジェームズ1世自身のこと、この頃のイギリスの魔術流行についても知りたいことだらけだ。

    ロマンス劇といわれる『テンペスト』は、復讐から和解・解放へといたる物語である。戯曲は読み慣れていなかったけれど、意外とスラスラと楽しく読むことができ、賑やかなファンタジック・コメディみたいな印象を受けた。
    井村先生の訳も読みやすく、ノートに綴りたいお気に入りの文章も見つかった。あと一番はアーサー・ラッカムの挿絵が何枚も挟まれていたことが嬉しかったな。

    そして最大の興味(笑)、『水星の魔女』と似ている部分。たしかに登場人物や彼らの思惑など、あっ!と思うところはたくさんあってニヤリ。でもストーリーにはまだまだ秘められた謎も多く、これから明かされていく事実によっては大どんでん返しもあるかもしれない。
    「復讐」の物語だと思うとこれからの展開が恐ろしいけれど、『テンペスト』は「和解・解放」がテーマとなっていると知り、楽しみになってきた。……きたんだけど、うーん、第1クール最終回を目前にして、新しい魔女も登場したしねぇ。もしかしたら『テンペスト』以外のシェイクスピア作品も少しは関係してるのかな…とも思ってしまう。
    それだったらイヤだなぁ、悲劇になったらどうしよう。あの子たちが大人たちの支配する世界をぶっ壊してくれるのかなぁ。とにかく新年明けて早々の最終回を見るしかないね。
    あとはグエル頑張れ~
    なんか今いちばん試練の人かもしんない……

    • マリモさん
      地球っこさん
      ぜひぜひ〜。読む方では脱落しそうだったんですけど、オーディブルならついていけそうです。
      あぁー、なるほど、昔は女性役を少年...
      地球っこさん
      ぜひぜひ〜。読む方では脱落しそうだったんですけど、オーディブルならついていけそうです。
      あぁー、なるほど、昔は女性役を少年が演じていたのですね。
      神谷さんのジュリエットは、恋する女子で艶があり…キュンです。神谷さん、かなり有名な声優さんなのですね。Wikiで出演作品見ていたら、一番わかったのが、クレヨンしんちゃんのぶりぶりざえもん役でした。。ぶりぶりざえもん、無駄に(←)いい声してるな〜といつも思ってました。笑
      役の幅が広くてすごいですね。他の役も気になります。

      「後宮の烏」の「梟」は、出番はそんなに多くないのですが、最終巻まで出てきましたよ〜(^o^)/ 倒されてまだ出てくるとは?という感じですが、そのあたりの秘密はお楽しみに♪
      2022/12/28
    • 地球っこさん
      マリモさん

      ぶりぶりざえもんなんだー!
      あはは、無駄にいい声には笑っちゃいました。今度聴く機会があったら耳をすませてみまーす
      うーん、私は...
      マリモさん

      ぶりぶりざえもんなんだー!
      あはは、無駄にいい声には笑っちゃいました。今度聴く機会があったら耳をすませてみまーす
      うーん、私はガンダム00とか夏目友人帳とか進撃の巨人とか?

      「梟」そうなんですね。あの賛否両論の最終巻ですね 笑
      楽しみにしておきます。
      情報ありがとうございました♪
      2022/12/28
    • アテナイエさん
      地球っこさん

      いろいろ楽しい話をありがとうございます。

      >「人間とはなんと優れた作品か」と『ハムレット』でも言っており、シェイク...
      地球っこさん

      いろいろ楽しい話をありがとうございます。

      >「人間とはなんと優れた作品か」と『ハムレット』でも言っており、シェイクスピアの人間中心主義(ヒューマニズム)の考え方がうかがえる、と解説されてました。

      人間中心主義(ヒューマニズム)! まさにルネサンス(人間復興)の最盛期ですものね! シェイクスピアもそのただ中にあるので好きです。もう何年も前からルネサンスの大きな流れの追っかけをしていま~す。でもまったく追いつきませ~ん(笑)。

      おお~『とわずがたり』、このラブロマンスも大人の楽しさです。
      来年も楽しみですね。また宜しくお願いします(^^

      2022/12/29
  • シェイクスピアは戯曲なのがハードルになって、詩と子供向け翻案しか接したことがない。映像を思い浮かべながら読む癖があるので、台詞だけから場面を再生するのが難しいのだ。今回もプロスペロー、ミランダ、ファーディナンドの場は良いが、王様一行のシーンは読み進めるのに難儀した。

    キャリバンはゴクリみたいでかわいそう。昔の人は簡単に見た目と精神に因果関係があると考えるから辟易してしまう、しかし読んでいるうちに、この劇はカラフルで華やかで、面倒くさいことを考えずに楽しむものらしいと気が付いた。劇なり映画なりで観たい。

  • アーサーラッカムの挿絵

  • ◆きっかけ
    題名のない音楽会でピアニストの小菅優さんがテンペストを披露してより、その解説で、ベートーベンが誰かさんにこの作品を理解するにはシェイクスピアのテンペストを読めと言った という字幕が流れたので読んでみようと思った。小菅さんの演奏を初めて聴いたけれど、すごく好き。2016/11/14

  • テンペストを初めて読む。シェークスピア=悲劇と思っていたが、これはどちらかといえばハッピーな話かな。幻想的なカラーのイラスト付きでとても満足。

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

英国の挿絵本黄金期を牽引し、後世にも多大な影響を与えた画家。代表作に「ケンジントン・ガーデンのピーター・パン」「不思議の国のアリス」「真夏の夜の夢」「グリム童話集」など。

「2020年 『シンデレラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アーサー・ラッカムの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×