不透明な未来についての30章

著者 :
  • 創出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904795477

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  • この本の半分以上は、2014年から2017年5月号までの『創』に綴られた、激動の3年間を、彼女らしく、底辺からルポルタージュした文章群である。川崎の簡易宿泊所火災で焼け死んだ多くの生活保護受給者たち、キャバクラ嬢と貧困、利根川一家心中事件、自殺する若者たち、ギャンブル依存症の問題、等々。貧困と労働、そして、それらに対して、ついに立ち上がり始めた若者たちの「生の声」声声。


    私は、雨宮処凛は極めて優秀なジャーナリストだと思っている。それは、そもそも彼女自身が運動家であり、運動の真っ只中にいるから拾えることのできる多くの「声」を聞いているからである。


    エキタスなどが街宣やデモで「最低賃金1500円」と掲げていると、それを見た通行人がため息まじりに「わー、時給1500円なんてすごく嬉しい‥‥」とつぶやく場面に何度か出くわしたことがある。その度に、一見「貧困」などと縁遠く見えるオシャレな若者も、低い時給で厳しい生活を強いられているのだ、と改めて思う。(224p)


    デモにも参加しないで、一見客観的に見える記事を書いている新聞記者たちや自称ジャーナリストたちには到底書けない記事である。この辺りが、雨宮処凛の真骨頂なのではないか。


    この本の半分近く占めている文章群で、もうひとつびっくりしたのは、第一部「会いたかった人」で綴られた、(「黒子のバスケ事件の渡邊博史さんへ」という手紙のような文章に代表される)メンヘルを患っていた過去を持つ彼女しか書けない、彼女の出発点を想起させる文章の数々である。リストカットを繰り返し、あらゆる「危険な場所」に自ら飛び込み、ほとんど奇跡的に2007年の「生きさせろ」から、見事に「運動家」として自立するに至った彼女のことを改めて思い返した。


    彼女だからこそ、発することの出来る言葉がある。彼女だからこそ、発する言葉の限界も意味もわかる。


    彼女に、現代の市民運動の総括と展望を語らせるのは無理だ。彼女は「理論家」ではない。そのことは、彼女も重々と知っていて、役割を考えて文章を綴っていると思う。しかし、彼女は、底辺の運動の中で勝ち得た「確信」を、運動中枢の多くの庶民にもわかる言葉で、伝えることの出来る能力がある。


    よって、このような本は、今を生きづらいと感じている全ての人々が、読んで欲しいとつくづく思うのである。
    2017年11月20日読了

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著者プロフィール

1975 年北海道生まれ。作家・活動家。「反貧困ネットワーク」世話人。フリーターなどを経て2000 年、『生き地獄天国』( 太田出版/ちくま文庫) でデビュー。主な著書に『生きさせろ! 難民化する若者たち』( 太田出版/ちくま文庫)、『相模原事件・裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』( 太田出版)、『コロナ禍、貧困の記録 2020 年、この国の底が抜けた』( かもがわ出版) など多数。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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