世界は五反田から始まった (ゲンロン叢書)

著者 :
  • 株式会社ゲンロン
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感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907188450

作品紹介・あらすじ

いつかここが焼け野原になったら、何が何でも戻ってきて、杭を打とう――30年前に手渡された、祖父が残した手記。便箋に綴られていたのは、家族の来歴と、地元五反田を襲った「もうひとつの東京大空襲」の記録だった。戦時下を必死で生きた祖父の目を通して、タワーマンションの光景が町工場の記憶と重なり合う。大宅壮一ノンフィクション賞作家が描いた、東京の片隅から見た等身大の戦争と戦後。

感想・レビュー・書評

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  • とても引き込まれた。五反田とその周辺を大五反田圏と名付け、その地で工場を興した祖父の手記をもとに家族の歴史と日本の歩んだ道を、現在の星野さんの目で振り返る。歴史とはささやかな記録や記憶の積み重ねという事に改めて気づいた。

  • 「もうひとつの東京大空襲」を描く、星野博美 著 『世界は五反田から始まった』  2022年7月20日 刊行|株式会社ゲンロンのプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000034496.html

    世界は五反田から始まった 星野博美著: 日本経済新聞[有料会員限定]
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD161IV0W2A810C2000000/

    「世界は五反田から始まった」書評 町工場の来歴から大きな歴史へ|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14698767

    ◆人と出来事が結ぶ地域史[評]荻原魚雷(ライター)
    <書評>『世界は五反田から始まった』星野博美 著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/197048?rct=book

    世界は五反田から始まった(01)「Since 1916」|星野博美 - webゲンロン
    https://www.genron-alpha.com/gb033_02/

    ゲンロンショップ / 世界は五反田から始まった
    https://genron.co.jp/shop/products/detail/619

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「世界は五反田から始まった」星野博美著|日刊ゲンダイDIGITAL
      https://www.nikkan-gendai.com/articl...
      「世界は五反田から始まった」星野博美著|日刊ゲンダイDIGITAL
      https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/314316

      『世界は五反田から始まった』足元から歴史が広がる - HONZ
      https://honz.jp/articles/-/52196
      2022/11/15
  • とてもインパクトのある、しかし、ややふざけた感じの「世界は五反田から始まった」という題名。中身は星野家の家族三代と、彼らが住んだ五反田という土地についての物語だった。
    外房から上京し、五反田近辺に工場を持った星野博美の祖父は、亡くなる前に手記を残した。星野博美は、それをベースに、更に調査を加え、五反田に住みついた星野家の物語を書いている。クライマックスは、終戦の年の、五反田周辺も巻き込まれた、米軍による東京・城南地区への空襲であるが、五反田近辺の大正、あるいは、戦前からの歴史も交えて、面白い物語となっている。たしかに、星野博美にとって、世界は五反田から始まっているのだ。

    私の祖父も自伝を残してくれている。自費出版であるが、製本された立派なものである。私の母親の父親なので、世代的には私よりも二代前ということになる。星野博美の本書を読んでいても思ったのだが、二代前の人物である祖父の生活・暮らしぶりは、二代後の私の生活・暮らしぶりと全く違う。その間の時代の変化はすさまじいものがあったということだ。大分県国東半島で生まれた祖父が長崎県五島列島で生まれた祖母と知り合い、私の母親が博多で生まれた。母親は大分県出身の父親と知り合い、京都で私が生まれた。私の亡くなった妻との間の子供達は埼玉と川崎で生まれ、私の二度目の結婚相手の妻はタイ人であり、子供はバンコクと神奈川県で生まれている。
    本書を読んで、自分自身の家系についても思いをはせたが、家族三代の物語というのは、ダイナミックなものであり、また、巡り合わせのものでもある、と改めて思った。

  • まさに星野博美さんのファミリーヒストリー。祖父の手記が出てきてそれに沿って、自分のルーツを探る。昭和二年(1927年)に創業した星野製作所も2021年に完全廃業、その舞台となったのが五反田、戸越銀座の町工場をはじめ、星野家の生活はこの大五反田圏内で営まれた。

    私のルーツは梅田新道ですが父は大垣の出身。丁度家系図が遡って出来上がったところですが。親父が明治43年(1910年)生、その父が錠太朗で明治9年(1876年)生、そのまた母が嘉永4年(1851年)、そのまた父は清四郎だが生年月日解からず、過去帳も戸籍謄本(保管期間80年~100年)もここまでしかわからず、養子縁組も多く、複雑に入り組みながら面々と連なっています。

    今、母方の家系図づくりを手掛けようとしていますが、早くしないと周りの人の記憶がどんどん失われていきます。

  • 読み進むにつれ、どんどんひきこまれていった。自分の生まれ育った土地から、両親祖父母の人生の軌跡から、世界を再認識する。こんなことができるんだと目を見張る思いだった。自分のいる場所を歴史と地理の中に位置づけることを、「教養を身につける」と呼ぶならば、これはまさにその生き生きとした実践。説教臭さのない語り口で、読みやすいのも良い。

    歴史の流れを俯瞰すると、ともすれば、大きな動きのなかで個人は翻弄されるばかりだと思いがちだ。特に第二次世界大戦時の日本の状況については、知るほどに絶望的な気持ちになる。しかし、著者は悲観と諦念に逃げ込まず、よく見ることでその経験から汲み取るべきものがあると考える。そのたくましい視点が本書を貫いている。たとえば、以下のようなくだり。

    「夥しい数の人々のあまりに悲惨な死にうちひしがれて『起こしてはならない』で止まってしまうと、『もしまた起きたら』に一向につながらない。」
    「この、失敗と呼ぶにはあまりに手痛い戦争の経験から何かを学ぶとすれば、私は生き延びる方法を知りたい。」
    「壮大な物語に呑みこまれず、立ち止まる力。浅はかな有力者や権力者と距離を置き、孤立しながらも生き延びる方法。重大な局面に立たされた時の、判断力。頼る人も組織もない場所にたった一人取り残された時、しなければならない交渉術。気高さとも感動とも程遠い、ずる賢さ。」

    ああ、そうなのだ。「物語に呑みこまれない」という言葉を肝に銘じたいと思った。




    蛇足
    ・最初の方で挫折しかかった。また東京人がよくする「住んでるところはどこか」関連話か、と思って。東京の人の感覚を既定の事実のように語られると、すごく白ける。まあ、地方にも似たようなことはあるので、僻んでるだけですけど。
    ・気になったのは、何回か出てくる「奇しくも」という言い方。特に「奇しく」はないのもあったよ。

  • 祖父の手記から、作者の生家のある五反田周辺でおきた歴史の物語を著した、歴史土地ノンフィクション。

    さすが、星野さんである。
    教科書のように味気なくなりがちな郷土史を、家族の歴史や自分の話とが絡み合いながら、楽しく、悲しく紹介していく。
    かつては軍需工場が多くあった五反田付近の、戦争にまつわる話は、自分もよく知る場所だけに、リアルに感じられた。それも星野さんの技術なのだろう。

  • 筆者の生まれ育った五反田の町工場の歴史から、庶民にとっての戦争を見つめ直す1冊。平和教育だけでなく「どう生き延びたのか」を語り継ぐ事の大切さが心に響く。満州開拓団に関する記述が哀しすぎた。

  • 家族で過ごした街、時代が自分と重なる部分が多く、タイトルに惹かれて読み出しました。

    一二章は痛快、楽しく読み始めましたが、中間部分で小林多喜二、宮本百合子著作の解説部分が比重を占め、読み始め当初の期待と距離が出来てしまいました。しっかり見つめなくてはならない時代ですね、今でも当時のままと思えるニュースが飛び交います。大事ですが、、気分が暗くなってしまいました。
    とはいえ家族の歴史と地域、日本の現代史を熱く書き進められた著者のエネルギーは素晴らしいと感じました。

  • 「んなこたぁない」から始まり、「いや、あるかもしれない」、そして最後は「そうに違いない」、読書中の私に思考をそのまま文字にするとこうなる。

    「世界は五反田から始まった」、いやに挑発的なタイトルと言っていい。私は現職のオフィスが五反田であり、JR山手線を通勤で利用しているが、駅の階段に本書の広告が大きく掲示されていて、見るたびに「んなこたぁない」と思っていたのだが、読後の今はこう思っている。「世界は確かに五反田から始まった」と。

    本書は五反田で町工場を営む家系に生まれ育った著者が、亡くなった祖父が残した日記を元に、ファミリーヒストリーを語るという構成になっている。しかしながら、本書が作品として素晴らしいのは、そのファミリーヒストリーがさながら日本の太平洋戦争をどう一つの家庭が生き抜いたか、という類い稀な戦争史になっているからである。

    そういう点で、本書は著者の一人称で描かれてはいるのもの、実質的な主人公は千葉から一人この地に移り住んで工場を創業して家族を作った祖父と言える。祖父が創業した町工場の事業が少しずつ拡大し、戦争中には軍需品の部品づくりをしながら妻や子供たちを埼玉に疎開させ、終戦末期の大空襲で全てが焼け落ちる・・・、その歴史を現代の五反田の姿と対比させながら、物語っていく。

    一見、極めて個人的な話のように見えて、そこには確実に一種の普遍性につながるリンクがある。そのリンクをこうまでにクリアに作品の中に表現するこの手腕に強く感動し、本書のタイトルに強く賛同するのであった。

  • 渋谷に育った私(産まれて数年は父の故郷九州に居たので若干ロンダリング)にとって、大五反田は近いけれどほとんど縁がなかった地域。それが高校生の頃、実家が引越して通学や通勤の乗換駅である中延や五反田が生活圏の一部になったから本書に出てくる路線や地名の雰囲気はよくわかる。関東大震災の前年に麹町で(文字通り乳母日傘で)生まれ育った母が「語り部」気質だったのか、戦前と戦後では価値観をガラリと変えなければならなかったこと。人間、死ぬ気になったらなんでもできること。ふつうの人は戦争したら損するだけ。だから戦争だけはしちゃいけないと何度も何度も繰り返し聞かされた。著者とはほぼ同世代だが高度成長期の子どもだった私にとって戦争の話は昔話しに思えて、話半分で聞き流していたことを今になって悔やんでいる。

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著者プロフィール

1966年、戸越銀座生まれ。ノンフィクション作家、写真家。著書に『転がる香港に苔は生えない』(2000年、第32回大宅壮一ノンフィクション賞)、『コンニャク屋漂流記』(2011年、第2回いける本大賞、第63回読売文学賞随筆・紀行賞)、『戸越銀座でつかまえて』(2013年)、『みんな彗星を見ていた』(2015年)、『今日はヒョウ柄を着る日』(2017年)、『旅ごころはリュートに乗って』(2020年)など多数。

「2022年 『世界は五反田から始まった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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