ラングザマー: 世界文学でたどる旅 (境界の文学)

  • 共和国
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907986216

作品紹介・あらすじ

多和田葉子さん推薦!

国際的な作家であり翻訳家、そして世界文学のしたたかな読み手である著者が、本を読むことによって「ラングザマー(もっとゆっくり)」とした時間の回復を試みる、極上の世界文学ガイド/読書論。本書が著者の単行本としては本邦初訳。
いま、わたしたちを取り巻くこの世界から脱出し、本のなかを流れる時間に身を委ねて、まだ見ぬもうひとつの日常、もうひとつの風景へ——。

感想・レビュー・書評

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  • 『ラングザマー 世界文学でたどる旅』イルマ・ラクーザ|ゆっくりすることへの愛 - ボヘミアの海岸線
    https://owlman.hateblo.jp/entry/2020/08/19/110427

    所員出版紹介-東京外国語大学 総合文化研究所
    http://www.tufs.ac.jp/common/fs/ics/books/books2016.html

    Ilma Rakusa
    http://www.ilmarakusa.info/

    ラングザマー イルマ・ラクーザ(著) - 共和国 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907986216

  • 英語で「more slowly」と題されるより、ずっと雰囲気のある言葉。一日で読了した人間が言うのもなんだが、本当は一章ずつ時間をかけて読むほうが向いている本。鉄道や自動車など、近代社会の恩恵は十分に受けているし、移り変わりに順応するほうが生きやすい。けれども、ゆったり趣味に没頭する時間やぼんやり思索に耽る時間を持つ権利は、社会のスピードやめまぐるしさに侵害させてはいけないのだろう。そう思えた。

  • 原題 Literaturverlag Droschl, Graz-Wien
    by Iluma RAKUSA
    スイス人、創作言語ドイツ語、母語ハンガリー語(母がハンガリー人)、父はスロヴェニア人
    ロシア語、セルビア・クロアチア語、ハンガリー語、フランス語の翻訳者でもある

    世界文学でたどる旅
    なのだが、出てくる文学に馴染みのないものも多く〜涙

    「歴史の歩みがさらにせわしくなる時代には、もっと多くの人々が息を切らすようになる、これは単純なことではないか」ゲオルク・ビュヒナー『ダントンの死』

    「われわれはゆっくりすることがあまりにも少ない、そうはっきりと感じている」ロベルト・ヴァルザー

    まさにこのテンポの加速こそが、われわれの「時間の豊かさ」を貧しくし、失業を生み出してきたのではないか。われわれはどれほどの速度を自分で処理できるというのか。P013


    意識や五感とともに生きること、生活の質「真にそこに在ること」のために速度を落とすということ(スロームーブメント)
    環境に配慮する視点も含まれる
    とくに重要なのは(一人ひとりの)日常生活であるp014

    ゆっくりとした人間を否定するものは、そもそも人間をあきらめていることになる。つまり、原題の世界では、われわれは速さ(未来=どこへ向かって行くか)とゆっくりしていること(期限=どこから来たか)の両方をいきなければならないのだ。P015

    ラングザマーとはドイツ語の形容詞ゆっくりの比較級
    もっとゆっくりと、という意味

    読書(愛)Lekture Liebe
    p036
    本を読むということは、生命に必要なもの、愉しみにみちた習慣、遊び心をもちながらおこなう軌道修正

    仕事(優雅)Arbeit Anmut

    自然(何もしないこと)Natur Nichtstun

    速さ(限界)Geschwindigkeit Grenze

    文字(眠り)Schrift Schlaf

    タイムアウト(老い)Auszeit Alter

    ゆとりの時間(メルヒェン)Mube Marchen

    p123
    よりよく生きる術でとりわけ重要なのは、自分自身の尺度とテンポで生きること、(目にしたもの体験したものという)直接的経験に対して心を閉さないこと、自分自身が見てとったものに信頼を置くことである

    p124悠然としていれば、ものごとに介入するのではなく、以前のように物事をあるがままにしておくことができる〜それは生活のテンポを緩め、時間のプレッシーを減少させることで生まれる自由である。この自由は、ものごとをふたたび落ち着いて考えることを主体に許す。〜シュミットはさらに、環境を意識した「すぐれた生き方」ちとって最も重要な点は、技術的世界に素朴に対抗していればよいということではなく、むしろ「この新しい悠然とした態度は、技術そのものもつきあっていく経験から育つ」と強調している。それは「生きることの新しい技術」である

    体験(スローライフ)Erlebnis  Entshleunigung

    旅(憩い)Reise Ruhe

    「リルケ--オルフォイスへのソネット」から第22ソネット

    私たちは追い立てるもの。
    しかし、時の歩み、
    これを些細なことと受け止めよ
    つねにとどもあり続けるもののうちでは

    急ぎゆくものはすべて
    すでに過ぎ去っているものとなろう。
    しばしとどまるものが
    私たちにはじめて秘密を打ち明けてくれるのだから。

    子どもたちよ、ああ勇気を
    速さのうちへと駆り立ててはならない
    飛ぶ試みのうちへと駆り立ててはならない

    あらゆるものが安らいでいる。
    闇も明るさも、
    花も書物も


    多和田葉子
    ラクーザのいう「ゆっくりさ」とは仕事のスピードを落とすとか、休暇をとるということではない、読書を通して別の時間の流れ方を知るということ
    過去に書かれた言葉を注意深く読むことで、自分の時間の流れをつくることができる。ゆっくりとした時間、ゆっくりとしているけれども過去へ未来へと難ぜんねんも跳躍できる力強い「遅さ」である。文字を読むことによってそういう時間が得られるのだ、という当たり前のようで難しいことを、この本はしっかり伝えてくれる。
    ラクーザが初めて日本を訪れたときのこと。旅の前半一人名古屋で何もしない日々を送った。毎日散歩に出て、お地蔵さんやお稲荷さんに挨拶し、毎日違った洗濯物の干されているのを眺め、わたしたちがもう見つめることをわすれてしまっている何千という事物を繰り返し見つめた。そうする中で、事物と言葉はゆっくりと歩み寄り、出合い、市が生まれた。せかされない時間の流れの中にしか文学が存在しないのと同時に、文学なしには、ゆっくりと流れる豊かな時間を味わうのは難しいのではないかと思う。

  • 著者はスロヴェニア生まれのスイス国籍で、ドイツ語で創作するが母語はハンガリー語、フランス/ロシア文学者でもある作家。9篇のエッセイの中で、著者はまるで散歩でもするような自在さをもって、ブロツキーやプルースト、ハントケのテクストや、彼女自身の記憶の風景を自在にたどる。そして、急速に加速を続ける現代においても、人は読書によって自分の内的時間を豊かにし充足した生を生きることができる、と繰り返し説く。

    効率とスピードが重視される社会では、「老い」は負の現象として、また避けるべきものとして扱われる。著者はそれに対して次のように応じている。
    “自然な衰退が正当なものとなってゆく時間。眠気と不完全さ。年老いた身体のなかで美しい魂のことに心をくだく時間。その魂の経験と一回性。遺伝子技術がより優れた長い命を約束するとしても、根本的な責任は依然として一人ひとりのうちにある。この唯一の生をただ一つの仕方で作り上げてゆくという責任は。ドゥー・イット・ユア・ウェイ。”(p.109-110「六、タイムアウト(老い)」)

    能動的に立ち止まること、本を読むとき自分の中に起こる変化に耳を傾けること、などを心に書き留めた。タイトルはドイツ語langsam(ゆっくり)の比較級形。(2012)

  • 文学

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著者プロフィール

1946年、スロヴェニアに生まれ、現在はチューリヒに暮らす。小説家、アンソロジスト、研究者として、またロシア語からマリーナ・ツヴェターエヴァ、フランス語からマルグリット・デュラスなどの翻訳家としても国際的に活躍している。
ペトラルカ翻訳賞(1991)、ライプツィヒ・ヨーロッパ相互理解賞(1998)、シャミッソー賞など多数の文学賞を受賞。単著としては本書が本邦初訳となる。ほかの邦訳に、『ヨーロッパは書く』(ウルズラ・ケラーとの共編著、2008)、短篇小説「歩く」(『氷河の滴——現代スイス女性作家作品集』所収、2007、以上鳥影社)がある。

「2016年 『ラングザマー 世界文学でたどる旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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