高橋是清随想録

  • 本の森
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784938965150

作品紹介・あらすじ

金融恐慌から日本を救った男。その思想と生きざまは。

感想・レビュー・書評

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  • 【概略】
     「高橋是清自伝」(上・下)の続編にあたる自伝。前者が当時の秘書官である上塚司氏による聞き書きによるものであるのに対し、本書は上塚司氏のみならず他の方達からの記録や講演記録なども収録されている。経済人として、政治家として、波乱の時代を類まれなる才覚と誠実さで生き抜いた高橋是清の人となりや経済観念に触れることができる。

    2023年12月22日 読了
    【書評】
     読み進めている間の感想は「自己啓発本としても素晴らしい」だったなぁ。自身による発言が綴られていることから、どうしても自身を綺麗に描写してしまうという点はあるかと思う。それは別に本書に限った話ではないから、読み手の側で対応する必要がある。そういった点を考慮したとしても、何かに迷った時に読み返したいと思わせてしまう感覚に襲われたよ。
     高橋是清さんは、最初から高橋是清であった訳じゃなく、10代前半でのアメリカでの労働経験や若くして英語学校の校長職・・・からの芸者との色恋沙汰、ペルー銀山への投資失敗、そしてその賠償といった様々な国内外での経験を経て先物取引とはなんたるか?銀行での勤務での金融経験、そして知的所有権といった概念を学び高橋是清さんになっていくのよね。
     そんな中でも常に謙遜を美徳する感覚であったり、(期日や時間といった約束をしっかり守るという)誠実さが下地となっていることで、山と谷の落差が非常に大きくても、才能だけでなく人物としての魅力で、人が離れなかったのだよね。本書内の「神様(仏様)」に対する概念が、高橋是清さんの謙遜さに出てる。高橋是清さんは神様を信じて、でもそれは宗教といった要素よりも、人間は自分より上のものがないと自惚れてしまうという考えからなのだよね。
     (当時、いや今もかな?理想とされていた)社会主義という概念についての外字新聞(欧米の新聞)からの記事引用なども、非常に興味深かったよ。「物事の理想」というものに対する捉え方・考え方についての話なのだけど、社会主義・(当時はきっとこちらも)共産主義といった政治制度の「理想」を掲げ、それについてどれだけドラスティックに推し進めるか?という議論って、現在でもあるよね?リベラルの方達が話題にする理想論とでもいうのかな?それに対しての外字新聞からの引用なども、肚落ちが凄いの。政治家という職責上、理想を掲げつつもしっかりと現実の問題を打破していかなくてはならないというバランスが見てとれたよ。
     「お金を遣う」という部分においての、一個人の支出概念と国家(または企業)という支出概念の違いなどにも触れているし、また日本と欧米の「お金持ち」の気概と責任についての話題なども面白すぎて面白すぎて。
     当時、銀行が取付騒ぎ(銀行が破綻する・するかも?といった騒ぎ)で右往左往している時、期間限定で大蔵大臣になった高橋是清さんは、ありったけの量の現金を各銀行のフロアに積み上げて、「銀行にはしっかりとお金がある。潰れることはない」という姿勢を貫かせ、その騒動を収めたなんてエピソードもある。ハッタリをし、そのハッタリを本物とする胆力も備えているというね。
     最近、一部の人達の間で話題になっている「ベーシックインカム」と「国債をもっと発行すべき(もっとお金を市場に出すべき・「国の借金」という考え方はおかしい)」なんてことにも高橋是清さんは触れてて面白い。現代の方達はこのベーシックインカムと国債発行は双方とも是とされている節があるけれど、高橋是清さんは労働の重要性を説いているのだよね。反面、(状況によるが)国債を発行することについては積極的でもあった(もちろん、その後しっかり緊縮財政してたけど。お金は効果的に遣え、でも無駄遣いはするなというスタンス)。当時と現代の価値観は違えど、歴史を辿ると(使われる技術の革新度は異なっても)基本的に同じことを繰り返しているのが人類だから、ただお金を渡すという行為の麻薬性を、高橋是清さんは感じているのかもね。
     人生経験の積み方によって感じる答えが変わってきそうなこの本は、5年とか10年といった単位で読み直すと、よいかもしれないね。

  • JCBがこの本の一節を引用して、新聞に1面広告を出していたのを見て、興味が湧き、読んでみました。

    ……ものすごく面白いです。やはり、一廉の人物だったのでしょう。
    随分古い時代の話ですが、今でも通用するような内容が随所にあり、非常に読み応えがあります。

    しかしやはり、JCBの広告は、高橋是清の語った文脈とは、違った文章の使い方をしてましたよ。(笑)
    広告の文は、個人経済と、国の経済を説明するのに使った例えを引いており、だから、お買い物をしましょう。というような結論に繋げてましたが。いや、カード会社の広告ですから、そう書くのは、そうですが。(笑)
    しかし本には、これに続けて、このような件があります。(193頁)
    『以上はもとより、極端な例を挙げたに過ぎない。かく言えばとて、わたしが待合ゆきを奨励する次第では決してない』
    『いうまでもなく、いかなる人の生活にも、無駄という事は、最も悪いことである。これは、個人経済から言えば、物を粗末にるする事である。』
    とのことです。
    もっとも、成金が遊興に使うお金がまるで無駄になるという考え、これも極端である。とも語ってはいますね。更に、こういうことをうっかりいうと誤解されるので、活字にする時には気をつけてくれなくては困る。とも書いてすが。(笑)

    面白いです。地に足のついたリアリストであった様子が窺えます。

  • 是清は何でこんなに数奇な運命を…。
    是清の語る自分の人生談です。まず、子供を見つめている写真が可愛すぎる。
    のっけから原遭難から語り始めて少々驚きましたが…。
    第二次護憲運動の史料としても活躍。

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著者プロフィール

嘉永七(一八五四)年、幕府御用絵師の子として江戸に生まれ、仙台藩足軽高橋家の養子となる。藩の留学生として渡米して苦学。文部省、農商務省を経て、日本銀行に入り、横浜正金銀行を経て、日銀副総裁に就任。日露戦争外債募集に成功した。日銀総裁に昇任後、山本権兵衛内閣の蔵相となり立憲政友会に入党した。大正一〇(一九二一)年、首相・政友会総裁に就任。都合七度蔵相を務める。金融恐慌ではモラトリアムを実施、恐慌を沈静させた。また世界大恐慌では、金輸出再禁止、国債の大量発行など積極財政による景気刺激策を推進した。昭和一一(一九三六)年の二・二六事件で暗殺された。

「2018年 『随想録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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