対岸の彼女 (文春文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 何歳になっても人間関係に悩む主人公たちに共感できた。彼女たちを見ていて、結局人と繋がることなんて無理なんだなと悲観的ではなく前向きに思えた。

    でもなんだかすっごく印象に残る話ではなくて、星は3つ。

  • 三十代半ばの田村小夜子は、かつて会社の人間関係に嫌気がさして結婚を機に会社を退職し主婦業に専念するも、今度は育児にともなう人付き合いに疲れていた。夫と義母の不興を買いながらも再就職を希望した彼女がありついた勤め先は、旅行業に関連する便利屋業を営みながらも家事代行業に移行する途上にある、アットホームな雰囲気をもつ小企業プラチナ・プラネットだった。そして会社を経営するのは、小夜子と同世代で独身生活を送る開放的な性格の楢橋葵である。

    物語は、プラチナ・プラネットでの労働と同僚たちの様子を中心に、家庭での夫との不和と娘あかりの育児、疎ましい存在である義母との関係などが綴られる現在の小夜子の日々と、社長である葵の高校生時代の親友ナナコとの過去のエピソードで構成されており、この二つのパートが交互して展開する。

    小夜子のパートでは、葵との親交の深まりや仕事へのやりがいを感じる姿といった、展開によっては"お仕事小説"にもなりえるポジティブな一面を見せながらも、初めは和気あいあいとして見えたプラチナ・プラネットの社員たちの本質と組織の歪みが徐々に見え、家庭では夫や義母との関係の悪化、ママ友への違和感など、働き家庭を持つ女性にとって今日的な問題が数多く現れる。高校時代の葵のパートでは、中学校で虐められて引っ越した経緯もあって高校の同級生たちに心を許せない葵が、やはり学生生活で当然のように起こるいじめ問題と表面的でしかないグループ間の付き合いやスクールカーストへの忌避観から級友たちに心を閉ざすなか、イノセントな魅力をもつ親友ナナコに強く惹かれていく過程が描かれている。

    いずれのパートも、非常にありふれていながらも厄介でリアルな、誰もが経験する人間関係の暗部を露呈させる出来事と、それに対して二人の抱く嫌悪が繰り返し描写されており、作中にある「なんのために私たちは歳を重ねるんだろう」という小夜子の言葉は、この作品において象徴的な問いである。

    本作でもっとも印象的だったのは小夜子のパートに登場する楢橋葵のキャラクターだった。高校時代と現在の葵には明らかなギャップがあり、その飛躍と現在の葵がときおり見せる内面の欠落が浮き彫りにする"空洞"に怖さを感じた。彼女の抱える大きな空虚さは、作品内で未消化のまま終幕を迎えたように感じる。読後、小夜子と葵のその後を思う。

  • 途中で、大人の葵は、ナナコが葵になりすましてるのか?そういうオチなんだろうかと思った。でも違った。ナナコが駅で泣き始めた時の空洞感がすごかった。見てはいけない、闇を見てしまったような、そこに自分も吸い込まれていってしまいそうな。
    章ごとに時代が変わるのは一区切りがつけやすくて読みやすかった。
    帯を見たときはもう少しドラマチックな、何か感動的な
    何かが巻き起こるのかと思ったけどそういう感じではなかった。でも一度離れてしまった人に対して、もう一度自分から扉を叩いて訪ねるということは現実にはかなり勇気とエネルギーがいることだと感じる。この年代になった今、静かに前に進む、それだけでもすごいことなのかもしれない。

  • 仕事、結婚、出産、子育てなど人生経験を経て学生時代の親友、友達とだんだんと違う世界に離れていってしまう気がするとき、この本を読むといいと思う。葵とナナコの関係、葵と小夜子の関係、その他の登場人物達に対して、そうそう、そうなんだよ、そんなことあった、そんな人いる、わかると沢山共感してしまった。
    これからも読み返したいと思う。
    「なんのために歳を取るのか、扉を閉ざすのではなく新しく出会うためだ」との言葉は希望になる。

  • 魚子、葵、小夜子の三人の女性が登場する。優しい人はそれ以上の悲しみを知っているという誰かの言葉を思い出した。嫉妬や苛めや蹴落としあいの中で育む心通う友人との友情が切なくて胸がキリキリした。

  • 書店での帯は、「結婚する女としない女、どうして分かりあえなくなるんだろう」と書いてあったが、この本の主題はそこではないと感じた。
    当然、結婚をしている・していないで価値観や考え方は変わるが、ここでは2人の女が、これまでの過去と現在を交錯させながら、少しずつ歩み寄る(というよりは出会う中で折り合いをつけながら生きていく)という姿に映った。
    他人と交わりながら生きていく、って意外とこんな感じなのかも、と文章にして突き付けられたような感覚になった。

  • 何か大きな事件が起きるでもなく、女性二人の距離感や心情が丁寧に描かれている。共感するところもあれば、できないところもあり…。人によってわかれる作品だと思う。私は共感できるところが多く、自分の女子高生時代や女友達との関係に想いを馳せながら読めたので、面白かった。暗い話ではないのに、ずっと暗闇を漂っているような、どこか息苦しい雰囲気がお話全体に漂う。葵や小夜子の心情と生きている世界をよく描けていると感じた。文は少し読みづらくて一文が長すぎる、と感じるところもあった。

  • 立場の違う2人だけど、気が合うから一緒にいるとなんでもできそうな気がしてくる。
    でも一緒にいればいるほどお互いに立場の違いを感じるようになる。理解し難いことだってでてくる。
    仲良いからといって全て友達のペースに合わせられるわけではない。

    頭ではわかっていても、置かれる環境の違いを認めて付き合うって大人になっても結構難しいことだと思う。だから一丸となって批判したり、愚痴を言ったりして連帯感を持つって大人になってもある。
    でも違いを感じた時一歩引いて考えて、どう付き合っていくのかが大切なのかなと思った。
    小夜子が勇気を出して自分から一歩前に踏み出したことに、私も勇気をもらった。

    最後にナナコのように誰にも振り回されない人ってすごく強くてかっこいい。彼女は今何をしているのだろうか…と知りたくなった。

  • どこかに遠くに行ってしまいたい気持ち、結局どこにも行けない感覚、なんとなく小夜子が今の自分の状況と似ているようにも感じた。葵の行動に移す力とパワフルさが自分にも欲しいと思った。

  • 0に戻したくなることってあるし、それが一歩にもなる。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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