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感想・レビュー・書評
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2冊目の泉鏡花作品。
妖しい世界観がすでに出来上がっている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「文語体に宿った伯爵夫人の気概 」
東京府下のとある病院で行われようとしている伯爵夫人の外科手術。ところが夫人は麻酔の処置を拒む。麻酔を打つことにより心に秘めた秘密を譫言で口にしてしまうのが恐ろしいのだという。かくして執刀医の高峰は夫人の望むまま彼女の胸にメスを入れるのだが…。
「手術台の上に横たわる、麻酔を拒む伯爵夫人」このモチーフだけでもうやられました。外科室、麻酔、メス…至って理系的な道具だての舞台に、夫人の白衣を染める血汐までも鮮やかに文語体で繰り広げられる究極の愛のかたち。
たまたま見つけた現代語訳版も同時に覗いてみましたが、目の前で起きていることを淡々と並べ立てていく現代語訳版は、あたかも新聞記事を読んでいるかのようで、はっきり言うと、情感が無い。そこからは夫人の美、気品、官能、懊悩、そして覚悟、否、秘密を墓場まで持っていこうという気概は滲み出てきません。同じ出来事を表現しているのにもかかわらずです。つまりそれらが鏡花の操る文語体にこそ宿っているものであることを改めて感じるのです。
果たして、夫人が墓場まで持ってゆく覚悟であった秘密とは?極めるところ「天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし」鏡花の外科室を、あなたも尋ねてみませんか?