外科室 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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  • 2冊目の泉鏡花作品。
    妖しい世界観がすでに出来上がっている。

  • 「文語体に宿った伯爵夫人の気概 」

     東京府下のとある病院で行われようとしている伯爵夫人の外科手術。ところが夫人は麻酔の処置を拒む。麻酔を打つことにより心に秘めた秘密を譫言で口にしてしまうのが恐ろしいのだという。かくして執刀医の高峰は夫人の望むまま彼女の胸にメスを入れるのだが…。

     「手術台の上に横たわる、麻酔を拒む伯爵夫人」このモチーフだけでもうやられました。外科室、麻酔、メス…至って理系的な道具だての舞台に、夫人の白衣を染める血汐までも鮮やかに文語体で繰り広げられる究極の愛のかたち。

     たまたま見つけた現代語訳版も同時に覗いてみましたが、目の前で起きていることを淡々と並べ立てていく現代語訳版は、あたかも新聞記事を読んでいるかのようで、はっきり言うと、情感が無い。そこからは夫人の美、気品、官能、懊悩、そして覚悟、否、秘密を墓場まで持っていこうという気概は滲み出てきません。同じ出来事を表現しているのにもかかわらずです。つまりそれらが鏡花の操る文語体にこそ宿っているものであることを改めて感じるのです。

     果たして、夫人が墓場まで持ってゆく覚悟であった秘密とは?極めるところ「天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし」鏡花の外科室を、あなたも尋ねてみませんか?

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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