天冥の標Ⅱ 救世群 [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 時は現代(21世紀)。"冥王斑" という得たいの知れないウイルスによるパンデミックが発生した。

    冥王斑は、ニューギニア島奥地の未開の部族ニハイを全滅させた後、図らずもニハイを脱出し救助された青年ジョプによって、南太平洋に浮かぶパラオのプーロソッル島に持ち込まれ多数の死者を出した。

    このウイルスは、主に涙の落屑によって飛散し、致死率はなんと95%(後に回復者の血液からIgPワクチンが開発されると、発症者の4割は回復するようになった)。ただ、症状が回復してもウイルスは体内にとどまり続け、感染能が維持される。つまり、冥王斑感染者は回復しても一生隔離し続けなければならない。そして冥王斑の患者は、感染能が顕現する時期から微量の芳香物質=フェロモンを分泌し、健常な異性を惹き付け感染させるという。冥王斑は、新型インフルコロナなど比べものにならないほどの恐ろしい性質を持つウイルスのだ。

    感染症専門医の児玉圭伍、感染源特定を専門とする医師の矢来華奈子、プーロソッル島の高級コテージ滞在中に冥王斑と遭遇したイケメンの若者フェオドール・フィルマン、(ジョプを除く)冥王斑からの初めての回復者 檜沢千茅らは、親族や恋人を失いつつも冥王斑ウイルスと戦い、疲弊し、そして社会の中で翻弄され続ける。

    タイトルにある「救世群」は、コスタリカ共和国の無人島、ココ島に隔離された冥王斑回復者達が立ち上げた自治組織のこと(リーダーはチカヤ)。「IgPワクチンで世界を救う、ありがたい人々」ということらしい。

    「断章二――オビス・ミュシモンからオビス・キュクロプス、そしてクラウドへ――」のところがよくわからなかったな。結局、冥王斑パンデミックは「地球外の何者かが仕掛けた、大げさないたずら」なのか? 感染源とみられる謎の生物クトコトは地球外生物なのか? フェオドール・ダッシュ(フェオドールが自分の秘書ないし話し相手として作った人工知能)と地球外生物の関係は?? 謎だらけのうちに、第2部終了。

    これらの謎は第3部でが解き明かされるのかな? そして、第1部で描かれた遠い星、遠い未来の物語とどう繋がっていくのだろうか?

  • 読んだの2回目だけど面白かった!こんな話だったか。前も読んだはずなのに結構忘れていた。これ単体でもすごく良くできた話だなぁ。

  • 長編シリーズの序盤巻なので不完全燃焼なところもあるけど、単品の話として面白かった。

    内容は、現代日本を主たる舞台として、全世界的なパンデミックに対応する医師と仲間と患者たちの話。
    刊行が2010年なので、おそらく新型インフル(2009年)を下敷きに書かれていると思われるが、2020年からの新型コロナの状況を驚くほど正確に予言している。そのため、今読むとフィクションというより、現実の延長として状況を理解しやすいかもしれない。

    ストーリーは、主人公である医師と日本人最初の患者である少女の関係が一つの背骨になっている。フィクションとしても、現実としてもありがちな話ではあるけど、刺さる人には刺さる。(男目線だけど)

    シリーズ全体の中では、多分最初の話なので、劇中の問題は何も解決せず、次巻以降に持ち越し。正直、話の内容を後々まで憶えていられる自信がない。前巻に登場したキャラと同じ名前のキャラが今作に出ているということにも、他の人の感想を読むまでは気づかなかったので。

  • 心理描写の弱いので展開に沿って人が動いているように見える。
    人形劇のような感じ。
    未知のウイルスとの戦いは最後まで書くことなく放り投げてこの巻では終わらない。
    さらに言えば次の巻では全く別の話を始める始末。
    10巻まであるけどこの続きはどこで読めるのか。
    1巻は更に合わなかったので本巻の結末だけ抑えたい。
    ともかく一つ一つちゃんと終わらせてから進めてほしい。 

  • 小川一水の長大なSF大河ドラマシリーズ、「天冥の標」の第二作。

    第一作のメニー・メニー・シープが地球から遠く離れた植民地星を舞台にしていたのとは異なり、本作では2000年代の地球(ほぼ現代)が舞台になっている。そこで描かれるのは、第一作でも登場した”冥王斑”を出す奇病「Disease P」だ。

    コロナ禍を経た今では、 小説内に記述されている内容や東京の対策当たり前のように感じるが、本作が書かれたのはコロナが発生する遥か前だ。コロナのような感染症が発生する前から将来に起こることを理解してる人間にとっては当たり前だったのかもしれないし、あるいはSF作家の想像力は将来起こる惨劇を正確に予測してたのかもしれない。 いずれにせよ世界的な感染症を経た今となっては、小説内の描写が本当の意味でリアルだったことにただただ驚くだけだ。

    SF大家としてはまだ序盤であるため、物語の展開がどうなるかは全く予想ができない。だが本作で登場したフェオドールが前作にも登場していること、あるいは冥王斑を生み出す病気が遠い未来でも存在していたことを考えると、本作が 大きな流れの中の出発点の1つである可能性は高い。 しばらくは著者の手のひらの上でただただ転がされ続けるしかないわけだ。

  • 『七人のイヴ』を思い出しながら読んでいた。
    『七人のイヴ』は、最終パートである5000年後の未来を見せたいがためにそこに至る物語を書いた、というように読めた。
    本作品のIではおそらく物語の果てに至る未来が描かれている。IIではその発端となるであろう出来事が記されている。IもIIも完結していない内容であるため、現時点ではなんとも言えない。

    Iは正直、おもんなかった。IIまで読んだのは買ってしまっていたからだが、まあまあいける。途中まではかなりいけると感じていたのだが、悲劇への転調が好みではない。
    IIIのタイトルは『アウレーリア一統』。この一族は少年誌的存在すぎてIの時点では好みではなかった。ゆえに、継続して読む動機に今のところ欠ける。

  • シリーズ第2巻は、パンデミック! シリーズ第1巻とは全くつながりがない(別の話)ですが、一気に読んでしまいました。アクセントになっているのが、AI人格「ダッシュ」。今後活躍してくれそうです。

  • 全巻完結したので、大人買いして読みだしたが、まだこの段階では、Ⅰ、Ⅱの繋がりは薄い(まったくないわけではない)。とはいえ各巻毎に内容が濃いので、この先の期待もあり、とても満足。
    コロナ禍の10年程前に未来を予見したかのような内容で、作者のイマジネーションのキレを改めて実感。

  • 第一部はファンタジーSFだったけど第二部はパンデミックもので、なんなのこの先著者の多芸多才さをこれでもかと見せつけられるの?
    第一部は石工の開放がフェミニズム的な「女は怒っていい」という考え方と似ている気がして面白かった。第二部は、病気になると芳香を漂わせてしまうのが女性だけなのが不思議だった。女性の性欲の発見というラディカルフェミニズムの考え方に、女性は本質的に欲望される存在なのではないか?と冷や水を浴びせる議論の暗喩として読めるなと思った。そうであればきっちりと再反論がなされてほしいところ。
    いちいちこうやってフェミニズムを読み込むのもどうかと思うんだけど、まあ一人でそういう読み方をして楽しんでるだけなので、趣味は人それぞれってとこに落ち着くよね。変な趣味だわ。

  • 国立感染症の児玉医師が急にパラオに呼び出されるところから始まるお話。
    序章は正直最初どういう意図があるのかわからなかったが、物語を読むにつれ次第に背景が明らかになり、読んでてなるほどと思うところがありました。
    矢来華奈子、弥彦、フェオドール、千茅、ジョプ、青葉など魅力的なキャラクターが生き生きと描かれていてのめり込むように読めました。また現在のコロナ禍とつながるところもいくつかあり、読んでて共感できるというか、コロナが似たような性質を持っていたら本当にこうったことが起こりそうだな、もしくは似たような事態になっているなと思わせる内容で話に引き込まれました。
    悲劇に近く悲しい事実が多数あるなかで、その中で人はどのようにして対応していくのかというのが考えさせられます。どうしようもない感染症が本当に発生したときに、人類がどのように行動するのか?というのが想定されていておもしろい。
    そこにさらにSF的な要素もあり、一体どういう展開になるのかと次巻以降も気になる展開

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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