日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 賃金が上がらないと消費に回らず景気が上がらない。それも、消費性向の高い、所得水準が低い層(女・小・非・短)の賃金を上がる施策が大事だというのは、わかりやすい。その一例が都市部の地価をあげて、都市部に人口を集中させ、サービス業(宿泊・飲食)を振興させる「おしくらまんじゅう政策」は面白い。著者が、病気で倒れられ、執筆が出来なくなってしまったいうのは残念。

  • Kindle版にて読了。

    いわゆるアベノミクス本の一つに数えられるのでしょうが、著者が展開する議論は典型的なリフレ賛成論/反対論とは一線を画しています。
    タイトルにもある通り、著者の議論は賃金にフォーカスされています。
    著者が最も問題視しているのが「男性・大企業・正規雇用・長期雇用」のグループに属する層と「女性・中小企業・非正規雇用・短期雇用」のグループに属する層の間の賃金格差。
    本著の中でも明言されているように、著者は公平性の観点から賃金格差を問題視ししているわけではなく、あくまで日本経済の景気回復を実現することを目的とした場合に、賃金格差を縮小して消費性向の高い層にお金が回る状況を作ることが肝要であると主張されています。

    一般にリフレ政策の波及効果のルートは、金融緩和→インフレ期待→設備投資・消費増→賃金増→…と説明されるわけですが、著者は金融緩和が資産バブル・資源バブルを引き起こすことに懸念を示します。
    そしてそのバブルが国内で起こればまだしも、どこで発生するかは制御できない、と。
    2000年代中盤に日銀が金融緩和を進めた際には、円キャリー取引を通じて資金が資産市場や資源市場に過剰に流れ込んでバブルの要因となり、日本の企業は資源価格高騰によるコスト増を賃金を抑えることにより乗り切ることになった教訓から、アベノミクスによる強力な金融緩和がむしろ賃金デフレを惹起させるリスクを指摘します。

    そして、リフレ政策が標榜するインフレ目標の定義について十分な議論や説明がされていないことについても批判されます。
    インフレは全ての人に須らく平等に影響を与えるわけではなく、子育て世代に過大な皺寄せを与える危険がある、と。

    ということで、著者はリフレ政策を積極的には支持していないのですが、もしどうしても金融緩和を進めるが前提なのであれば国内で不動産バブルを起こす方向で政策を動員してはどうか、という提言がされています。
    都市部に不動産バブルを起こしてサービス業を集積させることで、雇用が生まれ、賃金を上げることができる、と。

    正直、最後の提言部分についてはあまり腹に落ちなかったのですが、序盤から中盤にかけての経済状況や金融政策の仕組みについての解説部分は非常に丁寧で解りやすく、これまで得た知識を整理するのに役立ちます。
    使われている図表・グラフも著者オリジナルにデザインされていて見やすく、解りやすいし。

    ただ、これだけ状況把握と解説が解りやすいにも関わらず結論(提言)がモヤモヤっとしているということこそが、問題の根深さを示しているような気もします。
    結局のところ「何が問題の本質であるのか」についてのコンセンサスが全く無いままに、いろんな人がいろんな切り口で主張をしているのが、アベノミクスを巡る議論の実態のような。
    例えば、著者は「公平性の観点で賃金格差を批判しているのではない」と言い切ってしまっていますが、一方で公平性が失われていることこそが問題であるとする立場の人も多くいるし、説得力もあったりするわけです。

    議論を整理する一助となるという点ではとてもいい本だと思うんだけど、なんだかやっぱり先は見えてこないのです。

  •  今年四月に出版されたばかりの本書は基本的に時事ネタなので、すぐ読まないと陳腐化するだろう。扱っているのは端的に言ってアベノミクスの将来予測だ。ただし、成功するかしないかを他人事のように語るのではなく、成功させるためには何が必要か提案している点は読むと価値がある。

     様々なデータを示して自説を展開しているので説得力はある。しかし興味深いのはバブルに対する評価だ。一般的にバブルは「良くない状態」の代名詞のように語られるが、著者はバブルを必ずしも悪いものとは捉えていない。そもそもバブルかバブルでないかは結果論、つまり膨れ上がった資産をその後の持続的な経済成長に繋げられたか否かで決まることだと主張する。

     言われてみれば確かにそういう見方はできる。例えば戦後日本の高度経済成長は朝鮮特需をきっかけに始まったことは周知の事実だが、もしそれが一過性の好景気で終わっていたら、朝鮮特需もまたバブルとみなされていただろう。

     アベノミクスはバブルを生むかもしれない。それ自体は悪いことではない。大事なのはその後、私たち国民がそのチャンスを活かすか、それとも浮かれて騒いで終わりにするか、どちらの道を進むかということだ。それは政治の問題ではなく、産業界と国民の問題なのだ。

  • 言いたいことは分らないではないのだけれど、如何せん自分の主張に都合の良いデータを冒頭から繰り出しすぎという印象が強かった。それ故に、逆に警戒しながら読んだ。筆者の主張は男・大・正・長への賃金の配分が偏っているので、その是正により景気が変化するというもの。でも、そんな単純な話ではないような気がして仕方ないのは私だけだろうか?

  • 日本は世界一の債権国なので金はある。解決方法もなくはない。しかし、患者が治療に協力しなければ医者でも病気は治せない。既得権益を一掃して、副作用があろうとも移民を入れるのが一番効果的なのは、わかるが、未だに同質性を重んじる日本人がそれを許すとは思えない。「移民なんぞ入れたら“日本”が“日本”じゃなくなる」と保守的な老人が言うならまだわかるが、若い人でもそういうことを言う人が結構多くて失望することがある。
    効果的な方策を実施せず、みんな仲良くボッシュートがいいなら、さっさと破綻して、日本2.0として生まれ変わった方がいいと思うのは私だけだろうか。

  • 日本では「男性で、大企業に就職していて、正規雇用ののかたちで、長年働いている人」は、高い所得を得ることができるが、この「男・大・正・長」のどれかが条件が外れると、主要先進国中で一番落差が大きな賃金格差に直面する、その格差拡大こそが不況を深刻化させた原因のひとつとして、日本経済、日銀を検証し、アベノミクスに転換を迫る。

    提言としては、アベノミクス三本の矢である「インフレ目標を設定しての金融緩和、公共事業拡大を中心とした財政政策、産業の成長戦略」を「金融緩和を日本の都市部の不動産価格の上昇に繋げる、公共事業はできるだけ都市部に集める、そして都市部でのサービス業を成長発展させ、「女・小・非・短」の賃金を上昇させると説く。

    人口密度が高いところがサービス業が発展するのはもっともな話、個人的には良いと思うのだが、「田舎を切り捨てるのか(怒)」などと反論も多そうですね。また、東証REIT指数も三月末決算での利益確定以降下がっているのが気になります。

  • ちょうど"結局賃金上昇がないと景気回復しないよな"と考えていたので、タイトルを見て即購入。
    賃金も総額の上昇だけでなく格差解消が必要としている。それは、高所得者より低所得者のほうがお金をより使うからだ。
    またアベノミクスは成功の条件はなかなかシビアなのではと感じた。
    そもそもGDPなどのどの経済指標を見るかにより大きく異る。
    著者の経済政策の"都市に人を集めてサービス拡充を"は興味深い。
    とにかく経済もしっかり事実を見なくてはならない。

  • アベノミクスの影響考察と提言も含め、非常に説得力のある内容。
    1つだけ腹に落ちなかったのは、「低所得世帯ほど可処分所得を消費に回す率が高いから、そのグループにお金を回すべき」という下り。お金を回すとその比率自体が下がってしまう気もするので(貯金を始める)、ちょっと乱暴過ぎる気もする。

  • この本に書かれているような、すぐには効果が現れない政策が歓迎されることはないのだろうな。

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著者プロフィール

エコノミスト

「2016年 『学校では教えてくれない経済学の授業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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