父として考える (生活人新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • - 子どもを育てるとは、結局は子どもがいかに勝手に育っていくか、自由にその能力を開花させるか、その環境を整えることに尽きる。
    - 大人の場合は結局、いくら引っ越しを繰り返したとしても、それぞれ「かつて住んだ場所」のひとつにすぎない。いまある場所に根を下ろしていたとしても、潜在的にはいつでも動ける。唯一の場所にならない。ところがうちの娘にとっては、いまたまたま住んでいる「この場所」が原風景になってしまう。それは一生の中で特別な経験を構成する。親にとっては流動性だと感覚されているものが、子どもにとっては流動性ではない。この「世界観のギャップ」は重要だと思いました。
    - 実際には、ピアノを習わせれば、そのぶんその時間に 育めたはずのさまざまな可能性、人間関係でもなんでもいいですが、経済用語でいう「機会費用」を失うことになる。いかなる選択肢も他の選択肢の犠牲の上で成立しているわけで、そこは慎重に考えたいと思います。
    - そもそも育児か仕事か、というのはあまりに単純な二項対立です。現実に目を向ければ、仕事でも人生は充実するが、育児でも充実するし、そもそもどんな人生でもなにかしら充実は達成できる、それが真実という他ない。
    - そもそも学歴や資格は、どこに行っても通用するけれど、そのぶん薄っぺらな数字でしかない。裏返せばそれらの数字は、本来の固有の才能が 華 開かなかったときのためのリスクヘッジの道具でしかない。人生というのは、それぞれの人間の固有のものなので、定式化できないところに豊かさがある。それがなかった場合、仕方がないから呼び出すものとして学歴や資格がある。そう考えるべきです。学歴は、なにかを達成するためのステップではなくて、なにかを達成できなかったときに、しかたなくしがみつく緊急避難先としてあるべきなんですよ。
    - 教えられるほうもそうです。教えてくれる仲間をリスペクトする。こういうやつになりたいなと思う。そうした「感染動機」こそが、勉強でも仕事でも、ひとをあと押しするエンジンになるんです。
    - 親は子どもにじつにたくさんのことを教えます。けれども、子どもが本当に学ぶのは、僕が教えている内容ではなくて、僕の形式、僕の無意識なんですね。そしてそれは親自身にとってはもっとも見えないものであったりする。だからこそ逆に、親にとっては子どもは勝手に育っていくようにしか見えない。そこでは本当は「親の無意識と子どもの無意識の共同作業」が起きているのだと思います。
    - 人生の必然性は自らつくっていくものであって、そのためにはどこかで必然性に 囚われない決断を下すほかない。だから逆に、いちど決断したからといって、それに囚われる必要もないはずなんです。
    - 女の子だけじゃなく男の子にとってもバックドア問題は重要です。わかりやすく言えば「困ったときに助けてくれるひとがいるかどうか」なんです。「だれかに助けてもらえるかどうか」は「だれかを助けてあげられるかどうか」と表裏一体です。「愛されるかどうか」は「愛せるかどうか」と表裏一体です。  シンプルと言えばシンプルなことで、「自分が幸せになろうと思えば、ひとを幸せにするしかない」「ひとを幸せにできる人間しか、幸せにはなれない」という基本公理です。
    - 子どもは知識やしつけから学ぶのでなく、体験から学ぶということです。体験から学んだ子だけが、知識やしつけを幸せのために役立てることができます。なぜか。理由は簡単です。「ひとを幸せにできるひとだけが幸せになれる」ことを学ぶからです。これを学べない子が幸せになることは、絶対にありません。

  • それぞれ娘を持つ東浩紀、宮台真司の「子」をテーマにした対談本。
    急速に個人化=孤独化していき、その拠り所を経済的自立にしか注目しない現代日本社会において、子どもを持つことをきっかけにし、複数のコミュニティのグループワークの力と、家族・居場所=ホームベースの確保をすることによって、相互扶助のネットワークを構築する重要性を説く。
    "父親にとっては母親をサポートすることが最大の協力だということです。子どもを育てるのはまずは母親で、その母親をサポートする人間として自分がいると割りきったほうが男親として効率がいい。"
    "三〇年くらい前までの産業資本主義社会あるいは前期近代社会──呼び名はなんでもよいですが──においては、労働者が売るのは技能であり知識だった。そして知識や技能の差は、公教育で埋めることができる。ところが、情報資本主義あるいは後期近代社会あるいは再帰的近代社会に入ると、コミュニケーションの能力が直接に資本に結びつくようになる。そしてその傾向はネットの普及によってますます加速し全面化している。"
    "ひとは「偶発性」にさらされるほど、「恣意性」を意識せざるをえなくなる。そして「恣意性」を意識せざるをえなくなると、動かない土台の上に自分を構築したがるひとほど「不安」になる。そして「不安」になるひとほど「必然性」を求めるようになります。 "
    "どうもいまの日本には「いちど失敗したらすべておしまい」みたいな思想が蔓延している。そしてその裏返しとして、運命信仰、必然性信仰といった「純粋主義」も根強い。しかし、子どもをつくるとは、まさにそういう純粋主義がフィクションであることを実感する経験ではないか。つまり純粋主義の外に連れ出してくれる経験なのではないか。"
    "わかっている人間同士で相互扶助のネットワークをつくってリソースをシェアしていくしかないということです。"
    "「ものごとをわかっているひとたちだけの島宇宙」を周囲から分断し、その内部で有効な実践的実績を積み上げた上、この分断が顕在化するように外部に喧伝するわけです。そうすれば、だれが馬鹿で、だれが賢明なのかがハッキリし、ロールモデルの学習が進むことになります。こうした「小乗を通じた大乗」しかありえないだろうと思います。"
    "複数のコミュニティへの所属は大切です。ある島宇宙ではトップだけど、別の島宇宙だとボトム。自分はできると思っていても、別のグループに行けばまったくできない。「世の中そんなものだよ」と教える絶好のチャンスです。"

  • 学歴よりコミュニケーション能力

  • 子供について、日本の社会について語った対談本。

    学歴よりもコミュニケーション能力が重要で、人と愛し合えないと幸せになれませんよ、といった感じ。

    2人の自分の子供の考察の部分も面白かった。子供居ませんが(ってか独身ですが)、子育てしてみたくなりました。

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著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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