荒天の武学 (集英社新書) [Kindle]

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  •  折り返しにある本書の紹介文に、書名の意味が端的にまとめられています。

    《武術において想定外は許されない。不意の事態に際して、最適な答えを常に求められるのが武術本来の在り方だ。その精神は危機の時代、先が読めない荒天の世にこそ真価を発揮する。…》

     本書で面白いのは、韓氏意拳の光岡先生のエピソード。
     冒頭、ハワイではいきなり金的を蹴ってくるので、日本武術の「お約束」が通じないという話にも軽い衝撃を受けました。が、フィリピンの首狩族の話や、同僚が顔を銃で吹っ飛ばされたというアメリカの元警官の話など、次々出てくるエピソードの数々。そのどれもが一々ぶっ飛んでいて衝撃です。
     光岡先生のエピソードを読むだけでも十分元が取れる、と言って過言ではありません。

     若い頃から「お約束」の通じない海外で武術指導をしてきた光岡先生。その経験から紡ぎ出される言葉には、内田先生の言う「身体実感」が籠もっており、リアリティがあります。
     そういう意味では、対談本ではありますが、内田先生をインタビュアーとして見立てた光岡先生のインタビュー本として読んだ方が楽しめるように思います。実際、光岡先生の話を引き出すという意味では内田先生もかなり良い仕事をしていますし。

     ただ、光岡先生の言葉が、リアリティの籠もった非常に興味深い話に溢れているのに対し、内田先生の発言部分は正直見劣りすると言わざるを得ません。そこが個人的には残念でした。
     そしてもう一つ、内田先生の発言が、時に裏付けに乏しかったり、ズレた批判をしていたり、ご自身が批判対象に向けた言葉と同じ事をしている部分(原発問題や大阪市の刺青職員問題、ネトウヨ批判など)は読んでいてものすごく違和感を覚えました。

     少し否定的なことも言いましたが、光岡先生の話は超絶的に面白いですし、それを上手く引き出している内田先生のインタビュアー的対談相手も成功しています。
     韓氏意拳、武学、光岡先生について興味のある方には断然オススメの一冊です。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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