今から30年くらい前、私が高校生の頃、大学受験用の現代文でしばしば取り上げられていたのが本作「ゾウの時間 ネズミの時間」でした。生物学って面白いやんか!と感動したことを覚えています。もっとも、数式も結構出てくるので、数Iで数学に挫折した私には読みにくい文章であったことも印象に残っていますが。
そんな本書を通読するのは初めてでしたが、非常に面白かったです。
動物の妙、と言うのでしょうか、生物の構造、行動圏、食餌等と生物の大きさに相関があることを明快に示している点に感銘を受けました。
動物のサイズともう一つの要素(例えば生活圏、例えば食事量)を数式でとらえて、これを各動物ごとにプロットすると綺麗な右肩上がりのグラフを示されると、これはもう首肯せざるを得ません。
著者の発見ではありませんが、「島の規則」は今読んでも印象的です。
これは、島という限られた環境だと、捕食者の心配が減じるため、大きい動物は(虚勢をはって?)大きくなる必要性がなく小さくなり、また小さい動物は捕食されづらいことから、それまでよりも大きいサイズを得られるというものです。こうした見方を人間にも適応できるとかできないとかいう話ですね。
あと、動物のエネルギー変換の効率性の話がおもろかった。
一般に恒温動物は効率は悪いそうです。本文例ですと、10トンの干し草があり、500kgの雄牛2頭に食べさせても、2kgのウサギ500匹に食べさせても、結果は同じになるそうです。つまり、種類に関係なく0.2トンの新たな肉と、6トンの糞の山。
ただし食い尽くす時間はサイズによって違っており、牛は14か月、ウサギは3か月。つまりウシの肉を食べるということは非常に効率の良くない、ある意味高級(時間をふんだんにつかった)肉を食べることになります。肉を早く作りたい場合は小さい動物の方が成熟が早い。
こういう、いちいちなるほどとうなずいてしまうトピックが沢山ありました。
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世の中には生物が満ち満ちています。
それを普段は殆ど気にすることもないのですが、その一つ一つが環境や生態系に合目的な行動や構造をしているのは驚異ですらあると思います。
本書はそうした生物の妙に加え、そのサイズが規定される要因と理由について優しくかつ興味深い議論を展開しています。
大人にはもちろん、中学生くらいからの学生さんにも読んでもらいたい本です。私は本書を読んで、来世は生物学者になりたいと思いました笑。