- Amazon.co.jp ・電子書籍 (141ページ)
感想・レビュー・書評
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静謐でしっとりとした美しい文体と、交錯する時間軸による巧みな場面展開が強く印象に残る作品。
たった10時間程の夜の南米大陸を舞台に、夜間の郵便空輸事業に携わった人々のそれぞれの姿を描いています。
本社があり、欧州への積み替え地点でもあるブエノスアイレスを目指して、パタゴニア、チリ、パラグアイという南米に散らばるそれぞれの地域から、夕暮れの時間になって夜の世界へと飛び立つ、三人の若いパイロットたち。
パイロットたちの安全と、危険を伴う事業の成功のため、常に厳格な規律と懲罰をもって社員たちを律する老社長。
社長の厳しい命令を忠実に遂行するしかない、少々愚鈍な監督官。
南米各地からの便が到着すれば、すぐさま欧州に向かう便を操縦することになっているパイロットと、危険に踏み出す夫を見送るしかない妻。
そして、悪天候ゆえに行方不明になったパイロットの夫を絶望の淵でただただ待つしかない、新婚六週間の若妻。
同じ時間に夜空を飛んだパイロットたちの運命は残酷にも分かれます。
最初から最後まで平穏な飛行を終えて到着する者。
悪天候に巻き込まれ、恐怖に突き落とされながらも、運良く生還を果たす者。
悪天候に巻き込まれたまま、行方が分からなくなる者。
登場人物それぞれの内省と秘めた孤独、危機を迎えた際の悲壮な姿が、切り替わり続け、時間軸が交錯する場面展開の中で、夜の闇の静かな描写と絡まりながら描かれていきます。
後半の時間軸が少々入り組んだ複雑な構成は、時々頭を混乱させましたが、それでも、始終一貫した文体の美しさと、心の機微を短くも的確に捉えた哲学的な描写、速い展開が素晴らしく、一気読みしてしまいました。
「星の王子さま」(1943年)で知られる、フランスのパイロットにして作家のサン=テグジュペリが、1931年に31歳で発表した作品です。
(余談ですが、切り替わり続けるのに無駄なく流麗につなぎ合わされた場面展開に、同じフランス出身の映画監督クロード・ルルーシュの作品が思い浮かびました。)
このような作品を発表したサン=テグジュペリ自身が、1944年には偵察飛行のために飛んだ地中海沖で行方不明となって帰らぬ人となるのだから、運命とは皮肉というか、当時のパイロットという仕事がどれほど危険と隣り合わせのものだったのかがよくわかるというもの。
そういう意味では、フィクションでありながら、ルポタージュ的な要素もありますね。
読後、余韻に浸りながらも色々なことを考えた作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
巻末の解説を読んで、どういったことが作中で起きていたのか理解した・・・という自身の読解力が泣けてくる(笑)サン=テグジュペリは「星の王子様」しか読んだことなかったので、これを機に他の著作を触れていきたい。
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まだ、夜間飛行が非常識な行いと考えられていた時代。夜間飛行の意義や必要性を認識し、人々の意識を転換するために自ら実行しつつ突き進んだ経営者の物語。こう書くとドキュメンタリーみたいだけど、そうじゃない。素晴らしい小説。
最初は冷徹な経営者のようにも見えるけど、実は仲間の意思を強く尊重し、彼らの努力を無駄にしないために戦う人。耳を疑うような冷静な判断も、前へ進む、みんなを前へ運ぶためのもの。
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サン=テグジュペリの飛行士シリーズ。当時は今以上に危険であった飛行、それも夜間飛行の商業化に挑む男たちの物語。描かれるのは勇敢さであり神聖さであり、徹底したヒロイズム。客観的に見れば、男のプライド、と表現されてしまうのかもしれないけれど、そういう次元を超えた崇高さを感じる。
すごく心が揺さぶられる。 -
含蓄の深い小説だった。また時間をあけて読みたい
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小説それ自体ももちろん面白いのだが、解説が簡潔であり、この読書体験をより豊かなものにしてくれる。解説を読んだ後に該当ページを読み返してみるのも良い。
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地理や飛行機事情に明るくないのもあり、なかなか情景を思い浮かべながら読むのが難しかった一方で、登場人物の内面(主に空虚な感情の部分が)には共感しながら読めたと思う。久々に小説が読みたいと思って読んだけど、「久々」の人間には難関だったな……
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昨日閉館した箱根の「星の王子さまミュージアム」での展示も思い出しつつ読書。
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「ふと手に取って、そのまま一息に読んだ本です。生と死、使命、地上で空を飛ぶ人を思う気持ち。しみます。」
(読んでいる間、音も時間も止まった本)