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感想・レビュー・書評
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ブルータスがシーザー(カエサル)暗殺の野心をひそかに秘めていたところ、キャシアス(カッシウス)に焚きつけられて、ついに実行に移すところが『マクベス』と似ている。
マクベスがダンカン王を暗殺する道もあると考えはじめたところへ、夫人や魔女が同じように予言したりそそのかすという展開だ。
こういった親しい人間の「そそのかし」によって身を滅ぼす展開を読むと、個人的にはいつもドストエフスキーの『悪霊』、それから『カラマーゾフの兄弟』を思い出す。
『悪霊』では対岸の火事をぼんやり眺めて見過ごすスタヴローギンや、シャートフ殺しを教唆するピョートルが出てくる。
悲惨なことが起きるとわかっていながら「黙過」し、自分自身は手を汚さず他人に凶行をそそのかす「教唆」の場面だ。
「黙過」と「教唆」による罪の"そののかし"は、キリスト教的な価値観ではもっとも冒涜的な犯罪だと位置づけられている。(と解説にあった)
『カラマーゾフの兄弟』ではミーチャの父親フョードル殺しを、結果的にそそのかしたイワンがそうだろう。
またアントニー(アントニウス)がシーザー暗殺の直後に民衆の心をひっくり返すたくみな演説をする場面。
ブルータスを直截に批判せずに、シーザーの死を忠臣らしくドラマチックに悼んで見せる。
ちょっと心をゆさぶる熱い演説をぶっただけで、コロコロと判断を変える無定見な群衆の愚かさは、現代の日本の有権者と大して変わりない。
愚かな人物に投票し、その誤審のツケを結局は大衆が払うということも同じだ。
一方演説をぶつ権力者側にも演技力が求められる。
頭の中では先々の打算、ブルータスの排除やその先のオクタウィアヌスとの対決を考えつつも、表向きはカエサルの悲運を本気で悼む、良きローマ市民になりきる。
このような迫真の演技力が必要だという話はマキャベリの「君主論」にも出てきた。
日本史で言うならば羽柴秀吉が明智光秀を討つべく、中国大返しという壮大な忠臣の『演技』をした場面が思い浮かぶ。
主君信長のために本気で怒りつつも、この好機を逃さず京都へ舞い戻って光秀を粛清し、俺こそが天下を取る、と算段していた場面のようでもある。
脚本的には次世代リーダーアントニウスの登場を予感させるものの、その後ブルータス討伐軍の布陣をめぐって早くもオクテヴィアス(オクタヴィアヌス)との微妙な権力あらそいが始まる。
史実ではやがてクレオパトラと共に敗れるアントニウスの、不穏な未来を予感させた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シェイクスピア作品の中ではさほど有名ではない印象だが、なかなか面白い。
シェイクスピアはなぜジュリアス・シーザーを取り上げたのだろうか、と不思議に思っていたのだが、wikipediaに回答がそのまま書いてあった。
多くのシェイクスピア評論家と歴史家が、この劇が王権の継承についての当時のエリザベス朝イングランドの一般的な心配を反映していると考えている。すなわち、この作品が創作・上演された時期、イングランド女王エリザベス1世は、高齢でありながら、後継者を指名するのを拒否していた。そのため、彼女の死後、ローマと同様の内戦が起きるかもしれないという不安が持たれていた。
wikipediaジュリアス・シーザー (シェイクスピア)
タイトルは「ジュリアス・シーザー」だが、実際の主人公はブルータスだ。彼が同僚のキャシアスに説得されてシーザーを暗殺、その後の顛末が描かれる。シーザーは比較的早い段階で暗殺される。しかし、最後まで物語の中心にいるのはシーザーだ。ブルータスをはじめとして、シーザー以外の人物は比較的地味だ。それは本作があまり有名ではない一因だと思うが、物語の展開上必要なのだと思う。そのあたりはおそらく作者も理解していたと思う。それは、後半、シーザーの亡霊が登場するあたりから推測される。亡霊が出てくる割には、そのあとの展開にさほど役立っていないのだ。物語が地味だから、亡霊としてでもシーザーを登場させて、劇に華を持たせようとしたのだと思う。
それはともかく、シーザーの死後、内戦がおこり、「ゲーム・オブ・スローンズ」みたいに、メインキャラがどんどん死んでいく。上記のwikiからの引用にあるように、エリザベス女王の死後に内戦が起こるのではないかという不安が反映されていることと、シーザーというカリスマの死後、ローマを牽引するだけの力がある人物がいない、という構図が重ねられているのだと思う。
本作は言葉の力が物語の進行を左右する。
ブルータスはキャシアスに言葉で説得されて、シーザーを暗殺する。そのあとで、ブルータスは群衆を言葉で説得し、暗殺を正当化する。そのときは納得した群衆だが、直後にアントニーという人物が演説をはじめると、ブルータスたちに牙をむく。
こういった言葉の力の面白さや怖さといったものが、本作の面白さだと思う。
登場人物はほとんどが既婚者で、それぞれの妻は夫を思いやってアドバイスをしたりする。夫たちは、妻に対して「お前の言う通りにしよう」と答えるのだが、たとえば仲間が「決断せよ!」みたいなことを言うと「もちろんだ!」といって立ち上がり、妻との約束は反故になる。ほとんどの登場人物が似たり寄ったりのやりとりをしており、こういうマッチョな感覚というのは時代性なのかなと思う。
シェイクスピアはやっぱり面白い。
昔はとっつきにくくて、読みはじめても途中で放り出したりしていたものだが、最近は翻訳が複数出ていて、自分が読みやすいものを選ぶことができるようになった。
これからもシェイクスピアは継続的に読んでいこうと思う。 -
ブルータスお前もか
しか知らなかった話の全容が掴めた -
Shakespeareによるジュリアス・シーザー。
ローマが生んだ唯一の創造的天才と言われたカエサルである。
本書を読むには多少の教養が必要である。
少しローマ史を勉強してから読むべき。 -
2018.12.19(図書館)
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あまりにも有名な「古典」だが全く古びない。
煽動されやすい民衆と、
情緒的にコントロールしようとする指導者は
途切れることなくいるから。
解説にある通り、歴史的事件を描きつつ、
本筋に関係ない、喧嘩や夫婦の会話の置き方が
作品として興味深い。
巻末の年表によると、ほとんどの作品を
四十台前半までに書いているシェイクスピア。
スゴイ… -
シェイクスピアが心理描写に傾斜し出した頃の作品。